患者さんにとって優れたエクスペリエンス(経験)とは

患者さんの経験とは、体験を通じて患者さんの心に刻まれる考えや気持ちです。優れた患者さんの経験は、「疾患を治す」といった機能的な価値だけではなく、体験を通じて意味や感情といった情緒的な価値を提供します。

患者さんが求める意味や感情を提供するために、優れたエクスペリエンスでは、患者さんの経験全体に対象範囲を広げます。患者さんは、医療行為そのものの良し悪しを判断することはできません。一方、患者さんはあらゆる接点で五感を介して無意識のうちに何かを感じ、何かを想像します。医療行為に対する「安心感」や「信頼感」といった感情の多くは、医療行為の周辺での体験によってもたらされているのです。受付の明るさ、診察室のレイアウト、スタッフの動き、床の色や質感、検査室の匂い、検査機器の音などはすべて、患者さんの経験の対象になります。優れた患者さんの経験では、それらの接点が患者さんが求める意味や感情に沿ってデザインされています。

患者さんが経験されるあらゆる接点から、優れた経験を提供するということは、サービスの提供中だけではなく、提供前や提供後も含めて患者さんにとってスムーズで一貫性のある体験にするということでもあります。スムーズで一貫性のある体験は、患者さんに「快適感」や「安心感」を与えるだけではなく、「自分のことを理解してもらえている」「自分はうまくできている」といった自己肯定感を高めます。スムーズで一貫性のある体験を提供するためには、多職種が患者さんについての理解を共有することが必要になります。

また、経験全体を対象にするということは、「患者さん」としてではなく「人間」として患者さんを捉えるということでもあります。「患者さん」という枠組みで考えると、サービスの目的は患者さんの健康で、何のために健康になるのかといったことはサービスの範囲から外れます。しかし、「人間」という枠組みで考えると、患者さんには「オシャレな人間でありたい」「家族と仲良く暮らしたい」「他人から愛されたい」「立派な人間だと思われたい」「誰かの役に立ちたい」といった「人間」として求めていることがあります。優れた患者さんの経験では、患者さんの夢や生きがい、信念、価値観、不安、恐れといった「人間」としての側面に寄り添いながら、患者さんの「健康」を支援します。

「人間」としての患者さんをサポートするということは、単なる受益者として患者さんを扱うのではなく、共創者としての患者さんの側面を尊重することでもあります。サービスの対象を患者さんの経験全体に広げると、患者さんは単に医療行為を受ける受け身の存在ではなく、そこで何が起こり、何に困っていて、今どのように対処しているのかといったことを熟知している経験のエキスパートとして捉え直すことができます。患者さんには、自分自身の体験をよくするためのアイデアがあります。優れた患者さんの経験は、患者さんとの共創の中で育っていきます。

                    
従来の考え方患者さんの経験の考え方
提供価値 機能 意味や感情
デザイン対象 医療行為 経験全体
患者さんの捉え方 患者さん 人間
患者さんの役割 受益者 共創者

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