【Web Excellent Pharmacy 第9回】Education - 緊急避妊薬のオンライン処方スタート ―果たすべき薬剤師の役割はー

堀 美智子

医薬情報研究所 株式会社エス・アイ・シー/取締役 医薬情報部門責任者

堀 美智子氏

2020年4月、緊急避妊薬のオンライン処方が可能となる。それを応需するためのオンライン診療に伴う緊急避妊薬の調剤に関する薬剤師の研修会(以下:研修)も開始される。緊急避妊薬の問題は、女性、そして地域の健康に薬局薬剤師が関わっていく覚悟を問うものである。

緊急避妊薬のオンライン診療が可能となることで、薬局薬剤師の役割として何を求められているのか、そして何を見据えて活動をしていかなければならないのか、緊急避妊薬のスイッチOTC化についても数々の提言をしている医薬情報研究所 株式会社エス・アイ・シーの堀 美智子氏に話をうかがった。

緊急避妊薬を巡る議論

緊急避妊薬は、日本では2011年に製造承認を受け販売を開始、2019年にはジェネリック医薬品も発売されている。医師の処方が必要な処方箋医薬品だが、保険適応にはなっていないために、価格が高額となり診療費用も含めて金銭的なハードルが高く、必要とする若年層などには手が届きにくいと指摘されており、SNSなどを利用した海外からの個人輸入品や、その転売や譲渡といった事案も起きている。また、海外輸入の未承認医薬品には健康被害の恐れや偽薬のリスクも懸念されている。

2017年には、緊急避妊薬のOTC化が検討されたが、「性教育の浸透」など、周辺環境に関する課題などを理由に見送られた。

このような経緯から、2019年7月、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」1)の改訂において、緊急避妊薬の処方が新たにオンライン診療の対象とされ、2020年4月から緊急避妊薬の処方が開始されることとなった。

指針の改訂では、「近くに受診可能な医療機関が無い場合(地理的な要因の他、性犯罪による恐怖がある場合)に限って、産婦人科医や研修を受けた医師によるオンライン診療を実施し緊急避妊薬を1錠のみ院外処方とし、薬局にて研修を受けた薬剤師の面前で内服する」などが要件とされている。

図1:緊急避妊薬の適切な利用促進に向けた取り組み
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図1:緊急避妊薬の適切な利用促進に向けた取り組み

出典:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」第5回 資料1より2)

図2:緊急避妊薬の適正な使用促進に向けた取り組みによる変化
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図2:緊急避妊薬の適正な使用促進に向けた取り組みによる変化

出典:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会」第5回 資料1より2)

緊急避妊薬は必要としている女性に届くのか

緊急避妊薬のOTC化について提言を行ってきた堀氏は、緊急避妊薬のオンライン診療について「一歩前進した」と評価しながらも、「私自身は、緊急避妊薬はOTC薬として、薬局薬剤師の説明を通して提供できるかたちになることを切望しています」と語る。

必要な人が迅速に薬を入手できないという問題が指摘されているなか、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」改訂で示されたシステムでは、①オンラインで診療を受け、②薬局に行って投薬を受ける、③服薬3週間後に産婦人科を受診するという3段階のアクションが必要となり、利用できる人も限られ、従来の医療機関への受診と大きく変わっていない。

「予期せぬ妊娠を防ぎたいと考えたとき、なぜ、インターネットで偽薬のリスクもある緊急避妊薬の入手を考えなければならないのか。女性から見て、産婦人科の受診は、何もなくても非常に抵抗があって、ハードルが高いことがその理由だと思っています。なぜ、医師を介することなく、地域で最もアクセスの良い医療従事者である薬局薬剤師を活用し、速やかに必要な人に薬局で緊急避妊薬を投薬することができないのか」堀氏はそこが大きな問題だと話す。

堀氏が緊急避妊薬に興味を持ったきっかけは、ある書籍で子供を殺めてしまった女性の話を読んだことからだったという。その女性は無知のために妊娠し、中絶のための費用がないこと、病院が遠くて受診できないことなどから出産し子供を殺めてしまった。

「もし彼女に緊急避妊薬の知識があれば、そして身近に手に入る環境があれば、子供を殺めるという行為におよばなくてすんだのではないか、と考えたのです」と話す堀氏。

「緊急避妊薬のOTC化については、性風俗の乱れを心配する声もあがっています。一方、妊娠を巡っては、虐待、レイプ、無知、貧困といったさまざまな問題があります。そうした女性の被害をもっと真剣に考えるべきではないでしょうか」と声を強める。

そして、「緊急避妊薬については、それを必要としている女性の立場に立って話す必要があるのですが、現状の議論はその視点が抜け落ちています」と指摘する。

海外ではOTCとして薬局で販売

写真1:海外の薬局で購入した緊急避妊薬
写真1:海外の薬局で購入した緊急避妊薬

堀氏は、欧米各国の薬局にも視察に行っている。視察に行った国では、必ず薬局で緊急避妊薬を購入するのだという。

「多くの国では薬剤師が緊急避妊薬を出すことが出来ます。また、薬局で簡単に購入が出来る国もあります。販売の方法は、緊急避妊薬を調剤室に置いておかないといけない国から、風邪薬と同じように陳列棚に並んでいる国などさまざまですが、価格も安価で買うことができます。そういった国々でも、最初から緊急避妊薬を薬局で入手できたわけではありません。妊娠を巡るさまざまな事情から、緊急避妊薬をきちんと供給すべきではないかという女性の団体や薬剤師たちが運動し、許可を得て地域に供給してきたという歴史があるのです。現在、緊急避妊薬がOTC薬として薬局で買って使えるようになっている諸外国で、大きな問題が起こっていないことを考えれば、日本でもOTC化し、薬剤師という職能を持って供給が出来るのではないか思っています」と話す。

しかし、ただ、薬局薬剤師が緊急避妊薬に関われば良いという話ではない。「そうした役割を果たしていくためには、常日頃から、地域の健康づくりにも積極的に関わることが必要です。今、セルフケア全般を含めた地域への役割を示して行かないと、地域の中で薬局薬剤師の役割が認められなくなります」と警鐘を鳴らす。

すべての薬剤師が受講する覚悟が必要

今回の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」改訂では、オンライン診療で緊急避妊薬の処方箋を受ける薬局薬剤師に対して、研修が義務付けられている。厚生労働省からは、オンライン診療で緊急避妊薬を調剤する薬剤師に義務づけられる研修の円滑な実施を求める通知3)が出された。

薬剤師向けの研修は、日本薬剤師会と都道府県薬剤師会が各都道府県で実施することが予定され、地域の医師会や産婦人科医会と連携することとされている。また、薬剤師会に所属しない薬局の薬剤師でも参加できる。

研修に参加した薬剤師とその薬局は、「オンライン診療に基づき緊急避妊薬の調剤が対応可能な薬剤師および薬局一覧」として、厚労省は2020年3月までにリストを公表し、随時更新していく考えだという。各都道府県ではリスト公表前の3月にかけて研修が行われるとみられる。

研修プログラムは、①オンライン診療に基づき緊急避妊薬を調剤する薬局での対応、調剤等について、②月経、月経異常、ホルモン調整機序その他女性の性に関する事項、③避妊に関する事項、緊急避妊薬に関する事項―などを踏まえた内容で作成中としている。

堀氏は、「これから研修が始まりますが、これは薬剤師が地域の中で存在を示すための一歩です。もし、薬剤師が緊急避妊薬に関心を持たず、自分には関係がないと研修を受けなかったら、薬剤師はその役割を果たそうとしていないという評価にすらつながってしまうので、この研修に積極的に取り組んでほしいと思っています。しかし、なぜそれがオンライン診療限定の話でとどまっていいのか。患者が、産婦人科を受診して緊急避妊薬の処方せんを持って来た時に、研修を受けていない薬剤師が応需していいのか。医師が説明をしているから、薬剤師は投薬するだけでいいということなのでしょうか。また、今回の研修にあたっては、薬剤師会の会員ではない薬剤師も参加し易くなるようにし、薬剤師全体が一丸となって取り組む形をとってほしいと切望しています」と今後の課題についても話された。

  1. 「オンライン診療の適切な実施に関する指針」平成30年3月(令和元年7月一部改訂)(厚生労働省)
  2. 「オンライン診療で緊急避妊を行う場合の要件等について」
    第5回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会(2019年5月31日) 資料1
  3. 「『オンライン診療の適切な実施に関する指針』を踏まえた緊急避妊 に係る診療の提供体制整備に関する薬剤師の研修について(依頼)」(令和2年1月17日薬生総発 0117 第7号)