【Web Excellent Pharmacy 第2回】Special - 薬学生に未来ある薬局薬剤師象を見せる ―薬剤師のタスクシフトを考えるー

益山 光一

東京薬科大学薬学部 薬事関係法規研究室/教授

益山 光一氏

薬事関係法規が専門の益山氏。だが、現在、薬剤師の業務のあり方を見直すための調査・研究に積極的に取り組んでいる。その理由は、「薬学生に未来のある薬局薬剤師象をどうやれば見せられるか?」が、東京薬科大学教授の益山氏の現在の課題であるからだ。

これまで再度に渡り、医薬分業の下で薬局薬剤師には期待が寄せられてきた。しかし、その期待に応えられていない現状がある。期待に応えるために、益山氏が提唱するのが、「患者が相談しやすい薬局づくり」と、「薬剤師による副作用報告の質と量の増加」である。

そのためのツールとして、患者に訴えかける「チラシ」を提案する。調査で上位を占めた相談内容を記載し、「チラシ」を通じて薬剤師の役割を変えていく、その方法、考え方を詳しくうかがった。

患者からの相談を促すチラシを作成

2019年3月に国会に提出された薬機法の改正案でも指摘されたように、薬局・薬剤師業務のあり方の見直しが問われている。薬局薬剤師の仕事を見える化し、対物から対人への移行が求められている。

益山氏はそのためには、「薬剤師が患者から、もっと相談を受けるようになっていかなくてはならないのではないでしょうか。患者から医療人として信頼され、聞きたいことを遠慮なく聞ける関係を作る必要があります」と話す。だが、現実、薬局では、「今日はどうですか?」「お変わりありませんか?」「いつもと同じお薬ですね」「お大事に」という会話で終わることが多いのではないだろうか。

「薬剤師に相談していいのだ」という雰囲気を作るために、益山氏が作ったのは、薬剤師に相談を呼びかけるチラシだ。

「このようなことに関心はありませんか?」と大きく書かれたあとに、①検査値の見かた②お薬を飲み続けることの負担と不安③家に余っているお薬のこと④健康に関すること(健康食品、禁煙など)⑤認知症について(ご家族のこと、相談窓口など)、が表記されている。その下にはさらに「お薬を受け取りになる際に薬剤師へご相談ください!」と書かれている。

チラシの効果を評価

益山氏は、平成29年度に薬局薬剤師に対して患者からの相談対応の経験を調査した。持ってきた処方せんの内容「以外」の相談は、どんなものがあったのかをアンケートしたものだ。その調査で上位を占めた相談内容を、今回のチラシに記載。薬局の待ち時間に、薬局薬剤師が患者にチラシを配布しながら積極的に声かけをすることで、患者からの相談件数が増加するかしないかを調査した。
出典:かかりつけ薬剤師の専門性の検討とそのアウトカムの調査
  (今井研究班分担研究、平成29年~31年度厚生労働行政推進調査事業補助金)

調査に当たっては、通常の薬局内での対応を行い、処方された薬に関係ない質問があった場合のみカウントする「介入なし」と、薬局での待ち時間に薬剤師が患者にチラシを配布し、声かけを行う「介入あり」で比較を行った。「介入なし」「介入あり」はそれぞれ3日間、できるだけ同じ曜日の同じ薬剤師が勤務する時間帯に行った。参加薬局数は71薬局、参加薬剤師数は239人だった。調査は電子メールで各薬局に周知し、データはWebアンケートで回収した。(調査日は、「介入なし」3日間、「介入あり」3日間の計6日間。「介入なし」:平成30年8月26日~平成30年9月1日の中で任意の3日を選択。「介入あり」:平成30年9月2日~平成30年9月8日の中で「介入なし」の選択日と同一曜日の3日を選択。)

これまではなかった相談が増加

調査の結果、相談数は介入なしの場合の211人から、介入ありでは381人と大幅に増加した。全有効処方せん枚数は、介入なし13743枚・介入あり14315枚と、介入あり・なしで差はなかった。

それだけではない。介入なし・ありで質問項目ごとの相談割合を比較してみると、介入なしのときは比較的どの質問もそう大きく変わらない頻度で相談を受けていた。一方、チラシを使って相談を促した場合、「検査値の見かた」についての相談は介入なしのときと大きく変わっていないが、「お薬を飲み続けることの負担や不安」や、「家に余っているお薬のこと」などの相談は大幅に増加したことがわかった。

「検査値などの質問は、もともと薬剤師に聞くことができていたと考えることができます。一方、いつまで薬を飲まなければいけないのかといった、慢性疾患を持つ患者の漠然とした不安や残薬についての相談は、今回チラシによって促されてようやく出てきたと言えます。これまでは薬剤師にこんなこと聞いていいのと思っていたのかもしれないし、医師に話せていない残薬の相談を薬剤師してはいけないと思っていたのかもしれません」と益山氏は分析する。

患者のニーズとの不一致が明らかに

この調査の結果を受けて、「患者がどんなことを相談したがっているか、薬剤師はそのニーズを理解できていない可能性があります」と益山氏は指摘する。

今回のチラシを使った調査の前の薬剤師へのアンケート調査では、慢性疾患に関しては「いつまで薬を飲み続けるのか」、「いつもと同じ薬なので病院に行かずに薬局で薬をもらえるか」、「いつも使っている薬が切れたが、病院が休診の間に使う薬を薬局でもらえるか」などの相談が上位となった。チラシでは、それらを総括して、「お薬を飲み続けることの負担や不安」について関心あれば、薬剤師にご相談くださいとした。相談のあった患者が、今まで相談できなかった理由としては、「きっかけ、機会がなかったから」、「漠然とした内容のため聞きにくいから」どこに相談していいのかわからなかった」とあり、これまで知りたくても聞いていいのかわからなかったことが、チラシがきっかけとなってこれまで聞けずにいた薬に関する負担や不安を薬剤師に「聞いていいのだ」と認識できたのだと考えることができる。

また、残薬について「相談するほどのことでもないと思っていた」、「いらない薬は自分で調節すればいいと考えていた」という意見も聞かれた。「薬が余っていても伝えるきっかけがなかったから伝えなかった」、「医師にちゃんと飲んでいると言っているのに、薬剤師に余っているとは言えない」、「医師に言われてしまうと嫌だ」という意見もあった。

「なにか聞きたいことありますか?」、「お薬は残っていますか」と聞くだけでは出てこない答えである。

チラシが隠れたニーズを引き出す

益山氏は、患者さんのこうした隠れたニーズを理解した上で、引き出しやすく働きかけて欲しいと訴える。たとえば、2019年4月24日に、中医協から「世代ごとの気になる傷病の違い」という資料が出た。このような情報を利用し、薬局の特性に合わせた情報提供を考えていくなどの工夫をしてはどうかと提案する。

「60歳以上の患者さんが多いなら、高血圧をテーマにして各降圧剤の特徴や薬価をまとめたり、ガイドラインでの位置づけを解説したものをチラシにして配ってみる。今のお薬の薬価はこれくらいですが、こちらはこれくらいです、とか、ほかの治療薬のことを知りたければ相談してくださいと持ちかけてみる。患者さんが質問できる取っ掛かりを作るのです。これのいいところは、予め調べてからお話しできるので、質問をされたときの余裕が生まれること。仮に分からないことがあったら、それは自分の勉強が足りなったとわかるし、そこからまた勉強していけばいいことです」。

強引に話をする必要はなく、チラシを配って興味のある患者さんが質問してきたら相談にのればいいだけである。「薬剤師は実はこんな知識も持っていますよ、というアピールにもなります」。

2019年4月2日に出された「調剤業務のあり方通知」を踏まえて、一定の調剤関連業務は薬剤師の責任の下で薬剤師以外に任させることが明記された。ではそこで生まれた時間を使って薬剤師は何をすればいいのかという議論が沸き起こっているが、「こうした業務に頭を切り替えていけばいいのです。やらなければならないことはたくさんあります」と、益山先生は声を強める。

今回の調査で、「資料が相談するきっかけになりましたか」という質問に、「はい」と回答したのは、8割に当たる293人。「チラシを使えば、誰でもすぐに取りかかれます。ぜひやっていって欲しいです」と語った。

薬剤師からの副作用報告も急務

チラシによる相談しやすい薬局づくりを提唱する一方で、益山氏は同時に、「薬局による副作用情報収集の推進」も呼びかけている。

きっかけは、薬薬連携による薬局・病院薬剤部の副作用報告の推進のための「医薬関係者の副作用報告ガイダンス骨子」を作成したことだった。副作用報告は、製薬企業からは年間約5万件が報告されているが、医療機関からの報告は年間5000件ほどである。

「PMDAは、医療現場からのスピーディな情報提供を望んでいます」と益山先生は話す。
医療現場ではジェネリック医薬品の使用が増えているが、MRが少ないジェネリック医薬品メーカーでは副作用報告があったとしてもすぐに動くことができない。また、ポリファーマシーが増えているなかで、多剤併用の患者に副作用が起きたときに、原因究明をメーカー側に任せても時間がかかる。

だが、医療機関、薬局なら、「多剤併用されている医薬品のうちどれが原因かは不明だが、こんな副作用が起きた」と報告できる。そういった報告が複数集まれば、PMDAが共通項を洗い出し、どの医薬品が原因かを推定できる。

高齢化社会のなかでポリファーマシーがやむを得ない面もある中、そうした報告はスピーディに行う必要がある。「だから、病院・薬局からの副作用報告をきちんと出せるようにしたいと考えたのです」。

副作用シグナル確認シートを使った聞き取り調査を実施

この「医薬関係者の副作用報告ガイダンス骨子」をガイダンスにするために詳細を検討しているなかで、「そもそも、副作用報告の多い薬局とはどういう薬局なのか」と、益山先生は疑問を持ったという。そして、それは「患者から自覚症状をしっかりと聞きとれる薬局ではないか」とインタビュー調査を実施する中で推察した。では「自覚症状をしっかりと聞きとれるようにするにはどうしたらいいのか?」と考えた。

その結果、たどり着いたのが、山口大学医学部附属病院の古川裕之氏(元薬剤部長)が作成した、「副作用シグナル確認シート」である。

「副作用シグナル確認シート」は、薬を服用したときに起こる可能性のある自覚症状が、皮膚や目、尿、手足など部位別に短いわかりやすい言葉で表記してあるチェックシートである。
益山氏はこのシートを使って、患者からの自覚症状の聞き取りの介入調査を行った。

調査は54薬局で実施。調査対象はハイリスク薬を飲んでいる患者に絞った。介入前は、特定管理指導料算定対象の医薬品を服用している患者から、何か気になる自覚症状があれば相談するよう対応した。介入時は、「副作用シグナルシート」を使用して聞き取りを行った。

出典:平成29年度30年度AMED研究「薬局・薬剤部の機能を活用した副作用報告の推進に関する研究」厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究

シート使用で相談件数が13倍に

結果は、介入前は自覚症状の相談件数は18件。一方、シートを使って聞きとったときは、238件となった。報告薬局数も、介入前は11薬局だったのが、介入調査では調査を行ったすべての薬局である54薬局から報告があった。

興味深いのは、シートには書かれていない自覚症状の相談も58件、4分の1あったこと。
「今まで自分に自覚症状があったことを伝える対象者として、薬剤師は認識されていなかったということです。シートを出すことで、シートにはないこういう症状があるのだけど、これって薬と関係あるの?という感じで相談になったようです。薬剤師を、症状を訴えていい人、それに答えてくれる人という認識に変わったのだと思います」と益山先生は見ている。

副作用報告、質の向上も同時に

「薬剤師として相談を受けやすいとか自覚症状を収集するのは当たり前のことのはずです。でも、できていない薬局も多い。これは急いでやって副作用報告につなげていかないといけません」。

だが、副作用の報告を単に量が増えるだけでは不十分だとも話す。「信頼性を高めるためには、質も高めていく必要があります。そのためには、新薬の審査報告書から新しい情報を取れる能力を上げていかないといけない」と話す。

厚労省は、薬機法の改正で、「先駆け審査指定制度」の法制化、小児の用法用量設定といった特定用途医薬品等への優先審査、「条件付き早期承認制度」の法制化を進めていこうとしている。そうした状況において、全国に約6万件ある薬局がその能力を発揮して、新薬の副作用情報を迅速に集めることができ、患者が安全に使用するためのエビデンスを作ることができたら、「薬局不要論」など誰も言えなくなる、と益山先生は断言する。

審査報告書は副作用関連の情報の宝庫

では、どうやったらその能力をあげられるのか。「それは、審査報告書を読み込むことです」と話す。

PAMDが公開している審査報告書では、添付文書に記載できるだけのエビデンスのないものの、承認審査時に注目されたリスクが書かれている。この注目されたリスクを、「承認審査時に懸念あり」のリスクとして追跡調査した研究(医療用医薬品の承認審査時の副作用に対する懸念と承認後の添付文書の重大な副作用への追記に関する研究)によると、「懸念あり」とされたリスクのうち、添付文書に追加された副作用は21.7%あった。なかでも、日本で先行して発売された医薬品では30.2%と、海外先発で発売された医薬品18.3%の倍近くが添付文書に追加されていた。

「つまり、日本で先行販売された医薬品の審査報告書はきちんと読んでいれば、副作用発現に関する高い可能性の情報収集ができるのです」。しっかり読みこんで、そこで懸念されているリスクの自覚症状を患者から聞きとることで、未知の副作用が早期に発見される可能性が高まる。

だから、「審査報告書から情報を収集できる能力」をあげるとともに、「患者から自覚症状を聞くことができる体制づくり」を同時にやっていかなければならない。「これは早急にやる必要があります。薬剤師に残された時間は少ないです」と警鐘を鳴らす。

薬機法改正は最後通牒

「時間が少ない」とはどういう意味だろうか。

2014年に出された「薬局の求められる機能とあるべき姿」、2015年の「患者のための薬局ビジョン」、そして今回の薬機法改正と、薬局薬剤師には何度も期待が寄せられ、活躍が求められてきた。

一方、薬剤師の活動がアピールできず、不要論もささやかれているなかで、「このまま薬剤師の能力をきちんと見せないままでは、調剤報酬は切られて医薬分業は失敗だったと言われかねません。今回の法改正は最後通牒です。今はまだ期待されていますが、この期待に応えられなかったら薬局薬剤師はいらないとなってしまいます。OTCや生活雑貨を売って生きていきなさい、今のままでは、そういう時代が来てもおかしくない」。

益山氏がここまで危惧するのは、薬科大学の教員という立場からでもある。
「薬学生に未来のある薬局薬剤師象をどうやれば見せられるのか」。これが益山氏の現在の課題であるという。

不要論を払拭、未来ある薬剤師象を作るために

今回の薬機法改正案では、「調剤時のみならず医薬品の服用期間を通じて、服用情報の把握による薬学的管理を継続的に実施し、必要に応じて患者に対する情報提供や薬学的知見に基づく指導を行うほか、それらの情報を、かかりつけ医・かかりつけ歯科医に提供することはもちろん、ほかの職種や関係機関と共有すること」などが義務付けられた。

益山氏は、「調剤した後のフォローアップをするのなら、そのついでに薬剤師が慢性疾患を治すくらいのことをしていけばいい」と将来像を語る。

糖尿病や高血圧など、慢性疾患の管理を真剣に考える患者には、薬の管理はもちろん、食事・生活習慣なども薬剤師がサポートしていけば、悪くなることはないだろう。数値を良くすることができる可能性もある。

「薬剤師が介入して、5年前と比べて薬が減った、数値がよくなった、なんてことになれば、薬剤師の活動は必ず評価されるはずです」。

医療の世界は、タスクシフトが課題となっている。高齢化が進み、慢性疾患が増えているなかで医師の負担を減らしていかないと医療が回らなくなってきている。だからこそ、薬剤師が薬はもちろん、栄養、運動管理などまで踏み込む意義はある。薬剤師だけで難しければ、栄養士などともタッグを組めばいい。

「医療の目的は、医師も歯科医師も薬剤師も、国民の健康な生活を確保するためであることに変わりありません。手段が、医療なのか保健指導なのか、調剤、医薬品の供給なのかとそれぞれ違いますが、これまでどおりのルールで仕事をしていたら、医師がパンクしてしまいます。タスクシフトを考えなければいけない時期なのです。職能をうまく発揮できるように視点を変えないと。タスクシフトもおこらないし、タスクチェンジも起こりません」。

大事なのは、「患者のために何をしたいか」という気持ちだと強調する。一人でも二人でも患者さんを助けられれば、医師の仕事をフォローできれば、それはやりがいある楽しい仕事につながると「信じている」という。そして、好事例をどんどん報告することで、薬剤師の仕事が世の中から見える化できる。

「そうすれば私も大学で、薬剤師ってこんなに素晴らしいやりがいのある仕事だよと、学生に胸を張って紹介できます」。そんな未来を作るために、今動く必要がある。