【Web Excellent Pharmacy 第3回】Professional - つなげ、つながる連携作り 地域全体のスキルアップに、薬剤師ができること

田島 敬一

熊谷市薬剤師会 会営薬局 江南店/薬局長

田島 敬一氏

熊谷市薬剤師会の会営薬局江南店に勤務する田島氏。日々の業務に取り組むなかで、地域の病院やクリニック、多職種とのつながりを大切にした業務を行っている。

「埼玉吸入指導マイスター制度」を立ち上げた、北埼玉吸入療法連携会における田島氏の活動を中心に、地域連携のあり方について、考えを伺った。

医師と共に吸入療法連携会を発足

熊谷市では、埼玉県立循環器・呼吸器病センターが中心となって「北埼玉吸入療法連携会」を設立、同センターの医師、病院薬剤師、そして地域の薬局薬剤師が共に活動している。

「北埼玉吸入療法連携会」は、気管支喘息やCOPDの患者の吸入療法を成功させるため、病院と薬局が連携し、吸入指導の質向上を目的とした任意団体である。

田島氏はその立ち上げ当初から、この連携会に関わっている。

埼玉県立循環器・呼吸器病センターの医師から「吸入療法を成功させるには、患者さんがデバイスをどれだけ正確に使えるかにかかっている。それをどうにかしたい。一緒にやってもらえませんか」と、話を持ち掛けられたのが最初だったという。

田島氏は「こちらとしては、ぜひともやらせてくださいという気持ちでした」と当時を振り返る。

そして、同センターの病院薬剤師と一緒に、デバイスの操作の指導マニュアルや、指導のための手法などの検討を始めた。

「ただ、どうしても指導能力に個人差が出てしまいます。議論のなかで、能力の高い人は適正に評価されるべきではないかという意見が出てきたのです」。

薬剤師の実力を評価する吸入指導マイスター制度

そこで作られたのが、「埼玉吸入指導マイスター制度」である。

「埼玉吸入指導マイスター制度」は、吸入指導に関する継続的な学習を行う薬剤師を評価し、学習意欲を支援、吸入指導に関して一定以上の指導を行える薬剤師の育成を図ることを目的としている。

加えて、吸入指導を必要とする患者に対して、質の高い指導を行える薬剤師の所在について情報提供を行うことを目指した。

この制度では、吸入指導技術の熟達度に応じて、初級マイスター、上級マイスター、吸入指導教育薬剤師の3つの階級がある。

認定要件 は、研修会の参加率が重要視される。初級マイスターでは、吸入指導ネットワークによる年5回の研修会について、2年間で6回以上の参加が必要条件となる。上級マイスターは、研修会に毎年4回以上参加し、かつ3回(最低3年)初級マイスターを維持・更新するか、もしくは初級マイスターを有し、年1回開催の集中講義を受講し、確認テストに合格することが必要とされている。

形式だけの認定制度にしない、実力をもった薬剤師を育てるという意気込みが伝わってくる。

マイスターの印は田島氏がデザインしたバッジ

埼玉吸入Meisterバッジ

吸入指導マイスターになると、吸入指導マイスターリストに掲載され、熊谷市薬剤師会のホームページや関連病院に名前と所属薬局名が提示される。また、吸入指導マイスターの印として、バッジがもらえる。

このバッジは田島氏がデザインしたもの。胸につけておくことで、その薬剤師が吸入マイスターであることが一目でわかるようになっている。

医師が、ほかの医師から紹介を受ける場合、施設宛に紹介状が来ることはなく、その医師個人に宛てて紹介されてくる。

「それなら、薬剤師個人が識別され、評価される形にならないとスキルアップしないのではないかという意見が出されて、この人が吸入マイスターだとわかるバッジ を作ったのです」。

マイスター制度の運用法

患者は、医師から指導せんが出されて薬局を紹介される。熊谷市薬剤師会のホームページからアクセスできる連携会のウェブサイトには、吸入指導マイスターが在籍する薬局を載せたマップがある。

「医師はマップを患者さんに見せながら、吸入指導マイスターがいる複数の薬局を提示します」。

当初、特定薬局への誘導にならないかとの懸念もあったが、複数の薬局を提示するこの方法なら、誘導にならないことも確認した。

「患者さんからしても、主治医から『薬局でバッジをつけた薬剤師に、吸入の方法をちゃんと教わって来て』と言われるので安心されるようです。吸入指導をした結果も医師にフィードバックできるし、薬剤師としても非常にやりやすい制度です」。

また、吸入指導は指導料が算定でき、それをやることによって処方せんが来ることにつながるため、薬局経営者からの理解も得られやすいことも、メリットの1つである。

指導を確実に行うことが吸入療法の成果につながる

何より、「吸入薬の効果がきちんと確認できることが成果です」と田島氏は話す。吸入薬は、それがどんなに効果の高い薬剤であっても、適切に操作しないと効果を引き出すことができない。薬の効果が得られない時に、患者がきちんと服用できているのか、それともその薬の効果が出ていないのか、見極めるのは難しい。

きちんと指導され、使えていることが確認されているのなら、薬の効果が見極めやすい。

「実際、指導していて、意外と上手くできていないことが多いことがわかりました。また、大事なのは指導よりも、エラーを見抜くこと。一見、ちゃんと吸えているように見えて、思わぬところで間違っていることも少なくありません。ただ手順通りに指導するだけではなく、この患者さんがどこで間違いを起こしているのかを見抜く目が大切です」。

先日も、吸入器を使っている患者から、声枯れを訴えられた。患者は病気の悪化を心配して専門医への紹介を希望したが、吸入薬の影響を疑った田島氏が、吸入後のうがいの徹底や食前での吸入を勧めた結果、症状が消失したという。

「患者さんからしたら原因がわからなくて不安な出来事でしたが、専門医にかかるまでもなく、薬局でその原因が特定でき、非常に感謝された事例でした」。

吸入指導のスキルアップの取り組みは、2014年3月に、熊谷地区吸入指導連携会勉強会として開始した。続いて、隣の深谷市で同様の取り組みをしていた埼玉喘息・COPD研究会と連携、協力して2017年2月に埼玉吸入療法ネットワークを発足、埼玉吸入指導マイスター制度を導入した。

さらに、同じ埼玉県下の朝霞市や東松山市の薬剤師会とも連携をとることになり、2018年11月には名称を北埼玉吸入療法連携会に改めた。

熊谷市から始まった病院と薬局薬剤師のこの取り組みは、近隣の地域へと広がり、26人の薬局薬剤師が埼玉吸入指導マイスターとして活動している(2019年7月現在)。

アンテナを高く掲げることで連携が広がる

病院の医師・薬剤師とこうした連携を取る一方、田島氏は、薬剤師会における地域活動(健康フェア)や、在宅における多職種連携や臨床教育にも力を入れている。

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健康フェア―案内

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子供体験コーナーのハンドクリーム作成

地域の在宅診療をしている医師に協力して、定期的に多職種カンファレンスを開き、地域の医療職・介護職のスタッフとも学び合っている。

多職種連携カンファレンスの様子

多職種連携カンファレンスの様子

その在宅診療医とは、互いに臨床教育への関心の高さで共感することもあり、「クリニックに医大の実習生が来た時に、半日ほど薬局で預かって薬局業務について勉強をしてもらったり、薬局の実習生を訪問診療に同行させていただく」など、協力して後進の指導を行うほどの関係となっている。

こうした濃密な連携関係を構築する秘訣をたずねると、「周りに熱意のある先生がいらっしゃったことが一番の要因ですが、自分が井の中の蛙にならないよう、常にアンテナを高く掲げようと思っていたことも、きっかけにはなっていると思います」と話した。

「患者さん中心でものを考えるという、志の部分で波長が合う方というのは、話していてピンとくることが多いです。そうした方と深く話をしていって、今の関係が作れたのだと思っています」。

連携を広げることで広げたい薬剤師のエビデンス

こうした活動を通じて、「薬剤師のエビデンスを作っていきたい」と話す田島氏。

エビデンスとは「添付文書に書いてあることを伝えて良しとしているだけではだめです。たとえば、抗菌剤を服用した場合、便秘薬の酸化マグネシウムは2時間あけて飲みなさいと添付文書には書かれている。それを患者さんに『2時間あけてください』と伝えるだけでは足りません、便秘の状態を確認して、現在便秘がないのであれば5日間中止にしてもらうとか、患者さんの状況に合わせた提案をしていかないといけないと考えています」。

そうした個別の提案が、多くの薬剤師ができるようになって、「薬剤師のエビデンスが構築できる」と田島氏は考えている。

連携、教育を通じて、そうした薬剤師を増やしていくことがこれからの目標だと話した。