HX Interview:医療サービスにおけるコ・デザイン。トリガーとなるツールの重要性


オハイオ州立大学デザイン学部准教授エリザベス・サンダーズさんに聞く

エリザベス・サンダーズ

オハイオ州立大学デザイン学部 准教授


取材日:2018年7月25日
取材・文/Noriko Takiguchi
撮影/Mikaila Burns

ユーザーや関係者を巻き込んで課題に取り組む方法論であるコ・デザインの先駆者であるサンダーズさんは、現在医療サービスを専門に手がけています。その方法論には多くの示唆があります。

コ・デザインの場、コ・デザインの人々

Qユーザーや関係者と一緒にサービスや製品、そして施設のデザインを考える「コ・クリエーション」、「コ・デザイン」の専門家として活動されてきました。そして、最近は医療サービスにおけるコ・デザイン・プロジェクトを多く手がけておられます。

A

これまで数え切れないくらいの医療サービスのプロジェクトを手がけてきました。特にここ10年は、医療サービスが専門になっています。どんなものがあったのかを、表にしてみました。医療サービスが起こる場所では、家庭、診療所、大病院、ICU(集中治療室)があり、またユーザーには一般利用者、高齢者、自閉症患者さん、糖尿病患者さん、LGBTQ(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア)、認知症患者さんなどがいます。ユーザーは、コ・デザインを一緒にやった人々で、最近は一般利用者よりも特別な必要性を抱える人々との作業が多くなっています。彼らのニーズがまだまだ満たされていないからです。また、ほとんどのプロジェクトに、医療サービスを提供する側のスタッフが参加者として加わっています。いずれにしても患者さんへのフォーカスが高まっている背景には、患者さんが医療体験を採点し、その結果が医療費払い戻しの評価につながるようになったからです。

表

Q実に多様なユーザーとの共同作業を行っているわけですね。

A

現在、ノルウェーの医療コンソーシアムに呼ばれて行っているプロジェクトは、家と診療所や大病院を結びつけることに焦点を当てたものです。医療サービスを変革することを目的としたコ・クリエーションで、医療関係者、大学関係者、デザイナーなど20ほどの組織から30〜40人が参加しています。ですから、医療サービスを考える場所も病院に限らなくなっています。

Q アメリカでも医療機関以外でのプロジェクトを行ったことはありますか。

A

昨年、支援・介護付き高齢者集合住宅(CCRC)のプロジェクトを、ここオハイオ州立大学の大学院生らと一緒にやりました。州内にいくつもの施設を持つ『オハイオ・リビング』という集合住宅で、その中でも近隣の施設で行ったプロジェクトでは、75〜90歳の独立心旺盛な住民たちと学生が一緒にコ・デザインをしました。トピックはこちらから提案するのですが、住民たちの意見を聞くうちに変わっていきました。

Q話を聞いて、何が本当に必要とされているのかが具体的にわかるのですね。

A

そうです。例えば、あるグループは当初、高齢者が地元コロンバス市を楽しめるような方法を考えようとしていたのですが、住民と話しているとどうしても車を運転すべきでない人の話題が出てくるわけです。そして、高齢者に運転を諦めさせることがどんなに難しいかということに気づく。そこで、高齢者の伴侶や子供が、運転について本人と話し合いをする際に使える本を書くことにしたのです。

Q車社会のアメリカで運転を諦めるのは、行く道を阻まれるようなことでしょう。

A

本は、住民と学生が毎週ワークショップを行って作りました。そこには「こんな風に見えると、視覚に問題があります」といった風に、全ての感覚器官についての説明がある。さあ、決断をして下さいと迫るのではなく、話し合いをするための項目を挙げているのです。そして最後に、もし運転をやめたら薬局からどうやって薬をもらえばいいのかなどの解説もついています。

Q非常に細やかに考えられていますね。

A

コ・デザインでは、このようにトピックが変わることは頻繁にあります。実際に取り掛かると、本当に必要なのは何かが見えてくる。そして、この住民らは他の住民に役立つものを作りたいという意思があったのです。

Qここでの他のプロジェクトにはどんなものがありましたか。

A

別のグループは、「パスポート」という名前の小冊子を作りました。この集合住宅が建っているエリアの随所を紹介して、そこを回るたびに「ここにも行きました」とチェックを入れる仕組みです。ここにはアートスタジオもあり、その様子が写真で掲載されています。パスポートを使って全ての場所を制覇すると、マグがもらえるゲームのようになっています。また、このパスポートを作りながら、別のグループが施設の地図も作り直すことになりました。既存の地図はわかりにくく、パスポートとの用語も統一されていなかったからです。

「パスポート」という名前の小冊子

プロセスとツール

Qコ・デザイン、コ・クリエーションを進めるのに際して、相手から意見を引き出すための種々のツールも考案されています。そうしたツールも交えて、これまでどのように医療サービス・プロジェクトを行ったか、簡単に説明して下さいますか。

A

医療サービスについては、多様なプロジェクトがあります。新しい病院を建てるのに先立って行われたプロジェクト、病室やナースステーションのレイアウトを再考したプロジェクト、病院内で使われるデバイスを考えたプロジェクトなどです。また、病院に関わる23種類の関係者が何を必要としているのかに注目して、最終的には論文とガイドラインにまとめたケースもあります。

Q病院は非常に多くの人々が関わっている場所です。無数のプロジェクトが必要とされていますね。

A

その中から抜粋してお話ししましょう。一つは、新しい小児病院の建物を作るのに際して行われたもので、NBBJという建築設計事務所のために行いました。最初にやったのは、病院関係者と建築関係者に集まってもらい、未来の病院でのユーザー体験についてのビジョンを考えてもらうことでした。グループに分かれて、いくつかの同心円が描かれた用紙と写真のセットを渡し、自分が大切だと感じるものを中心にして写真を配置し、コラージュを構成してもらいます。グループの中で話し合いながら作業を進めるのですが、それを最後に代表が発表します。発表は「こんにちは。わたしは医師の誰々で……」と自分のことを語るのではなく、自ずと誰か未来の患者さんの話になります。

いくつかの同心円が描かれた用紙

グループの中で話し合い

Qみんなが話しあった未来の患者さんが体験する医療サービスですね。

A

そうです。その患者さんについてグループは何時間もかけてコラージュを考えたので、発表するビジョンはみんなが共有している。複数の人々が関わる医療サービスにおいて重要なのは、関係者が自分自身の言語を越えて共有ビジョンを生み出すことです。

Q患者さんの参加はありましたか。

A

28人の元患者さんともワークショップを行い、彼らには個々にコラージュを作ってもらいました。というのも、われわれがそれぞれの医療サービスを受けた体験がどんなものだったかを知りたかったからです。ツールとして同じ材料を渡すのですが、出来上がったコラージュはそれぞれに驚くほど異なっていました。それを詳しく分析し、多くの元患者さんが選択した写真、ある程度の数の元患者さんが選んだ写真などを再構成してサマリーを作りました。非常に学びの多いコラージュとなりました。ただ、建築家には解せなかったようです。なぜなら外観や壁素材など建物の絵が何もないからです。たとえ、チャペルや庭の写真があっても、それらはデザインそのものを示すのではありません。他方、建築計画やインテリア・デザイナーには非常に参考になったようです。

Q写真のセットには、家族の写真、動物、手が重ねられているところ、食事、風景などいろいろなものが揃えられています。写真はどのように選ぶのですか。そのコ・デザインのテーマにふさわしいかどうかは、どう判断するのでしょうか。

A

チームで選びますし、かなりの数から選択しています。何がいいのかについてはこれまでの経験に頼るところも大きい。また、チームや関係者の間でテストして有効かどうかを確かめます。文字を印刷したシールも用意し、これは写真を補完したり、あるいは独立して使うこともできます。文字や言葉がある方が考えを出しやすいという人もいます。

Q写真や文字は、自分が持っているイメージを投影しやすくするわけですね。

A

その通りです。ツールキットとして、横長の用紙に時間軸を描き、そこで起こる体験の流れを、入院から退院までといった風にコラージュしてもらうこともあります。横に引かれた時間軸の上側には好ましいこと、下側には好ましくないことを貼ります。このプロジェクトでも、患者さん、看護師、医師、家族、ボランティアにコラージュを作ってもらいました。

横長の用紙に時間軸を描いたツールキット

コラージュ

二次元から三次元へ

Qワークショップは、ビジョンからどんどん具体的なトピックに進んでいくわけですね。

A

そうです。このプロジェクトでは、看護師に理想的な病棟のフロアーを考えてもらうワークショップも行いました。現実的なフロアープランを考えるのではなくて、モノや情報、ゴミ、人の流れがどうなればいいかを表現してもらいます。また元患者さんに理想的な病室のレイアウトも表現してもらいました。ベッド、トイレ、戸棚、ソファなど、病室に必要な全てのアイテムが同じ縮小スケールで揃えられていて、それを配置してもらうのです。このように具体的なツールもあれば、雰囲気や気分を表現する曖昧なものもあります。

病棟のフロアーを考えてもらうワークショップ

理想的な病室のレイアウト

Q三次元の模型や人形を使うこともあるんですね。この場合は、もっと具体的にその空間を考えるようなワークショップに使われるのでしょうか。

A

人形の家のようなセットは、私たちのチームで作りました。この場合、病院が人形の家です。これで病室やナースステーションを考えました。模型があるおかげで誤解がなく、またわれわれデザイナーのチームもしっかりと理解できるように何をする場所なのかを示すラベルを貼ってくれたりします。

三次元の模型
人形
空間を考えるようなワークショップ

Qツールはワークショップの目的に合ったものをその都度選ぶのですね。

A

たいていの場合は、最初に二次元のツールで全体の体験や時間軸に沿ったその時々の体験を話し合います。現在うまくいっていることは何か、うまくいっていないことは何かがそこで出てきます。その後、三次元のツールに移り、理想的なのはどんなものかを考えてみる。

Qそうしたものをツールとして利用するのは、言葉で話し合うだけでは十分でない、あるいは誤解があるからでしょうか。

A

言葉も一緒に使います。写真などのイメージだけでは自分が表現しにくいと最初感じる人もいるからです。また、特定のことを説明するには言葉の方が向いていることもあります。写真とは別に、渦巻きなど抽象的な形を使うこともあります。形の方が曖昧でいろいろな意味を持っているからで、感情を表現するのに適しています。「こんな風に感じます」というのを、形を選んで、そこからどんな気持ちなのかを説明してもらうのです。

渦巻きなど抽象的な形

Qこうしたツールはトリガーになるわけですね。

A

その通りです。何かを思い出したり、用紙の上に置いてみて「そう、こうなんだ」と合点がいくこともある。

Q聞いた説明は、後に分析するのですか。

A

どんなものを作ったか、それについて何を語ったか、その全てをビデオに収めます。そして一つ一つの言葉に込められたものを、解釈ではなく、理解しようとするわけです。従って、どんなツールキットを使うのかは非常に重要です。というのも、ツールキットによって、ある決まった方向へ誘導してしまうこともありますから。従って、ツールキットはポジティブでもありネガティブでもあり、男性的でも女性的でもあり、具体的でもあり抽象的でもあるという風に構成し、どんなことも表現できるような組み合わせにしておかなければなりません。特に病院の場合は本当に暗い場所になることもありますから、ネガティブなことを表現できることは必要です。

Qマジックテープをどんなことに使うのですか?

A

マジックテープは、デバイスを考えるのに適しています。簡単に形を作り、まるでそれを本当に使っているかのように振る舞ってみる。そうすると、ただ話し合うよりもずっとリアルに医療現場を捉えることができます。例えば、額に赤外線装置のようなものをつけてみるとか、そういう風にです。

マジックテープ

リアルに医療現場を捉える

Qそうしたツールも、新しく考案されたりするわけですね。

A

最近、医療サービスで見られるトレンドは、実寸大の空間を作ることです。スチレンボードなどを建てつけて病室を作り、そこでユーザビリティーの実験を行ったりします。シンクはどこにあった方がいいとか、ゴミ箱や消毒液はどこに置いた方がいいといったことも具体的に話し合うことができます。患者さんや家族からどんな病室がいいのかについてのインプットをもらったこともあります。

ユーザビリティーの実験

トランスレーショナル・サイエンスの動き

Q医療サービスでのコ・デザインで難しいことは何ですか。

A

医療関係者の参加を募ることでしょう。彼らは非常に忙しく、45分も時間を割いてくれれば幸運です。参加に対して報酬も出していませんから、完全にボランティアで協力してくれるのです。何か、不満なことがあって、それをわれわれと共有して改良されればと思ってくる人もいれば、ただやってきて、どんどんアイデアをくれる人もいる。ワークショップに毎回参加する人もいれば、一度きりという人もいます。

Q医療サービスにおけるコ・デザインの特徴は何ですか。

A

多様な関係者が関わっていることです。病室のプロジェクトでは、35種類の関係者が関わりました。関係者が絡み合っていること、多くの課題や制限があることが、医療サービスのプロジェクトを興味深いものにしています。また現在、「トランスレーショナル・サイエンス(橋渡し科学)」という動きがあり、基礎研究の成果を臨床の現場に活かすことが求めれられています。患者さんの医療サービスに対する満足度が重視されているのは、そのせいでもあります。研究補助金の申請書に患者さんが関わっていなければならないという条件をつけているものもあるくらいです。私自身も、橋渡し科学とは何かを少しずつ理解し始めています。橋渡しですから、研究と現実世界を結びつける。その必要性はわかっているけれども、その方法がわからないという多くの場合に、コ・デザイン手法が有用なのです。

エリザベス・サンダーズ

エリザベス・サンダーズ ( Elizabeth Sanders )

オハイオ州立大学で心理学の博士号を取得。デザイン思考という言葉がまだ無かった、1980年代から人間中心デザインの第一人者として活躍。ユーザーをパートナーとした人間中心的なデザイン手法を確立し、それに伴うビジュアル・ツールの開発も独自に行ってきた。コンサルタントとして企業へのアドバイスも行い、近年は医療サービスにおけるコ・デザインを専門に行なっている。2011年からオハイオ州立大学デザイン学部准教授。著書に『Convivial Toolbox』がある。

エリザベスさんのサイト
http://www.maketools.com/

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