【Web Excellent Pharmacy 第6回】Professional - 非薬剤師社長の奮闘 ー主体的に動いて新しい市場を作り出すー

下島 宏文

下島調剤薬局/代表取締役社長

下島 宏文氏

太田 隼樹

下島調剤薬局/薬剤師

太田 隼樹氏

下島調剤薬局の代表取締役社長下島宏文氏は、5年ほど前にその職に就いた。現在、外的環境が大きく変わってきている中で、薬局の存在価値が問われている時代になっていると感じているという。

そこで、試行錯誤しながらも、薬局改革を手掛けてきた下島氏。特に力を入れたのは、「視点を変えた情報提供」と、「地域との連携」だった。

地域に根ざす100年の歴史ある薬局

八王子市の住宅地に建つ下島調剤薬局は、創業1920(大正9)年、100年近い歴史を持つ老舗薬局である。もともと薬店として、日本に健康保険法が施行される前から薬を取り扱っていたという。

「近所の人の話では、さまざまな相談に乗ってくれるよろず相談所で、お金がない人には後払いでいいからと薬を渡してくれる、今のかかりつけ薬局の原型のような場所だったようです」と、下島氏は話す。

近くにあり、多くの処方せんを応需している耳鼻咽喉科のクリニックも、開業60年となる2代目のクリニック。「どちらの患者さんもスタッフも、私が幼稚園の頃から知っている人がいて、少しやりにくい部分はありますね」と苦笑いする下島氏だが、3代にわたる患者さんも来る、まさに地域に根差した薬局である。

広い世界を見て欲しいといわれ外資系人材サービス会社に就職

下島氏は、下島調剤薬局の5代目の経営者である。だが、薬剤師ではない。薬剤師の母親から、「薬剤師にならなくてもいい。広い世界を見て欲しい」と言われ、文系に進んだ。高校時代にニュージーランド留学した時、価値観の違い、文化の違いを肌で実感し、人の価値観、働くということに興味を持ち、外資系の人材サービス会社に就職した。

その会社で人材育成、企画、営業などを経験し、その後会社を辞めて海外に行き、自ら事業を立ち上げたこともあった。

母からの、「薬局を手伝って欲しい」という依頼に応じて帰国し、初めて薬局事業に向き合った。それが5年ほど前のこと。「当時、薬局は右肩上がりのイメージでしたので、財務諸表を見てちょっと意見を言うだけかなと思っていました。でも、現実は予想と異なっていました」。

時代の変化に合わせた変革の必要性への危機感

薬局経営に携わり、一番驚いたこと。それは「自分たちが何のために、誰のために仕事をしているのかを見失っていたこと」だという。「薬を早く出せばよい。患者さんからはそれだけを求められている、という感覚。薬局としての存在価値を見失っていることにとても焦りを感じました」。

薬局業界は変わり始めている。求められているものも変わってきているし、会社としても現状のままでは以前とは同じ売り上げはあげられなくなり、雇用も守れなくなるかもしれない。「このままではまずいと危機感を覚えました」。

そこから「私たちは何のために存在しているのか?誰のためにいるのか?」を従業員全員との個別面談を通じて、それぞれの考えや思いに耳を傾けていったという。「その結果、健康という目に見えない価値を提供していきたいという思いに至りました」。

足元を見直すために取り組んだ患者満足度向上

事業の改革に乗り出した下島氏だが、「薬局業務がまったくわからないなかで、手探りの日々でした。薬剤師の研修事業など新しい事業にも挑戦しましたが、なかなかうまくいきませんでした」。

試行錯誤の日々だったが、たどり着いたのは、薬局を支えている処方せん調剤をしっかりやろう、足元を見つめ直そうということ。まず取り組んだのが、患者さんの満足度を上げることだった。

調査をしてみると、患者さんが不満を抱えているのは、待ち時間が長いということだった。「待ち時間へのクレームがものすごく多かったのです。なかには、こんなに待たせるなら他の薬局に行くぞ、と脅すようなことを言ってくる人もいました。それはスタッフをも委縮させていました」。

待ち時間の使い方を選択性に

ただ、小児の散剤も多い同薬局では、そう簡単には待ち時間は短縮できない。そこで行ったのは、待ち時間に対する主導権を患者に移すこと。薬の受け取りを、①待っている②いったん外出する③後日取りに来る―の3つの選択肢から選んでもらう方法だった。

大抵の人は押し付けられたことには不満を持つが、自分で選んだことには文句を言わない。この方法にして、待ち時間へのクレームは大幅に減ったという。

「クレームを言ってきた人を守るのではなく、ちゃんと待ってくださる方を守ろうと方向転換したのです。そうしたら、残ったのはこの薬局のファンでした」。

一方で散剤調剤ロボを導入。調剤そのものの時間は、熟練の薬剤師とあまり変わらないが、散剤調剤をマシンに任せられる分、薬剤師が別の作業ができる。作業の効率化につながった。

保護者への情報提供として始めた「こども薬局」

こども薬局の案内

また、新しい取り組みとして「こども薬局」を始めた。

小学生以下の子供に、薬剤師の仕事を体験してもらうイベントだ。目的の1つは、子供たちに薬剤師の仕事に興味を持ってもらうこと。だが、下島氏の狙いはそれだけではない。「保護者に、子どもと一緒に薬剤師の仕事を見てもらうことで、カウンターの内側で何をしているのかを知ってもらうのが目的です。軟膏詰めや分包を体験してもらって、調剤にはどのくらいの時間がかかるのかを体感してもらうために始めました」。

子供の体験を通して保護者にも薬剤師の仕事を知ってもらい、その上で待ち時間をどうするかを考えてもらえば、クレームも減らせると考えたのである。

「こども薬局」は、実は保護者への情報提供として行われたものであった。

薬局でパッションフルーツの販売会

パッションフルーツ販売会

2019年9月には、薬局でパッションフルーツの販売会を行った。なぜ、薬局でパッションフルーツなのか。

下島氏は、「処方せんが無くても気軽に入れる、なんでも相談できる薬局として、心理的なハードルを下げるための方法を探っていました」と話す。そんなとき、八王子商工会議所で、JA八王子と連携し、農業支援を行っているサイバーシルクロード八王子の担当所管がパッションフルーツを八王子の特産品として押し出そうとしていたのを聞き、薬局でパッションフルーツの販売会ができないかと持ち掛けた。

八王子産のパッションフルーツは、地元のレストランやホテルともコラボして売り出していた。そこには、美味しい食べ方や活用レシピなどに興味を持っている人が訪れる。

一方、薬局での販売会には、それとはまた異なる興味を持った客が来ることがわかった。

「パッションフルーツにはどんな栄養素が入っているのか、それは健康や疲労回復にどんな効果があるのか、などに興味を持った人が来ることが分かりました」。薬局というフィルターを通すと、1つの商品も異なった観点で見られる、付加価値が付いているように見えることがわかったのである。

パッションフルーツ販売会1

パッションフルーツ販売会1

パッションフルーツ販売会2

パッションフルーツ販売会2

変化してきた薬剤師の意識

こうした経営者の取り組みを、同薬局の薬剤師はどうみているのか。

太田隼樹氏は、「こども薬局では、うちの子になぜこの薬を出したのかとか、こっちの薬を希望したのに別の薬を出されたなど、親御さんから普段の投薬時には聞けなかったことを質問されることが多い」と話す。

親御さんからの質問に答え医師の処方意図を説明できるように、診療終わりに話を聞きに行くなど関係性を密に取れるように気を配るようになったという。「薬剤師は、これまでは、ただ調剤すればいい、薬が足りてればいいという感覚だったことも事実です。社長から、会社の在庫のことを考えたり、患者の負担、国の負担も考えるという視野を学びました。考え方が変わって来たことを実感しています」とも話した。

主体的に動いて新しい市場を作り出す

これから、「新しい市場を作っていきたい」と話す下島氏。

たとえば、企業で働く世代の健康を、薬局が関与することで守りたいと話す。「ある程度の規模の企業になれば産業医がいますが、中小企業では、従業員の健康管理をする人がいません。そこに薬局がコンサルタントとして入ることで、健康維持に貢献できればと考えています」。従業員だけでなく、その家族の健康相談があればそれも受ける。そのなかでOTC医薬品の販売や受診勧奨はもちろん、老人ホームなどの地域のインフラの紹介にもつなげていくという構想を練っているという。

「それが私にとっての市場作りです」と下島氏。そのためには、地域とのつながりが重要になる。現在、八王子商工会議所の中でのネットワーク作りを行っているところだ。パッションフルーツの販売は、その活動の中から出てきた動きである。

主体的に動いて新しい市場を作り出す。これまでの薬局経営ではあまりなかったことではないだろうか。非薬剤師社長のこれからの活躍に期待したい。