【Web Excellent Pharmacy 第10回】Special - 在宅緩和薬物療法と薬局・薬剤師の役割 ~薬剤師が知っておきたい・取り組みたい乱用防止策とは~

加賀谷 肇

湘南医療大学/特任教授

一般社団法人 医薬品適正使用・乱用防止推進会議 副代表理事

加賀谷 肇氏

「がん患者の痛みの治療に使う限り、オピオイドへの依存・乱用は起きない」、従来言われてきたこの言葉の中には、実はさまざまなリスクが隠れている。その痛みはがんによる痛みなのか、正しく痛みの程度を評価できているのか、使われている製剤・剤形はどのようなものか。薬剤師としての視点で改めてそれらを確かめると、依存・乱用リスクが見えてくる。

湘南医療大学 特任教授 加賀谷肇氏に、薬剤師として知っておくべき重要なポイントを伺った。

アメリカで問題のオピオイド過量服用による死

連日、TVのワイドショーをにぎわせている芸能人らの薬物乱用問題。日本の社会が、薬物に関しても、その乱用の問題に関しても、また薬物乱用患者の対処に関しても経験値の低いことが浮き彫りにされている。

実は、乱用問題はこれら違法薬物のみならず、治療目的で使用するいわゆる処方薬でも起きている。

アメリカでは、1999年から2017年にかけて、40万人もの人がオピオイドの過量服用で亡くなっており、「オピオイドクライシス」と呼ばれている。CDC(Centers for Disease Control and Prevention: アメリカ疾病対策センター)は、オピオイドによる死亡の増加には大きく3つの原因に端を発する波があると分析している(図1)。

1つ目は、紫の線で表される処方薬オピオイドの増加だ。1990年代からじわじわと増え続けている。2つ目のオレンジの線はヘロインによるもので2010年から急増している。3つ目の黒の線は違法に製造された合成麻薬で、2013年から急増している。

図1:The Three Waves of Opioid Overdose Deaths
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図1:The Three Waves of Opioid Overdose Deaths

出典:CDC > Opioid > Opioid Basicsより(https://www.cdc.gov/drugoverdose/epidemic/index.html)

CDCはこの検証結果を受けて、オピオイドの過量服用による死の防止対策に、薬剤師がゲートキーパーとしてかかわることを期待していると加賀谷氏は話す。

「CDCでは『pharmacists can serve as a first line of defense』という言葉で薬剤師の役割の重要性を表現しています。日本でも、薬物乱用の問題にはもっと薬剤師がかかわるべきです。ゲートキーパーとして何ができるのか。それは、薬物乱用に関して危機的状況にあるという認識を持つところからだと考えています」。

図2: CDCは薬剤師の役割の期待を表明している
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図2: CDCは薬剤師の役割の期待を表明している

出典:CDC PHARMACISTS: ON THE FRONT LINESより
https://www.cdc.gov/drugoverdose/pdf/pharmacists_brochure-a.pdf

厚生労働省は、アメリカのオピオイドクライシスを踏まえ、我が国でも医療用麻薬の乱用防止対策が極めて重要としている。 そのために、密輸麻薬・危険薬物の水際対策や、疾病治療のために携帯輸出入される麻薬について、正規輸出入手続きを強化するなどの対策を講じている。

「アメリカの薬物乱用問題は対岸の火事ではありません。オピオイドの使用は在宅でのがん疼痛緩和治療に不可欠なものですが、それだけに乱用に陥る危険は常にあります。薬剤師がそこに踏み込むことをなぜ躊躇するのでしょうか、緩和医療にかかわる薬剤師こそが、ゲートキーパーとして適任なのです。薬剤師には、これらの情報に対するリテラシーをきちんと持つことが求められていることを認識してほしいと思います。ゲートキーパーとしての役割もさることながら、目の前の、オピオイドによる鎮痛を必要としているがん患者が、安心して治療に臨むためでもあります」。

緩和医療のなかで薬剤師に求められる役割とは

2007年3月、加賀谷氏は日本緩和医療薬学会の設立に参加した。薬学の分野では、臨床と直結した初の学会である。長年がん患者の疼痛緩和に力を尽くしてきた加賀谷氏は、緩和ケアチームの中で薬剤師の役割が不可欠であることを痛感していた。

「2007年4月にがん対策基本法が施行されました。基本法では在宅医療でも緩和ケアが充実して行われるよう、国・地方公共団体は医療従事者に対して患者のQOL向上のために緩和ケアの研修の機会を確保するなどの対策を取るよう求めています(同法16条)。日本緩和医療薬学会では緩和薬物療法認定薬剤師制度を定め、2019年3月までに722名の認定薬剤師を輩出しました。病院薬剤師が取得していることが多いのですが、在宅医療を手掛ける薬剤師の先生方にこそ取っていただきたい資格です。緩和医療薬学というスペシャリティを持つことは今後の地域医療の中では有用ですし、緩和医療は文字通り他人事ではないのだと伝えたいです」。

また、2015年に薬学教育コアカリキュラムが改訂され、必修科目の医療薬学の中に「がん終末期医療と緩和ケア」が追加されている。

薬物乱用防止への第一歩は、特に在宅医療での緩和ケアに薬剤師が積極的にかかわり、オピオイドを含む鎮痛薬による治療が適正かつ効果的に行なわれるよう管理し、実践することなのだと加賀谷氏は強調する。

がん患者のQOLのために薬剤師が聞き出すべきこと

日本では、諸外国と比べがん疼痛に対する医療用麻薬の使用量が十分でないと言われている1)。加賀谷氏は「がん患者の痛みが十分に取れずに不快な思いをしている可能性がある」と懸念する。

「薬剤師は、患者や家族に対する服薬指導の中で、その取り切れていない苦痛をいかにピックアップして医師に報告し、適切な処方になるようにかかわることが重要です。一見当たり前の薬剤師の職務ですが、知識とノウハウを問われるところでもあります」。

例えば、患者が「オキシコドンの散剤を服用すると良く眠れるので、寝る前にのんでいる」といった話をする場合だ。「そういう表現を聞き逃さないことが大事です。痛みが取れていないから眠れないのではないかという疑いの目を持ってほしいのです」。

オピオイドを適正に使用するとは、実はそう簡単ではない。加賀谷氏は『痛いか痛くないか』という観点での質問はそこで会話が終わってしまうことも多いので、必ず「痛みと眠気」をセットにするのが質問のポイントだという。

「『痛みで目が覚めたりしませんか?』と質問することで、『夜中の3時頃に目が覚めます』といった具体的な話が出てきます。それで、十分に痛みを取れる量が処方されていないことがわかります。また、『昼間うとうとする』との話があれば、鎮静症状をもとに過剰投与を疑うことができます」。

もう一歩進んで、がん患者が生活するうえで何を求めているかを聞き出すスキルを高めていきたいと加賀谷氏は続ける。「痛みが取れたらそれでOKなのではなく、『痛みが取れたら何ができるか、何がしたいのか』が何より重要です。痛みが取れると、その人の生活そのものが変わります。どこがどう変わるのか。どう変えたいのかが大事なポイントです」。

たとえば、旅行をしたい、台所に立って家族のために料理をつくりたい。孫の結婚式に出席したいなどという希望は、痛みを抱えるがん患者にとって生きる希望であり、目標になるからだ。

がん患者の抱える痛みは、①がんそのものによる痛み、②がん治療に伴う痛み(手術や放射線治療による痛みを含む)、③がん・がん治療と直接関連のない痛みの3つに分類される。この中で大事なポイントは「がん疼痛とは、がんそのものによる痛み」のことを日本緩和医療学会のガイドラインでも定義している2)

がん患者の痛みの治療は、WHOの方式に従っている。従来、5つの柱で構成されてきたが、2018年、3つ目の柱と4つ目の柱が統合された。より患者個々にフィットした治療が重要視されるようになったのだ。

図3:WHO方式がん疼痛治療法
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図3:WHO方式がん疼痛治療法

出典:WHO Guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management cancer pain in adults and adolescents, world Health Organization,2018.

痛みがあってもオピオイド依存は起きる?

日本でも、オピオイドはがん以外の慢性疼痛に対して適応が拡大された3)。これまで、がん疼痛への使用に関して、「痛みがある患者に投与する場合、オピオイドによる中毒(嗜癖や精神的依存)は起きない」と言われてきた。適応の拡大により、事情が少し違ってきていると加賀谷氏は話す。

疼痛が、がんそのものを原因としない場合、オピオイドへの嗜癖や精神的依存が起きやすいことがわかってきているからだ。「そもそも、がん患者の痛みや、オピオイドへの依存ということの定義があいまいなまま、治療が始まっていることもあります」。

次に「依存」についても、「中毒」という言葉で説明がなされることも多く、定義があいまいになっている。「中毒という言葉は、嗜癖(addiction)と依存(dependence)が混同されています。嗜癖は、痛みを取るという目的を逸脱してその薬を使いたいという衝動にかられることを指します。例えば、高揚感を得るため、気持ちを静めるためなどがそれに入ります。また、依存も、身体的依存と精神的依存に分けられます。実は身体的依存はすべての患者で起きる可能性があることです。退薬症状がそれにあたりますが、退薬症状は徐々に用量を減らすことで回避できます」。

患者に医療用麻薬への無用な不安を持たせないようにするためにも、これらを薬剤師はきちんと立て分け、説明できることが重要だ。

精神的薬物依存が起きるしくみを理解する

薬物への精神的な依存の形成に深くかかわるのが、薬物の血中濃度の立ち上がりの速度だということも、重要な知識として踏まえたいと加賀谷氏は話す。2005年、ラットを用いた自己投与実験(ラットがペダルを自分で押すことでコカインが投与される)において、コカインの注入速度が速いほど精神依存が強くなることが認められた4)

「同じ薬物であっても、その製剤の違いによって、精神依存の形成に差が出る可能性があります。吸収が速く、血中濃度が速く立ち上がる製剤ほど強い精神依存を引き起こし、逆に吸収が遅い製剤ほど精神依存を起こしにくいと考えられます。つまり、貼付剤 > 徐放性剤 > 錠剤 > 液剤 > 舌下錠、バッカル錠 > 吸入剤 > 注射剤の順で、左に行くほど精神依存を引き起こしにくい製剤と考えられます」。

緩和医療は多職種による連携がよりいっそう必要とされる場面であることは言うまでもない。以上のようなことを、機会があるごとに医師と情報共有していくことも薬剤師の重要な役目となる。

積極的な疑義照会が適正使用につながる

だが、薬剤師が処方医に対して委縮してしまうという悩みは、この重要な局面でも顔を出す。加賀谷氏もウェブカンファレンスに参加した薬剤師の一人から、疑義照会に関する不安についての質問を受けたと話す。

「医師に不快感を示されそうで疑義照会ができないというのです。裏返せば自信がないわけです。私は、『クリニカルファーマシーサービスとは、患者の利益を守るためにあるものなので、薬剤師から医師への質問はあくまでも患者のため、というスタンスを明確にすることが大切だ』と答えました。薬剤師が、自分自身の仕事のためだと考えると、医師を納得させづらくなるのですが、疑義照会は患者のためなのですと話せば納得しない医師はいないはずです」。

加賀谷氏は、身近でオキシコドン鎮痛薬が処方されているのにレスキュー薬の処方がされていないケースや、レスキュー薬が処方されていても医師から患者に、「1日2回まで」といった指導がされていたケースなども見てきた。「オピオイドスイッチングの際に、薬剤の間で力価の換算が必要です。換算表は、日本緩和医療学会がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインから抜粋して手元に置いておけばいいのです。知識より意識の問題と言えるのではないでしょうか」。

また、終末期の患者にポリファーマシーが起きているケースも実は少なくない。介入することにためらいを覚える場面でもあろうが、薬剤師はできるだけ介入してほしいと話す。

「作用を診るのが医師であれば、副作用を確認できるのは薬剤師の仕事です。患者の副作用を見つけて医師に早く知らせることで、患者が楽になるという考え方です。いちがいに薬剤が多すぎると指摘するのではなく、副作用の裏付けを取り、代替案を示せるかどうかで、医師の印象は違ってきます」。

乱用防止剤形について説明できる

乱用が懸念される場合に、乱用防止剤形の薬剤を医師に提案するのも重要な乱用防止策になる。徐放性剤であっても錠剤を砕いたり、水溶液にして注射したりすれば、血中濃度の上昇は速くなり、すなわち乱用に陥りやすくなるが、これを防ぐために工夫されているのが、乱用防止剤形の薬剤である。

オキシコドン塩酸塩やタペンタドール塩酸塩をポリエチレンオキシドで処理して粉砕不可能にした剤形、水に入れてもゲル化して溶解・注射器での吸引が困難になるようにした剤形のものなどがある。剤形の特徴を医師に聞かれた際には説明できるようにしておきたい。

安心してがん疼痛治療が受けられるように

加賀谷氏は、患者の不安を理解してコミットできる薬剤師であることが最も重要だと重ねて話す。「痛みを抱えるがん患者は、自分がどうなるのかという不安に常にさらされています。その不安は、痛みの症状や不快感の増強にダイレクトにつながっています。患者に適切な指導、説明を行い、前途の不安を取り除くことは、薬学の知識と両輪となるスキルが必要です」。

患者心理を知る手助けになる、ブラインドウォークという手法がある。

「患者役とエスコート役にわかれ、目隠しをした患者役を、エスコート役が少し離れたところの椅子に座らせるというものです。患者役は、自分がどのように導かれるかわからないので、非常に不安です。エスコート役はその不安にこたえ、患者役が動きの予測をつけられるように説明しながら導かなければなりません。現実の患者も、治療に臨む心理は同じであることにこのようなロールプレイングを通して気づき、スキルアップをすることができます」。

報道等を通じて、アメリカのオピオイドクライシスを知った患者は、自身のオピオイド使用に大きな不安を感じているかもしれない。患者にどのようなリスクがあるのかをアセスメントし、また、何よりも痛みをしっかり取るためには、薬剤師がオピオイドの薬理・製剤特性について理解し、患者の不安を取り去るような説明ができること、また処方医と情報共有や意見交換ができることが何より大切なのだ。

「2025年問題を超えて、2030年には47万人もの『看取り難民』が出ることが予想されています。患者が病院から地域・自宅に戻り、在宅療養にシフトする、またセルフメディケーションがより推進される世の中で、『看取り難民』をつくらないためには、その『住み慣れた地域』が、患者にとって安全、安心な場所でなければなりません。その安全、安心を守れるかが薬剤師に問われています」。

図4:地域医療,セルフメディケーション時代
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図4:地域医療,セルフメディケーション時代

出典:「平成24年度診療報酬改定説明会(平成24年度3月5日開催)資料」(厚生労働省)をもとに作成

  1. Duthey B, Scholten W. Adequacy of Opioid Analgesic Consumption at Country, Global, and Regional Levels in 2010, Its Relationship With Development Level, and Changes Compared With 2006. J. Pain Symptom Manage., 47, 283–297 (2014).
  2. 「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2014年版)」編集 日本緩和医療学会 p.25
  3. 「非がん性慢性[疼]痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン」 6. オピオイド治療が対象となる疾患(https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/kaiin_guideline04.html)
  4. Liu Y, Roberts DCS, Morgan D (2005). Sensitization of the reinforcing effects of self-administered cocaine in rats: effects of dose and intravenous injection speed. Eur J Neurosci 22:195–200.
  5. 松本俊彦,宇佐美貴士, 船田大輔,村上真紀, 谷淵由布子:全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査.平成30年度厚生労働科学研究費補助金医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業「薬物乱用・依存状態等のモニタリング調査と薬物依存者・家族に対する回復支援に関する研究(研究代表者:嶋根卓也)」総括:分担研究報告書,pp75-141,2019.