HX Insight:何が重要かを測定する


優れた点、プロフェッショナリズム、共感をつなぐ

Measuring What Matters:Connecting Excellence, Professionalism, and Empathy

Brain Injury Professional、 Volume 12、 Issue 2、 2016、 p.12

Scott Wallace, Managing Director, Value Institute for Health and Care Associate Professor, Department of Medical Education
Elizabeth Teisberg, Ph.D. Executive Director, Value Institute for Health and Care Professor, Department of Medical Education


ほぼ全ての臨床医がそうであるように、ハルトヴィッヒ・フランド医師〔ドイツ、ハンブルグのマルティーニ・クリニック (Martini Klinik)の創設者。前立腺がんの名医〕は、入院している患者さんの容体に注意を払います。術前・術後、患者さんの病室を頻回に訪れ、また、深夜まですでに退院した患者さんからのEメールに返信することでも知られています。そうしたフランド医師とそのチームの患者さんへの対応が、患者さんの術前の不安を取り除き、術後のストレスを軽減させ、患者さんやご家族のクリニックへの満足度につながるのです。

フランド医師をトップとしたマルティーニ・クリニックのチームは、他の施設のチームと何が違うのか。それは、それまでの経験からの、抽象的な言葉ではなく、実績という目に見える数字による違いです。
前立腺全摘出術による神経や筋肉のダメージは、性機能と尿コントロールに障害をきたすことが知られています。ドイツ国内における術後の性的不全の平均値は75.5%、尿コントロール障害の失禁発生率は43.3%です。それに比べマルティーニ・クリニックの術後の性機能障害発生率は17.4%、失禁発生率は9.2%と、いずれもドイツ国内の施設の1/5程度であり、5年生存率も95%を保持しています1)

マルティーニ・クリニックの医師は、管理職をめざすのではなく、誇りをもって臨床現場で働き、患者さんのためにその技術の研鑽と知識の習得に日夜取り組んでいます。
経験を重ねると管理職につく、あるいは管理職をめざすことは一般的なことかもしれませんが、フランド医師自身もチームの医師もそう考えずに、現役として臨床現場で働く道を選択しているのです。もちろん、フランド医師から強要されているのではなく、自分自身の意思で選択しているのです。
そうした医師たちの姿勢には、プロとしての責任感と使命感を強く感じます。先ほど触れたように、マルティーニ・クリニックのチームの術後性機能障害、尿コントロール障害の発生率は、他の施設の1/5程度、また、5年生存率も95%を保持しています。
当然ですが、術後のQOL(生活の質)は、患者さんにとって最も重要なテーマの一つです。術後のQOLが高く保たれてこそ、患者さんはもちろんご家族の満足度が高くなる、といっても過言ではないと思います。
マルティーニ・クリニックのチームの医師たちは、豊富な専門的知識と専門的技術が医師の評価であり、医師としての証であると考え、プロとしての向上心や患者さんへの深い共感を抱くことになり、それが患者さんの心にも届くのです。

機能的成果

患者さんは的確な治療による機能の回復と保持を求めます――臨床医が機能的成果と呼ぶものです。脳に損傷を受けた患者さんは日常生活行動を独りで行ったり、心的苦痛に対応する能力を試されるという難題に直面します2)。頭頸部がんの患者さんは飲み込むこと、話すことの難しさと戦うことになるかもしれません3)。変形した股関節や白内障の患者さんでは、例えば、歩く、あるいは見る能力が制限され脅かされます。

患者さんにとって機能の回復や保持が治療を求める理由の中核であり、それらの局面でのヘルスケアの成功は必須です。患者さんの機能の変化を測定することにより、患者さんはもちろん臨床医も、治療が成功しているかの判定を下します。機能的成果は、治療中・治療後の患者さんの機能レベルそのものが、ヘルスケアの質と臨床医の遂行能力を評するものになるのです。
医療環境は多様性に富んでいますが、治療中・治療後の機能レベルは患者さんへの深い共感と相関関係にあります。リハビリ医療は、このような成果を測定することを優先します。機能を回復させることがリハビリの目的につながるからです。

機能的成果は多次元的

患者さんにおける成果は多次元にわたります。最も簡潔に分けると3つのカテゴリーがあります。治療の成果(生存率、回復程度そして機能的成果)、治療中の成果(患者体験)、そして長期的な健康(維持可能)です4)。かつて死亡率やリスクを追跡し、データを調整することばかりに多くの力が注がれていた時代がありました。しかし、現在では、患者さんも臨床医も、術後QOLの重要性をわかっているのです。
脊髄損傷、発作あるいはTBI(外傷性脳損傷)を治療しているチームの多くは、機能的成果をルーティンとして測定します。一方、ヘルスケアの別の分野では、機能的成果の妥当性について、またどの機能を追跡すべきかの話し合いがようやく始まったばかりです5)
アメリカ合衆国の成人の約半数が持病を抱えており、また、そのうちのほぼ1/4の人が複数の持病を抱えています6)。持病を抱えている約1/4の人々は、その結果、日常動作に制限をきたしています7,8)。悪化する病状とQOLのせめぎ合いは、患者さんの機能的成果がますます重要な関心事になる兆しと言えます。

多くの患者さんにとってヘルスケアはイベントでもエピソードでもなく日常生活の一部であり、治療中の成果の体験は継続するものです。改善の見られた兆候の成果、獲得した成果を追跡することはほぼありません。停滞期の長さ、誤り、有害事象、および治療効果のなさをモニターすることは重要ですが、治療担当チームはケアがもたらす価値を認識し測定する必要もあります。

機能的成果をもたらすヘルスケア特有のプラスの測定カテゴリーが2つあります。
「安らぎ」と「穏やかさ」です。

「安らぎ」は病気や怪我の負担を軽減するのに有効で、肉体的苦痛と精神的苦悩を和らげ、心を癒し、健康を増進させます。治療中と治療後の患者さんの「安らぎ」を高めることこそ、ほとんどの患者さんと臨床医がめざす治療の究極のゴールなのです。
「安らぎ」の重要性には測定が不可欠ですが、他の患者さんのデータと比較する必要はありません。たいせつなことは、一人の患者さんの指標変化を時間を追って見ることです。
さらに人間は、人それぞれ自分の「安らぎ」のレベルを持っており、そのレベルを指標として満足しているということが非常に重要です。肉体的、精神的な「安らぎ」の変化に対する患者さんの自己評価が治療チームに更なる支援が必要かどうか伝えてくれます。

ヘルスケア特有のプラスの測定カテゴリーのもう一つ「穏やかさ」について解説を加えます。
「穏やかさ」は治療のストレスを軽減するのに有効です。そもそも治療は、患者さんとその家族の日常生活を崩壊させます。また、乱暴に書き込まれた予定表、甲高い音のモニター、異様な騒音、病院特有の臭いは、不安を生じさせ、「穏やかさ」を踏みにじります。
ただ、時間の能率化を計ったり、予約取りの煩わしさや必要以上に厳しい規則や不便さを見直したり、一人ひとりに丁寧に対応することで、「穏やかさ」を増すことができるものです。
治療がもたらすストレスを軽減し、意識して「穏やかさ」を作り出す。そのことは治療中の重要な課題であり、真摯に取り組むことで成果の上がるものです。

「穏やかさ」はストレスを軽減し癒しを促進させます。例えば海賊船がテーマのCTスキャナーのあるプレスビティリアン・モーガン・スタンリー小児病院(New York Presbyterian Morgan Stanley Children’s Hospital)、静かで落ち着いた照明に包まれた新生児集中ケア室のあるシアトル小児病院(Seattle Children’s Hospital)などは、患者さんに苦痛の少ない環境を作り出し「穏やかさ」を演出しています。
成人の患者さん・その家族も同様です。苦痛、不安を減らすことに向き合うべきです。「穏やかさ」を獲得することに成功すれば、めざすゴールに向かって前進できるのです。

成果と患者さんの満足感

患者さんが求めているのは医療の質はもちろんですが、それと同じように、「いかに満足感を感じることができるか」です。
患者さんを対象としたアンケート調査では、駐車場は十分足りているか、テレビは楽しめたか、病院食は美味しいか、などにフォーカスを当てているものが大半です。患者さんがほんとうは尋ねてほしい質問、例えば、その後の体調はどうか、苦痛はコントロールできているか、ご家族の生活は落ち着いたか、などの質問は見当たりません。機能の改善や、治療中の「安らぎ」や「穏やかさ」は、患者さんと家族にとっては大問題のはずです。
患者さんは施設のアクセスのたやすさ、待ち時間や駐車場などのアメニティを、自身の苦痛の軽減や生死に関わる成果ほど大切だとは考えていません9)。患者さんの満足感の測定は厚遇などではなく、健康の成果への満足感へと方向転換すべきです。

改善への舵取り

マルティーニ・クリニックでは、機能的成果に留意することで外科手術の技術が向上し、スタッフ間のコミュニケーションも良くなり、前立腺がん患者さんの人生体験に留意するようになりました。医師たちは、成果測定の最も重要なゴールは医師と臨床チームの学習を加速することにあって、そのことが患者さんのためになるということを確信し、突き進むことだと説明します。
また、患者登録(レジストリ)を見ることにより、患者さんの治療前のリスクと病的状態を追跡し、治療のどの段階が成果の改善に寄与したのかを知ることができ、そのことは、新たな別の患者さんの状況に活かすことを可能にします。

マルティーニ・クリニックでは、患者さんが1日に何度パッドを交換する必要があるのかをベースに失禁を測定しています。患者登録(レジストリ)のデータから、ある患者さんのパッド交換が少ないことに気を留め、それは執刀医の技術、括約筋の温存療法ゆえからのことであると考え、自身の手術法の見直しのきっかけになったこともあったといいます。

マルティーニ・クリニックの患者登録(レジストリ)には、手術後すぐに患者さんを歩かせることに取り組むと、包括的な回復の速度が速まることも明記されていました。恐らく理論上では、この術後の活動は、外科医が従来型の切開手術を施そうと、あるいは支援ロボットを使用した腹腔鏡下の手術であろうと、回復時間にずっと大きく影響するのでしょう。あらゆる患者さんの機能成果とそれを遂行した治療を分析すると将来の患者さんたちのための改善策へと駆り立てる見識に火がつくのです。

マルティーニ・クリニックでは、患者さんの術後の結果を分類し、チーム全体で評価します。もちろん素晴らしい技術を持った医師ばかりではありません。チームの中で、結果が標準以下の外科医の手術の際には同僚が入るなど、患者さんのために全ての外科医が見事な結果を成し遂げ、維持しつづけるのを可能にするのです。

成果と共感

ヘルスケアにおいて最もプロフェッショナルで心のこもった質問は、「私(医師)は、どうでした?」という“供給者中心”の質問ではありません。「あなた(患者さん)は、いかがですか?」という“患者さんが主体”の質問です。感情移入ができること、それは他人の気持ちを理解し共有できる優れた能力であり、全ての医療従事者に最も重要な資質です。

商取引では、「この企業のサービスを(他の人にも)勧めますか?」とよく尋ねてきます。例えばホテルとかウォーターパークが「私たちのホテルのサービスは何点ですか?」と点数で示すように求めてきます。
でもこれらの点数で評価すること自体、これまで述べてきた患者さんの健康や満足度の査定とは、全く無関係な方法です。パブとかにはたいへん価値あるものですが、病院などの評価には程遠い査定です。

マルティーニ・クリニックでは、機能的成果指標と共感は相乗作用をもたらしています。クリニックの評価基準(メトリックス)は、前立腺の手術を受ける男性のほとんどが抱く最大の不安要素である性機能と失禁コントロールとを優先します。これらの成果を改善するための絶え間ない努力こそ、共感の真髄(エッセンス)です。機能帰結指標は、共感の評価基準(メトリックス)なのです。

(Translated and reprinted with permission of Brain Injury Professional Magazine, www.braininjuryprofessional.com.)

【REFERENCES】

1)Porter ME, Deerberg-Wirriam J, Marks C; Martini Klinik; Prostate Cancer Care, Harvard Business School Case No 9-714-471, Boston MA, Harvard Business School Press, June 2014.

2)Hiott W, Labbate L. Anxiety disorders associated with traumatic brain injuries. Neuro Rehabil. 2002;17:345-355.

3)Dysphagia Section, Oral Care Study Group, Multinational Association of Supportive Care in Cancer (MASCC)/International Society of Oral Oncology (ISOO), Raber-Durlacher JE, Brennan MT, er al. Swallowing dysfunction in cancer patients. Supportive Care in Cancer. 2012;20(3):433-443. doi:10.1007/s00520-011-1342-2.

4)Porter ME; What is Value in Health Care? N Engl J Med 2010; 363:2477-2481 (Dec 23,2010) DOI:10.1056/NEJM p1011024. Teisberg EO, Wallces S; Creating a High-Value Delivery System for Health Care. Semin Thorac Cardiovac Surg 21: 35-42(2009).

5)The Patient Reported Outcomes Measurement Information System and the International Consortium for Health Outcomes Measurement have measure sets emphasizing patient-reported functional outcomes for an array of medical conditions[ and treatments

6)Ward BW, Schiller JS, Goodman RA, Multiple chronic conditions among US adults : a 2012 update. Prev Chronic Dis. 2014 Apr 17;11:E62. DOI: http://dx.doi.org/10.5888/pcd11.130389.

7)Anderson G. Chronic conditions: making the case for ongoing care. Baltimore, MD: John Hopkins University, 2004.

8)Teisberg, E and Wallace S, The Quality Tower of Babel, Health Affairs Blog, April 13, 2015. (http://healthaffairs.org/blog/2015/04/13/the-quality-tower-of-babel/)

9)Lee TH, Improving the Value of Care in Chronic Conditions, Presentation to AASLD: The Liver Meeting 2014, Nov. 9, 2014.

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