【Web Excellent Pharmacy 第2回】Professional - 新規開局の調剤薬局、地域への「溶け込み方」

小林 晃洋

株式会社アルガイア いろり薬局/薬剤師

小林 晃洋氏

地域の患者さんに信頼され、地域に根差した薬局、薬剤師でありたい。その思いをどのように実現すればよいのだろうか。

東京都豊島区のいろり薬局薬剤師、小林晃洋氏は、開業前から「地域の人脈の中に入り込む」ことを徹底して実行してきた。開業1年にしてその手応えを掴んでいるという。がむしゃらに思いだけを前面に押し出して活動しても、地域の人たちの心はとらえられない。 間口を広く、垣根を低く、コミュニケーションを密に。「普通じゃない」薬局を目指してきた小林氏の、地域への溶け込み戦略はどのようなものなのだろうか。お話を伺った。

開業半年前から地域でアピール

小林晃洋氏は、2018年6月1日にいろり薬局を豊島区東長崎の駅前に開局するまで、さまざまな経験を重ねてきた。大手薬局では役員まで務めた。薬剤師としてのスキルや知識はもとより厚くなったが、「人を育てたい」との思いがつのり、退社して人材派遣業などの会社も興した。

「自分自身で仕事を考え行動して、そこから返ってくるものを活かせるような人材を育てたかったのです。大手ではなかなかそのような人の育て方、教え方はできないですね」。

一見、薬剤師の業務とは少し方向性が違うようにも見える。しかしながら、小林氏は「薬剤師=医療」というピンポイントなものの見方ではなく、より広く社会全体に役立つという視点で自身の仕事を捉えている。現在のいろり薬局も、小林氏のそのような仕事ぶりをみていた医師からの声かけで開局が実現した。

「予防医療を中心にやりたいと考えている先生でした。私自身、漢方が好きで予防医療も積極的に手がけていきたいと思っていましたので、お声かけに呼応する形で開局を決めました」。

以来、小林氏は綿密な計画を立て、地域に溶け込むことに努めてきた。開局の6ヶ月ほど前から、近隣で開かれる医療・介護系の会合に片っ端から出席、開業のアピールを続けた。結果、いろり薬局のスタート時から、会合で知り合った人たちからの紹介で患者さんが処方箋を持ってやってきた。また知り合った人たち自身も患者として来てくれたりもしたという。

地道に一歩ずつ地域の信頼を得る

順調なスタートを切れたその陰には、小林氏の創意工夫と地道な努力があふれていた。ただし、すべてが成功したわけではなかった。

「開局の直前に2日間、地域の子どもさんたちを対象に子ども薬剤師のイベントを企画して開催しました。小児科の門前薬局にいた経験から、子どもさんをターゲットに集客すれば、その親御さん、さらにお祖父さんお祖母さんと3代にわたるご家族に来ていただけることを知っていました。ところが、イベントには狙い通り子どもさんを連れたご家族がたくさん来てくださったのですが、患者さんとしてはその後なかなか来ていただけませんでした」。

多くの薬局で、薬剤師が知恵を絞ってイベントを開催するが、蓋を開けてみると友人知人しか来ていなかったというような結果になりがちだ。だが「そこで諦めないで、と伝えたい」と小林氏。

「もともと地域での活動は、簡単に成功するものではないんです。地道に続けることが何より大事です。1ヶ月に1回と決めたら、たとえ知り合いしか来なかろうが続ける。そのうちに、『何かやっているらしいよ』と地域で口コミ的に広まり、1人、2人と来てくださる人が増えるんです。それが、地域での信頼につながっていくのだと思います」。

商店会の付き合いも大事にしている。そして薬局でのイベントなどを入り口に、少しずつ自分自身の理念、やりたいことや将来像をアピールし印象付けていく。

「この薬局は、薬剤師は何をしてくれるのだろう、何ができるのだろう」という視線に応え続けていくことは簡単ではないと小林氏は語る。処方箋を持たない人にも気軽に入ってきてもらえるよう、店頭に置く品物にもアンテナをめぐらしてみた。

「健康に関心を持つ人の目に止まるような、カカオ成分の高いチョコレートや、マヌカハニーなどを置いてみました。開店当初は人気でしたが、最近になって飽きられてきているかなと感じています。こういうものは、いわばコンテンツの部分ですが、コンテンツは他の店、他の人がより良いもの、新しいものを打ち出せば、人はそちらに興味を移してしまいます」。

真に人を惹きつけるのは、やはりその薬局、薬剤師の理念の部分だと小林氏は考える。その一方、いきなり理念を語っても重すぎて人の心には響かない、ということも経験的に理解している。

「『入り口』は間口を広くして気楽に入ってきていただき、時間をかけて対話することで、深い思いも伝えられるようになります。また10人の顧客がいれば10人全員に響かせようとせず、10人のうち3人に響かせて、絶対的なファン(店の/自身の)になってもらえればよいと考えています」。

漢方薬は「相談」を印象付けるツールにもなる

いろり薬局は、「相談薬局」を目指している。といっても、「お気軽に相談においでください」という文言だけで成り立つそれではない。

「厚労省が提唱している健康サポート薬局とか、かかりつけ薬局・薬剤師に乗っかるということではなく、昔からどこの街にもあった薬局のイメージです。病気で困っているときだけでなく、ちょっと気になること、知りたいことがあるときに気軽にふらりと立ち寄って話をしていける。なんでも尋ねたり相談できたりする場所ですね」。

漢方薬の考え方は、人を、病気や医療のピンポイントで見るのではなく、人としての全体像、生き方や生活、環境まで広い視野から見るものだ。薬局に相談に訪れる患者さんが求めるものも、「治療」そのものではない場合が多いと小林氏は話す。

「西洋医学では患者さん本人の思うような状態にならなかった、というような場合に、『漢方でどうにかならないものだろうか』とここに来られるんです。いろり薬局は、漢方を専門とする佐藤澄江薬剤師がスタッフとして常駐する漢方専門薬局でもあります。でも保険調剤のエキス剤を処方箋にしたがって出すだけではありません。土瓶で煎じて飲むタイプの漢方のお茶なども扱っています。もちろん、必要に応じて受診勧奨もしますし、本格的な漢方の治療を受けたい方には処方箋を出してくれる医療機関を紹介します。そこまでではない、でも良くなりたい、健康になりたいという方に、漢方茶はマッチします」。

いろり薬局で扱う漢方茶に処方箋は必要なく、患者さんにとっても安価で試しやすく、かつ続けやすい。

「薬局の外の幟をみてふらりと入ってくる方にも対応できます。漢方茶は街の薬局で扱いやすいものなのです。店頭でも飲めるようにしていますので、毎朝通勤前によってくださる方もいらっしゃいます」。

漢方薬は「相談薬局」を印象付けるツールとしてとても有用だと小林氏は話す。だが、それだけではなく、漢方薬のあり方そのものが、いろり薬局と、薬剤師としての小林氏自身とリンクしている感がある。

漢方講習会の案内

漢方講習会の案内

漢方茶

漢方茶

制服を着ていないときに患者さんと会いたい

いろり薬局のロゴは、自在鉤に鉄鍋が下げられた囲炉裏をデザインしたレトロな雰囲気のものだ。薬局の前には季節の草花やハーブなどの鉢植えが並べられ、腰を下ろして休めるように縁台がしつらえられている。店内には畳を敷いたベンチがあり、カウンターも温もりのある木の色だ。そこには「清潔だが医療機関らしい」よそよそしさがない。

「薬局らしからぬ薬局をやっていきたいんです」。小林氏も佐藤氏も、薬局業務の合間には店の外に出て、道路の掃除や、鉢植えの手入れをしながら、地域の人たちと積極的に会話しているという。

「制服を着た薬剤師の私より、もっといろいろな私の顔を、地域の人には見てもらえたら嬉しいなと思っています」。

小林氏は、地域の仲間が職種を問わず気軽に集う「いろりくらぶ」という会を主催している。メンバーには近隣の患者さんもいるという。
「真面目な話を気軽に仲間内でできるような環境づくりですね。専門家を招いて登壇してもらい、そのあとは参加者同士でディスカッションもします。医療だけではなくて経済、社会生活、家庭生活、教養、娯楽と、幅広いコンテンツがあります。活動を通じて、参加してくださる皆さんの暮らしやライフスタイルをサポートしていけたらと思っています」。

小林氏は、いろり薬局の活動で地道に地域に根ざし、街づくりにつなげることが出来ればと想いを話された。

いろりくらぶの様子

いろりくらぶの様子