第3回「治験調整医師が解説、ELEVATE試験とは」「ラツーダの双極性障害うつ治療におけるポジショニングとは」

「治験調整医師が解説、ELEVATE試験とは」「ラツーダの双極性障害うつ治療におけるポジショニングとは」

 2020年6月、本邦でラツーダが「統合失調症」および「双極性障害におけるうつ症状の改善」を効能・効果として発売となりました。そこで7月に『Seeking for Long Term Success』と題した第1回ラツーダ発売記念講演会が開催されました。本コンテンツでは、3回にわたり、この発売記念講演会の模様をレポートします。
 第3回の今回は、「治験調整医師が解説、ELEVATE試験とは」、「ラツーダの双極性障害うつ治療におけるポジショニングとは」をダイジェストでお届けします。ぜひ、ご覧ください。

加藤先生からラツーダの位置づけと ELEVATE試験についてご紹介いただきました

治験調整医師が解説、ELEVATE試験とは

最新の海外治療ガイドラインにおける双極性障害のうつ症状に対するラツーダの位置づけ

加藤 忠史 先生

加藤 忠史 先生
順天堂大学医学部
精神医学講座 主任教授

<加藤先生>
 ラツーダは、日本で開発された薬剤で、海外では副作用の懸念は少ないと考えられ、双極性障害におけるうつ症状に有効だといわれていましたが、なかなか日本では使えないというドラッグラグが生じていました。そのような状況の中で、何とかこの薬を日本に届けられればと思い、ELEVATE試験の治験調整医師を担当させていただきました。
 双極性障害におけるうつ症状の治療に関して、ラツーダは、カナダ気分・不安治療ネットワーク(CANMAT)、国際双極性障害学会(ISBD)、国際神経精神薬理学会(CINP)などの海外の主要なガイドラインで、第1選択薬に位置付けられています。

ELEVATE試験:概要

加藤先生
 本試験の対象は双極Ⅰ型障害患者(大うつ病エピソード)525例であり、プラセボ群、ラツーダ20-60mg群、ラツーダ80-120mg群*に治験薬を1日1回夕食後に6週間経口投与しました。
 対象に双極Ⅱ型障害患者が組み入れられていないのは、日本ではこの診断にばらつきがあるためです。日本では、うつ病やパーソナリティ障害に近いような患者も双極Ⅱ型障害と診断されるケースが少なくないため、本試験では双極Ⅰ型障害患者のみを選択基準としました。

*ラツーダ80-120㎎は承認外用量です。

ELEVATE試験:有効性

加藤先生
 主要評価項目である6週時のMontgomery Åsberg Depression Rating Scale (MADRS)合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−10.6、ラツーダ20-60mg群−13.6、投与群間の差−2.9と、ラツーダ20-60mgはプラセボに比べてMADRS合計スコアを有意に低下させ、プラセボに対する優越性が検証されました。なお、effect sizeは0.328でした。この結果は、重度に近い中等度のうつ状態で、入院を必要とするような患者さんが、外来での治療が可能になる状態まで回復したというイメージが近いと思います。また、副次評価項目である各評価時点のMADRS合計スコアのベースラインからの変化量は、ラツーダ20-60mg群では投与開始2週目よりプラセボと比べ有意な改善が認められました。

 MADRS項目別スコアのベースラインからの変化量については、うつ症状の中核症状である「外見に表出される悲しみ」や「言葉で表現された悲しみ」など、各項目のスコア変化量はこちらに示すとおりです。

ELEVATE試験:安全性

加藤先生
 副作用発現頻度は、プラセボ群55例(32.0%)、ラツーダ20-60mg群71例(38.6%)、ラツーダ80-120mg群*87例(51.5%)でした。発現頻度5%以上の副作用は、プラセボ群ではアカシジア11例(6.4%)、悪心8例(4.7%)、ラツーダ20-60mg群ではそれぞれ24例(13.0%)、12例(6.5%)、ラツーダ80-120mg群*ではそれぞれ38例(22.5%)、18例(10.7%)などでした。また、アカシジアの重症度およびアカシジアによる投与中止率も解析されており、重度のアカシジアは、ラツーダ80-120mg群*で2例(1.2%)認められましたが、プラセボ群および承認用量のラツーダ20-60mg群では認められず、すべて軽度または中等度のアカシジアでした。プラセボ群でも6.4%にアカシジアが発現しており、試験中にアカシジアの注意喚起をした結果、気になりすぎてノセボ効果が出たのかもしれません。

 さらに、本試験では臨床検査値への影響も検討されています。6週時の体重のベースラインからの変化量は、プラセボ群−0.22kg、ラツーダ20-60mg群0.23kg、ラツーダ80-120mg群*0.22kgでした。血糖に関しては、HbA1cが、プラセボ群−0.01%、ラツーダ20-60mg群0.02%、ラツーダ80-120mg群*0.02%でした。
 重篤な副作用は、プラセボ群1例1件[躁病1件]、ラツーダ20-60mg群0例、ラツーダ80-120mg群2例2件[自殺企図、パニック発作各1件]に認められました。投与中止に至った有害事象は、プラセボ群7例[好中球減少症、急性心筋梗塞、胃炎、悪心、嘔吐、疾患進行、アカシジア各1例]、ラツーダ20-60mg群6例[嘔吐、機能性胃腸障害、肝障害、アカシジア、躁病、自殺念慮各1例]、ラツーダ80-120mg群16例[悪心4例、疾患進行、アカシジア各3例、嘔吐、腱断裂、筋骨格硬直、ジストニア、不眠症、呼吸困難各1例]に認められました。試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。

*ラツーダ80-120㎎は承認外用量です。

まとめ

加藤先生
 双極性障害は社会的機能が障害されやすい疾患で、うつ症状に対する治療は有効性および安全性の両方の観点からアンメットメディカルニーズが高く、新たな治療薬が待ち望まれていました。本日ご紹介したELEVATEの結果などもご参考にして、双極性障害におけるうつ症状治療のオプションのひとつとして、ラツーダをご検討いただきたいと考えています。

web配信ご視聴の先生から寄せられたご質問にお答えいただきました

web配信ご視聴の先生から寄せられたご質問

Q.ラツーダは、双極Ⅱ型障害患者にも効果はあるのでしょうか?

加藤先生
 日本では、双極Ⅱ型障害と診断される範囲が大きく、アメリカでは双極Ⅰ型障害と診断されるような患者でも双極Ⅱ型障害と診断されていることがあります。そのような、双極Ⅰ型障害に近い双極Ⅱ型障害には、ラツーダの有効性は期待できると考えています。なお、『日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ. 双極性障害』では、双極性障害における抑うつエピソードの治療に関して、双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害は特に区別されていません。

“ラツーダの双極性障害うつ治療におけるポジショニングとは” をテーマにご討議いただきました

ラツーダの双極性障害うつ治療におけるポジショニングとは

渡邊 衡一郎 先生

渡邊 衡一郎 先生
杏林大学医学部
精神神経科学教室 教授

石郷岡 純 先生

石郷岡 純 先生
CNS薬理研究所
主幹

加藤 忠史 先生

加藤 忠史 先生
順天堂大学医学部
精神医学講座 主任教授

渡邊先生
 今回の臨床試験の結果を踏まえたラツーダのポジショニングについて、石郷岡先生はどのように考えていらっしゃいますか。

石郷岡先生
 日本の双極性障害のガイドラインでは、双極性障害における抑うつエピソードの治療に関して、「最も推奨される治療」は明記されておらず、「推奨される治療」が記載されるにとどまっています。実際の私の臨床経験でも、同様のことを感じています。先生方も、患者さんが双極性障害におけるうつ症状に長く苦しんでいるのに、それを思うようにきちんと治療することができずに、もどかしさを感じることが多かったのではないでしょうか。ラツーダは、今後の日本の双極性障害におけるうつ症状に対する治療のスタンダードのひとつになっていくのではないかと、大きく期待しています。

渡邊先生
 加藤先生はどのようにお考えですか。

加藤先生
 従来の双極性障害におけるうつ症状に対する治療薬は、体重増加や傾眠の副作用があったり、有効性が検証されていなかったり、あるいは効果発現までに時間がかかるといった課題がありました。ラツーダの登場により、今後の双極性障害におけるうつ症状の治療は変わっていくだろうと思います。また、双極性障害患者さんのなかには、気分安定薬を服用している方がいらっしゃると思います。そのような患者さんの治療戦略には、PREVAIL#1試験1) の結果が参考になります。
 PREVAIL#1試験では、リチウムまたはバルプロ酸で効果不十分だった双極Ⅰ型障害の大うつ病エピソードを有する患者を対象にラツーダの上乗せ効果を検討し、有効性が検証されました。この試験を日本の承認用量で再解析しても有効性が認められたことから、実臨床において気分安定薬で効果が不十分な患者さんにも、ラツーダを併用することで有効性が期待できると考えています。
1)Loebel A. et al.:Am J Psychiatry., 171:169, 2014

渡邊先生
 アカシジアや悪心が出た場合の対処法について教えてください。

加藤先生
 まずは、減量を考慮します。今回の臨床試験では、20mgと低い用量でも効果が認められるケースがありましたので、減量できるのであれば、減量を検討します。難しければ、抗パーキンソン薬などの処置薬を投与することも検討します。

渡邊先生
 ラツーダの効果を見極める目安はありますか。

加藤先生
 今回の臨床試験では、ラツーダ投与2週目からプラセボと比べ有意な改善が認められましたが、効果が出るまでの時間は、それぞれの患者さんの状態や治療により異なります。最終評価時は6週時で、6週時にはおよそ50%の患者さんが反応していました。そのため、効果を判断するまでに6週間はみて欲しいと考えています。

最後に樋口先生からメッセージをいただきました

Closing Message

樋口 輝彦 先生

樋口 輝彦 先生
一般社団法人日本うつ病センター
名誉理事長

樋口先生
 精神科の領域では、統合失調症においても双極性障害うつにおいても、まだ多くのアンメットメディカルニーズが残っておりますが、今回、海外ですでに実績のあるラツーダがその治療選択肢に新たに加わりました。この新薬も活用し、現在、患者さんがお困りの症状の改善に取り組むとともに、それぞれの患者さんが目指す、より長期的なリカバリーの成功、つまりLong Term Successの達成を目指した治療をしてまいりましょう。

Latuda

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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