【Web Excellent Pharmacy 第3回】Special - 地域社会の「すこやかなくらし」は薬局・薬剤師の手の中にある 〜うち続く自然災害と超高齢・人口減少社会という災厄の中から〜

鈴木 順子

北里大学/名誉教授

鈴木 順子氏

2019年9月1日は令和初の防災の日である。思えば平成は災害の時代であり、1つの災害の復旧復興もままならない中、次々と災害に襲われ、のみならず自然災害に続く二次災害やある意味で社会的荒廃といえる現象も多発している。そして、私たちのくらしを根幹から脅かし、立ち上がる力を削いでいるのは、実は「超高齢・人口減少社会」という、社会構造そのものである。

北里大学名誉教授 鈴木順子氏は、「超高齢・少子化・多死現象は日本社会における長期的で巨大な厄災」とし、既存の社会システムから新たな生活価値に基づく健やかな地域社会の実現が求められていると述べ、特に薬局・薬剤師の役割に大きな期待を寄せている。

今、求められる危機管理システムと共助体系による地域支援・貢献

災害の多発と超高齢・人口減少社会のサンドウィッチ構造の中で、我が国の社会保障のあり方は、今ある危機をどのように緩衝し、その向こうにどのような「ここで生きていく価値のある社会」を見出すか、根本的な舵切りを迫られている。

社会保障体系の一翼を担い、特に直接にヒトの生命、生活に係る医療介護・福祉専門共助職や機関には、これまでのベクトル上にはないはたらきが求められているが、その中で、薬剤師・薬局はどのような新たな存在意義や価値を作り上げることができるのか。

災害対策から見る地域包括ケアシステム

地域包括ケアシステムは超高齢・人口減少社会問題の切り札として提唱され、法改正などを通じて、大きな枠組みとしては進行しているが、具体的な共助職種や機関などの働き方や考え方についてはなかなかにクリアカットにはいかないようだ。

「目標が明確な『災害対策』から、逆に地域包括ケアシステムにおける私たちのあり方を考えてみたいと思います」と鈴木氏。

「防災」の考え方と我が国の医療のありかた

災害対策基本法では、防災を「災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及び災害の復旧を図ることをいう」(第2条)と定義している。災害の未然防止を1次予防、発災時の防御対応を2次予防、災害復旧を3次予防と捉え、これらが一貫した構想と流れの中でリスクマネジメントとクライシスマネジメントの両輪で相互補完的に機能することが求められている。

図1:地域の将来的利益、準備・活動、災害時対応の緑の三角図
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図1:地域の将来的利益、準備・活動、災害時対応の緑の三角図

一方、我が国の医療においても、医療法第1条の2「医療提供の理念」において、医療の内容は『単に治療(2次予防)のみならず、疾病予防のための措置(1次予防)、リハビリテーション(3次予防)を含む・・・』と定義され、傷病者の将来的利益(QOL確保)までをも視野に入れた包括的で一貫性のあるものであるべきことが求められてる。

「両方の視点から、何よりも大事なのは『発災(発病)したその時の対応=2次予防』が場当たり的に行われるのではなく、『日頃の備え=1次予防』、同時に『将来あるべき姿を見据えた地域復興(リハビリテーション)=3次予防』を常に視野に入れることによって、2次予防が効果的に実施できるという考え方でしょう」。

防災という観点からは地域コミュニティに対して、医療という観点からは住民個々人に対して、同じ考え方と方法論によって、薬局・薬剤師が果たし得る役割と目指す成果が見えてくるのではないだろうか。

防災と地域包括ケアシステム、薬局の使命

現在、薬局数は6万に迫り*1、病院・診療所総数(歯科以外)11万の約半数となり*2、単純計算上、いわゆる地域包括ケア単位をカバーするに至っている。

「このような現状について、災害対策をモデルにすると、薬局は災害対策基本法第7条にいう『地方公共団体の区域内の公共的団体』に位置付けられ、災害対策について相応の役務を担うことが期待されています。特に注目すべき点は、災害応急対策(救護活動)などと並行して、平時の事業活動を継続実施するように求められている点です。ピュアな2次予防活動だけでなく、地域にあって地域全体の保健衛生・生活安全を目的とする3次予防活動を実施するよう求められていると理解することができます。現在のように保険調剤にほぼ特化している薬局が、いざそのときに地域の指標・受け皿としての活動ができるでしょうか」と災害時の薬局の役割と備えについて強調された。

また、「更にもう1つ注目すべきは、『薬剤師のための災害対策マニュアル』の『平時において行うべきこと』に、災害備蓄・関係機関連絡体制整備はもとより、地域の現状調査(実態把握)や 地域住民の啓発教育、情報提供などが掲げられていることです。つまり、薬局は、すでに2次予防に特化した機関ではなく、1次予防及び3次予防を担う機関、総合的に地域の公衆衛生レベルの向上増進を担う機関と考えられているのです」。

図2:地域の薬局が平時において取り組むべきこと
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図2:地域の薬局が平時において取り組むべきこと

このような薬局の使命と持つべき機能については、医薬品医療機器等法においてもすでに健康サポート薬局に関する規定が盛り込まれ、薬局の特性に基づき、地域包括ケア体制下における1次予防から3次予防に至る一貫した地域貢献のあり方が示されている。

「今、地域包括ケアシステムへの薬局の参画において必要なことは地域を意識した1次予防と3次予防を薬局の事業としていかに展開できるかといった事業経営上の価値観の転換です。多くの薬局が事業収益の大半を保険調剤に依存している現状では、1次予防、3次予防関連業務はほぼ付加的持ち出しサービスとしてしか認識されておらず、これを本来期待される薬局臨床として再構築しなければ、現在のベクトルから離れることはできません」。

  1. 「平成29年度の衛生行政報告例の概況」(厚生労働省) 平成29年度末の薬局数:59,138施設 より
  2. 「医療施設動態調査(平成30年10月末概数)」(厚生労働省) 平成30年10月の病院・一般診療所:110,528施設 より

地域包括ケア体制下における薬局の責務 地域の公衆衛生の向上増進

超高齢・人口減少社会では、疾病構造変化と人口構造変化を背景として、さまざまな障害が起き、地域住民の生活に発生する問題を解決できない、ある意味で極めて貧しい社会像が想定される。

図3:超高齢・人口減少社会の基本病理
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図3:超高齢・人口減少社会の基本病理

「地域の生活者が、孤立し、問題を抱えたまま、生きがいもなく低劣な生活条件の中でただ日々生存しているにすぎないといった暗い未来予測に対して、これらの障害を乗り越え、更に持続可能な活力ある地域社会の創出を目指す方略が地域包括ケア体制であり、このような暗い未来予測を突破するためのキーが公衆衛生の向上です。ヒトは本来的に社会を作り、その中で自己実現を図っていく生物です。ヒトそれぞれが社会の枠組みの中でそのヒトらしく生きていくためには、心身の健康と生活の安全安心が基盤になくてはなりません。故に医療・保健衛生に関わる共助職である薬剤師、地域における健康や生活の安全安心のための指標となり得る薬局は、最もその役割を果たし得る立ち位置にあるといってよいでしょう」と鈴木氏は話す。

図4:マズローの欲求段階説
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図4:マズローの欲求段階説

薬局・薬剤師が担う公衆衛生上の具体的な課題

薬剤師は、公衆衛生の向上増進及び国民の健康な生活の確保を任務とし、その達成のための手段として、調剤、医薬品の供給、薬事衛生に関する権能を与えられている。更に薬局は薬剤師の「場」として、薬剤師の法定業務を通じて公衆衛生の向上増進及び国民の健康な生活確保を具体化する責務を負う。超高齢・人口減少社会における薬局・薬剤師の、公衆衛生上の課題と取り組みの視点はどのようなものなのだろうか。

1 調剤業務のありかた

薬局・薬剤師が「患者だけを相手に」「調剤業務のみを行う」ことは、地域包括ケアの観点から見れば時代要請にはフィットしていない。

「患者は、漠然といつごろまでにこうなりたいという期待をもって来局するでしょう。そういった期待と生活ニーズを掘り起こし、患者のバックグラウンドに沿って必要な指導や情報提供・支援を随時行えるだけのふところを持つ必要があります。医薬品医療機器等法の改正で、薬剤師は調剤時のみならず、経過観察・指導・情報提供を行うよう改めて求められることになりました。更にこれを一歩進めて、その患者の3次予防、次の段階の1次予防に向かう流れを作り出せるようなパートナーシップが求められています。これが『かかりつけ』の本旨ではないでしょうか。また、病児や認知症患者、長期療養患者を抱えた家族が来局することも多いでしょう。こうしたケースでは、家族の物理的・精神的負担が極めて大きくなっています。家族の生活基盤が崩壊しては、患者の治療や療養もままならないでしょう。患者には薬物治療、家族にはメンタルヘルス支援、さまざまな制度利用による負担軽減など、家族丸ごとのくらしの底上げというニーズがそこにあります」と鈴木氏。

2 医薬品等の供給

地域住民を対象として、医薬品等を薬局が供給するということの意義は、地域住民の健全な生活経営に貢献できる薬剤師のプロフェッショナリズム発揮の場となる。ここで必要なのは、薬剤師がその専門性に基づき、適正流通品を、適正ニーズに従って供給し、適正使用を導き、使用状況をも含めて見守るということだ。

特に、その薬を必要とする理由が適正か、というところの見極めは重要であり、ユーザーの訴えが実はその薬とあっていない場合、併用薬などがあってその薬を使うことには懸念がある場合、時には虚偽の訴えをする場合もある。特に内用薬については、薬剤師の見極めが長期的にユーザーの健康を守ることのできる第1ゲートとなる。

ユーザー・地域住民にもそのことをしっかりと理解していただき、薬の使用についての意識を高めることが大事であり、医薬品医療機器等法にも「国民自身が薬の適正使用や薬の有効性安全性についての知識・理解を深めるよう求める(同法第1条の6)」規定がある。

現在は、医薬品のみならず衛生資材や、いわゆる健康食品類についてのニーズがある。健康食品類については、情報が氾濫している状況で、ユーザーが適正な商品を独自に選択できるか疑わしい。薬局では、信頼できる製品を紹介できる体制を整えるとともに、違法製品や違法成分などについての情報提供を行い、健康食品(と思しきモノを含む)を買おうとするとき、不適正な製品の流通や使用を抑止できるのは、住民生活との水際にいる薬剤師・薬局の役割となる。

「健康食品類については適正流通品であっても、本当に使用して問題ないか、必要か、などの判断はゆるみがちです。医薬品等の供給とは、適正供給をもさしますが、これを介して、地域住民の薬識、健康意識を高め、住民生活の健全性に寄与する機会でもあることを理解しておきたいものです。また、そういった機会を活かすには、薬剤師・薬局のたゆまぬ研究・学習も必要となるでしょう」と薬剤以外の相談にも対応できる知識の必要性を話された。

3 薬事衛生

「薬事衛生」とは、とてもイメージしにくいものだが、薬局・薬剤師が日常臨床としてどのような取組が必要なのだろうか。

薬剤師法では、薬剤師の任務達成のための法定業務を「調剤、医薬品の供給、その他薬事衛生」としている。誤解されるところではあるが、薬剤師の法定業務は大枠の薬事衛生であり、そのうち調剤や医薬品の供給に帰しない領域を「その他」としている。調剤や医薬品の供給と別枠で「薬事衛生」があるわけではない。

「薬事衛生の最もコアなイメージは、学校薬剤師活動にあるかもしれません。学校薬剤師の活動は、非常に発展しており、現在は学校の『環境衛生とおくすり教育』の2本立て、おくすり教育も『医薬品の適正使用のための教育と薬物濫用防止教育』の2本立てで行われています。対象を学校から地域コミュニティへ、学童・生徒から地域住民へ拡大したとき、どのような活動が求められているかイメージできるようになると思います。この場合、『環境衛生』はその枠から主に住民の生活の場において必要な環境・条件整備のアドバイスであったり、必要な人的条件・物的条件整備、制度利用などに関するアドバイスであったりというように発展するかもしれません。いずれにしても住民生活の健康基盤をあげていくための潜在的ニーズは非常に大きいと思います」。

おくすり教育は、適正な医薬品を適正な目的・ニーズに従って、適正に使用するといった流れであれば、調剤や医薬品の供給の場面でも啓発はできるし、すでに多くの薬局で健康勉強会などが開催されている。しかし薬物濫用防止については、学校教育でやるもの、行政のキャンペーンに参加すればよい、といった線引きをしていて、日常的な課題とは捉えられていないことが多いようだ。

超高齢・人口減少社会では、住民の孤立傾向が高まる一方で、情報は氾濫している。薬物濫用の危険とは、濫用薬物の生理的危険性もさることながら、人知れず使用していくことで、危険回避意識の閾値が低下し、更なる濫用へ、濫用仲間の増大へつながり、健康で健全な生活ができなくなることであり、場合によっては意図せずに犯罪加害者になることすら考えられるので、薬物濫用防止に関する目配りや、注意・啓発活動は常に職務上の視野に入れておく必要がある。

「少し角度は違うかもしれませんが、地域のニーズに基づいて、生活安全・安心の確保を目的とする医薬品の取り扱いや導入を積極的に検討・研究していくのも薬局・薬剤師の使命です。現在話題になっているのが性犯罪被害者に対する緊急避妊薬の投与の問題です。いろいろな議論がなされているところですが、何らかの形で薬局が関与していく可能性があります。そのためには、薬局の責任能力と薬剤師の倫理感・知識・技能が高くなければなりません。そのような意味での組織的研鑽も常に求められることになるでしょう」。

地域包括ケア体制への薬局・薬剤師の参画

薬局業務を公衆衛生的視座に立って再編することによって、必然的に薬局・薬剤師は、地域包括ケア体制に参画することになる。

「地域包括ケア体制とは、かっちりとした組織建てがあるわけではなく、いわば機能的連携関係を指しています。つまり、最初にどこに位置づけられているかが決定されているものではありません。その意味では、よく目にする『地域包括ケアシステムの全体像』は実際には極めて分かりにくいものです。しかし、薬局業務を公衆衛生的視座に立って実施すると、医療のみならず、介護、福祉との連携が生まれてくるので、そうした協働関係が常態化することによって、地域包括ケア体制で想定される各局面に薬局・薬剤師の存在がものをいうということになります」と鈴木氏は話す。

図5:地域包括ケアシステム全体像
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図5:地域包括ケアシステム全体像

地域包括ケア体制における役割

これからの超高齢・少子化社会を生き抜くための社会保障体系の一員としての「役割」について、地域包括ケア体制は地域構築構想であるということから、トップダウン型ではなく、ボトムアップ型で構築し、運用していく必要があり、地域の全住民がそれぞれ役割を持ち、それぞれの役割に応じた助け合いの中で協働的に自律的な地域構築を図ることとなる。防災の考え方でいうと、復興に向かうには、相互理解のもとに助け合うという「思想」と、具体的な状況とそれぞれの能力に応じて助け合うという「関係」を築くことが大切なカギだ。

「地域包括ケア体制又は地域包括ケアシステムについて、防災の考え方に似た危機管理システムであること、並びに今後の危機を乗り越えた先をも見据えた地域構築構想であることについて話してきました。いずれであったとしても、地域住民の生命と健康、生活の安全安心を念頭に、住民の生活に最も近い位置にある共助職・共助機関である薬剤師・薬局は、住民の自助力の強化、互助関係の構築支援を担わなければなりません。薬局・薬剤師は多機能です。したがってさまざまな住民生活の局面で関わりを持っていくことが出来ます。逆に多機能であるために関わりが単発的なものであるとき、有効なものとはなり得ないことも心得ておかなければなりません。さまざまな関わりが、公衆衛生向上というビジョンのもとに持続的なものであること、すなわち、住民との関係づくりに基づいて薬局の常態的事業、薬剤師の日常的臨床業務として行われていくことが重要です」と鈴木氏は薬局・薬剤師への役割と期待を話された。

図6:自助・互助・共助・公助
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図6:自助・互助・共助・公助

公衆衛生というと、時に『薬剤師はそんなことまでやらなければならないのか』という声を聴くことがある。結局のところ、地域住民の自助力を上げていくことがその本旨といえるので、住民の健康・生活課題を引き出し、必要なアドバイスを行っていく、又は必要な物資等の供給などの計らいと自助力の共有による互助力の構築の後押しをしていかなくてはならない。

モノと情報をもって、地域住民に向き合うことのできる薬局・薬剤師が、地域包括ケアの蚊帳の外に置かれてしまうのは、これからの地域構築構想にとって大きな損失だ。

今日の危機的状況にあって、これまでのベクトル上で職務・業務を行っていくのではなく、やっていいこと、できることのふところを大きくし、地域住民に還元するような機能的再編が求められている。