【Web Excellent Pharmacy 第8回】Special - 「ダメ、ゼッタイ」で終わらせない 地域の薬局・薬剤師が担うべき薬物乱用防止への役割

嶋根 卓也

国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所

薬物依存研究部 心理社会研究室室長

嶋根 卓也氏

相次ぐ著名人の違法薬物摘発の報道で、国民の薬物乱用・依存への関心が高まっている。最近では、違法薬物だけではなく、処方薬や一般用医薬品といった医薬品の乱用・依存症例が増加傾向にあるという。

このような薬物乱用・依存に対して、地域の薬局・薬剤師は、どのような対応が出来るのか。薬物乱用・依存の現状と薬剤師に期待される役割について、国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 心理社会研究室室長の嶋根卓也氏に伺った。

一般住民に広がる大麻乱用

薬物乱用・依存の実態は、薬物事件による検挙者数だけで判断するのではなく、広い視点で捉えることが必要と話す嶋根氏。

「薬物に関する報道では、大麻や覚せい剤などの検挙人員など、統計が取り上げられることが多いのですが、その情報だけで薬物乱用・依存の実態を掴むことは難しいと言えます。なぜなら、こうした検挙人員は薬物使用者の氷山の一角に過ぎないからです」。

国立精神・神経医療研究センターでは、薬物乱用・依存の実態やその動向を正確に捉えるために、いくつかの全国調査を定期的に実施している。例えば、15歳から64歳の一般住民を対象とした「薬物使用に関する全国住民調査」では、一般住民の間で大麻が拡大していることを報告している。

「2017年に実施された最新の調査によれば、何らかの違法薬物の乱用経験のある一般住民は全国で約216万人と推計されています。その内訳をみると、大麻が最も多く、約133万人に大麻の使用経験があることになります」1)

2015年調査までは、シンナーなどのいわゆる有機溶剤が最も乱用されていたが、年々減少傾向にあり、2017年では大麻が増加し、最も乱用される薬物に変わった。

図1:一般住民(15~64歳)における違法薬物使用の生涯経験率の推移
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図1:一般住民(15~64歳)における違法薬物使用の生涯経験率の推移1)

嶋根氏は、一般住民において大麻が拡大している背景には複数の原因が考えられると指摘する。

「大麻使用者が増えている背景には、いくつかの理由が考えられますが、大麻の入手機会が増えていることが理由の一つだと考えています。私たちの調査では、薬物を使った経験だけでなく、『誘われた経験』についても尋ねています。その中で大麻に誘われた経験は確実に増えていて全体の約3%、つまり約30人に1人という高い割合で報告されています。これは私たちが統計を取り始めた1995年以降で最も高い数字です」。

最近では、大麻の違法栽培が摘発される事例も増えており、自家栽培された大麻が流通し、結果として大麻に誘われる機会が増えているのかもしれない。大麻に誘われる経験は、大学生を含む20代が最も高く、若年層に大麻が広がる様子が想像できる。

図2:年代別にみた一般住民における大麻使用の誘われ経験率(2017年)
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図2:年代別にみた一般住民における大麻使用の誘われ経験率(2017年)1)

「若年層を中心に、大麻使用を肯定する考えが広がっていることも増加の背景にあるようです。大麻を使うことに対して『少しなら構わない』とか『個人の自由である』と考える若者が増えています。」。

大麻使用を肯定する考えが広がる背後には、海外における大麻合法化の動きが関係しているのかもしれない。近年では、アメリカの一部の州(ワシントン州、コロラド州、カリフォルニア州など)や、カナダにおいて嗜好目的での大麻使用が認められる政策を取り入れられるようになった。こうした海外における政策転換や、そうした情報を発信するメディア(特にインターネット)を通じて、日本の若者の考えにも影響を与えている可能性があるのかもしれない。

薬物依存臨床で増え続ける医薬品乱用

一方、精神科医療につながっている薬物依存患者に目を転じると、その大部分が覚せい剤で占められていることがわかる。

2017年に実施された「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」2)によれば、睡眠薬や抗不安薬を主たる使用物質とする症例は、覚せい剤症例に次いで2番目に多く、その割合は年々上昇しているという。具体的には、ベンゾジアゼピン系薬剤が乱用対象として選択されている。

「ベンゾジアゼピン系薬剤などの処方薬乱用は、目的とする薬剤を入手するために、ドクターショッピングなどの不正入手、そして薬剤の溜め込みにもつながります。薬剤の溜め込みは、時に過量服薬(オーバードーズ)などのエピソードにもつながる危険性があります。薬剤師が、患者の残薬を確認・整理することや、多剤大量処方に注意を払うことは、薬物依存の予防にも役立つと言えます」。

薬剤師にとって身近な医薬品が薬物依存の対象となっており、そういった症例が増加しているという。では、医薬品乱用に気づき、患者を支援していくためには、どのようなことに配慮すれば良いのか。

「気づきという点では、『患者さんとの対話』から医薬品乱用の事実を知ることが多いようです3)。こうした事実を知るためには、医薬品が正しく使えていないという事実を相談できるような信頼関係が必要になります」。

そして、薬剤師による服薬支援を考える上で、患者が医薬品を乱用してしまう背景や、心理的背景について理解することが、支援する上での第一歩になる。

「睡眠薬や抗不安薬を乱用する患者は、不眠・不安・抑うつといったメンタルヘルスに何らかの障害を抱えている場合が少なくありません4,5)。つまり、自分が抱えている苦痛が乱用の背景にあり、目的は『苦痛の緩和』です。これは覚せい剤症例とは異なる点です」。

覚せい剤症例では、「好奇心」や「仲間から誘われる」ことが乱用開始に影響している。一方、咳止め乱用の動機としては「疲労の軽減」、「不安の軽減」などが報告されており、「苦痛の緩和」という観点では、ベンゾジアゼピン系薬剤と非常に似ているという6)

「こうした患者さんの多くが、『使いたい気持ち』と『やめたい気持ち』が綱引きをしているような状態にあり、こうした状態を『両価性(アンビバレンス)』という言葉でよく表現されます。両価性のある患者さんの支援を続けていくためには、信頼関係の構築が不可欠です。医薬品乱用という行動は医療従事者からしてみれば、今すぐにでもやめさせたい不健康な行動かもしれませんが、渦中の当事者からしてみれば、抱える辛い気持ちをどうにかやり過ごすために必要な対処方法だったりもするわけです。頭ごなしに否定したり、無理にやめさせたりするのではなく、まずは患者さんの気持ちに寄り添う、共感的な態度が必要です。その姿勢は決して権威的であってはならないと思います」。

参加型の予防教育

大麻などの薬物乱用が青少年に拡大するなかで、薬剤師が教育現場における薬物乱用防止教室に、学校薬剤師として招聘される機会も多くなった。予防教育を通じて、学校薬剤師にはどのような関わりが求められるのか。

「薬剤師は『薬の専門家』として、薬物乱用の危険性について説明を求められる機会が多いと思われますが、薬理学による説明を押し付けるような一方的な講義は避けるべきです」。

学校における薬物乱用防止プログラムの予防効果を検証した研究によれば、薬物乱用の危険性を伝えるだけの「知識伝達型」の教育では、子どもたちの知識は増加するものの、薬物使用行動そのものを予防する効果は見込めないことが報告されている7)

「文部科学省では、ソーシャルスキル(問題解決能力、コミュニケーション能力など生きる上でのスキル)を意識した教育を重視しています。薬物乱用防止教育には時間的な制約がありますが、子ども自身の頭で考えさせ、時には汗をかかせるような参加型の予防教育が有効であると考えています。例えば、隣の生徒同士で意見を交換したり、発表したり、その発表内容に講師がフィードバックしたりといった、相互的なコミュニケーションが期待されます」。

「ダメ、ゼッタイ」で終わらせない関わりを

「薬物問題を抱えた子どもたちは、大人が想像する以上に多いようです。中学生を対象とした全国調査によれば、男子中学生において大麻使用経験率が増加していることが明らかになっています。2018年調査における中学生の大麻の生涯経験率は、男子0.5%、女子0.2%、全体0.3%でした」8)

図3:中学生における大麻使用の生涯経験率(男女別、2000-2018年)
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図3:中学生における大麻使用の生涯経験率(男女別、2000-2018年)8)

確かに、わが国の青少年の経験率は、欧米と比較すれば、遥かに低いかもしれない。しかし、生涯経験率0.3%は、約300人に1人の割合となる。中規模の中学校であれば、全校生徒は300~400名くらいとなるので、各中学校に大麻の経験者がいても不思議ではない計算となる。つまり、大麻などの薬物問題を抱えた青少年は、全国どの地域でも存在する可能性があると考えるべきだ。

「予防教育では、薬物乱用の危険性をわかりやすく伝えることも重要ですが、そこで終わらせてはいけません。すでに薬物乱用を始めている、あるいは薬物乱用リスクが高い子どもに向けたメッセージや情報も必要となります」。

薬物乱用経験を持つ子どもは、学校生活に馴染めず、親とも十分なコミュニケーションが取れていない、社会的に孤立した状態にある場合が少なくない。また、そのような子どもは、自尊感情の低さから、自分からSOSが出せない(出すことを躊躇する)場合も多いという。そこで、薬物問題に直面した際の相談や支援に関する情報なども含め、早期発見・早期解決を意識した踏み込んだメッセージが必要となる。

「薬物乱用防止教室など、集団を対象とする予防教育においては、危険性や違法性を強調するだけの『ダメ、ゼッタイ』で終わらせない、プラスアルファの働きかけが求められます。予防教育の中では『ひとりで抱え込まず、信頼できる大人に相談して欲しい』と、相談に対するハードルを下げるような声かけをしながら、SOSを出しやすい雰囲気を作っていくことが重要です。例えば、スクールカウンセラーや養護教諭など、校内において個別支援が可能な具体的な職種について説明をすることや、精神保健福祉センターなど地域の専門機関についての情報提供も併せて行ってほしいです。また、対人援助職に課せられる守秘義務があることにも触れつつ、警察に通報されることなく、安心して相談できる体制があることも伝える必要があると思います」。

今回は、薬物乱用・依存に注目し、地域の薬局・薬剤師が担うべき薬物乱用防止への役割について嶋根氏に伺った。かかりつけ薬剤師、健康サポート薬局など、身近な健康相談の場として薬局・薬剤師が注目されている現在、信頼関係の構築が不可欠という「両価性」のある患者の支援を考えることなどで、薬剤師の役割をさらに広げるきっかけになるのかもしれない。依存症という観点では、薬物依存のみならず、アルコール依存、ギャンブル依存、そして近年ではインターネット・ゲーム障害などその裾野は広い。もっと身近な話題に置き換えれば、禁煙治療を受けている患者(ニコチン依存)の支援という意味でも共通するテーマと言える。

  1. 嶋根卓也,ほか:薬物使用に関する全国住民調査(2017年). 平成29年度厚生労働科学研究費補助金医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業「薬物乱用・依存状況等のモニタリング調査と薬物依存症者・家族に対する回復支援に関する研究(研究代表者:嶋根 卓也)」分担研究報告書,pp7-148,2018.
  2. 松本俊彦,ほか:全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査.平成30年度厚生労働科学研究費補助金医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業「薬物乱用・依存状態等のモニタリング調査と薬物依存者・家族に対する回復支援に関する研究(研究代表者:嶋根卓也)」総括:分担研究報告書,pp75-141,2019.
  3. 嶋根卓也:ゲートキーパーとしての薬剤師:医薬品の薬物乱用・依存への対応.YAKUGAKU ZASSHI 133(6):617-630,2013.
  4. 嶋根卓也:処方薬乱用者のゲートキーパーとしての薬剤師.YAKUGAKU ZASSHI 136(1):79-87,2016.
  5. 松本俊彦,ほか:わが国における最近の鎮静剤(主としてBZ系薬剤)関連障害の実態と臨床的特徴 覚せい剤関連障害との比較.精神神経学雑誌 113(12): 1184-1198, 2011.
  6. 松本俊彦,ほか:自己切傷患者における致死的な「故意に自分を傷つける行為」のリスク要因 3年間の追跡調査. 精神神経学雑誌110(6),475-487,2008.
  7. Faggiano F, et al.: Universal school-based prevention for illicit drug use. Cochrane Database Syst Rev. 2014.
  8. 嶋根卓也,ほか:飲酒・喫煙・薬物乱用についての全国中学生意識・実態調査.平成30年度厚生労働科学研究費補助金医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業「薬物乱用・依存状態等のモニタリング調査と薬物依存者・家族に対する回復支援に関する研究(研究代表者:嶋根卓也)」総括:分担研究報告書.pp19-73,2019.