ヘルスケアエクスペリエンスに取り組む

患者さんの経験価値向上の取り組みでは、デザイン思考(デザインシンキング)のアプローチを採用します。デザイン思考は、人間中心の視点で創造的に問題を解決するアプローチで、企業ではイノベーションを生み出すアプローチとして浸透しています。アップル、グーグル、サムスン、ナイキなどで数多くの革新的な製品・サービスを生み出した企業で活用されているだけでなく、メイヨークリニックやカイザーパーマネンテなど、多くの先端的病院でも活用されています。

デザイン思考を進める上で、ポイントが3つあります。人間中心、チームワーク、プロセスの3つです。

1つめの人間中心は、デザイン思考の核となる考え方です。問題解決のアプローチには、技術中心、ビジネス中心、そして人間中心の3つのタイプがあります。技術中心アプローチは、技術を開発して問題を解決しようとするアプローチ、ビジネス中心アプローチは自社のビジネスのやり方で問題を解決しようとするアプローチです。

それらに対して、人間中心アプローチは、人々が求めていることを深く理解し、問題自体を捉え直すことによって問題を解決しようとするアプローチです。ヘルスケア業界ではすでに患者中心医療という考え方がありますが、人間中心アプローチは、患者さんだけを問題の対象とするのではなく、患者さん以外に関わっている人々との関係の中で問題を捉え直していく点が、従来の患者中心医療とは異なります。

2つめのチームワークは、デザインシンキングに求められるマインドセットです。デザインシンキングでは、医師、看護師、検査技師、患者さんやその家族、医事、設備、広報、財務等の担当者など、部門横断でチームを編成します。専門性の異なる多様なメンバーが参加することで、複眼的に問題を捉え、多様なアイデアを生み出していきます。そのためには、役割や立場を超えて、フラットに意見を交換しあえる場づくりが重要になります。チームワークを育むことで、取り組みに対する所有感が生まれ、より高い生産性を発揮するようになります。

3つめのポイントがプロセスです。デザイン思考は、大きく観察/共感、問題定義、アイデア創出、プロトタイピング、検証の5つのプロセスで構成されています。【図:1】

【図:1】スタンフォード大学d-schoolデザイン思考のプロセス

まず、取り組むべきテーマを設定します。「どのようにすれば患者さんの待ち時間を減らすことができるだろうか」「どのようにすれば患者さんが訴える痛みを適切に診断し、理解することができるだろうか」「どのようにすれば患者さんがリハビリを継続することができるだろうか」など、患者さんにとって重要で、未充足なテーマを設定します。

次に、テーマに沿って、患者さんや関与スタッフの観察やインタビューを行います。患者さんの行動やその背景の状況を深く理解しましょう。共感を使って現場に没入することで、普段は意識することのなかった様々な問題に気づくことができます。さらに観察やインタビューを重ねていくと、問題を生み出している重要なパターンが見えてくるようになります。

パターンに沿って、患者さんをタイプに分ける、患者さんのゴールを定義する、患者さんの体験をマップ化する、患者さんや関与者の関係をマップ化する、問題を生み出しているプロセスをチャート化するなど、観察やインタビューで得た気づきを統合し、解決すべき問題を定義します。この段階で、取り組むべき問題が当初の想定から大きく変わることもあります。

定義した問題に焦点を当てて、アイデアを出し合います。フレームワークや発想ツールを使ってアイデアを量産しましょう。アイデアを分類し、候補を選んだら、素早くプロトタイプを作って患者さんなど実際に使用する人が評価できるようにします。プロトタイピングは、検証すべきことが明確になっていて、それが検証できるモノを作ることがポイントです。はじめの段階では、手描きのスケッチなど、簡単なものでも構いません。

プロトタイプができたら、それを使って検証、改良を繰り返しながら解決策をまとめ上げていきます。検証では、いかに早く、たくさん重要なことを学ぶかがポイントになります。解決策を実現する上で影響度が大きく、不確実性の高い仮説から順に検証していくようにしましょう。

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