第13回 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による精神科医療の変化

島﨑 正次先生 (久喜すずのき病院 院長) 島田 秀穗先生 (久喜すずのき病院 副院長) 鈴木 枝里子先生 (久喜すずのき病院 精神科)


出演・監修


島﨑 正次先生(久喜すずのき病院 院長)
島田 秀穗先生(久喜すずのき病院 副院長)
鈴木 枝里子先生(久喜すずのき病院 精神科)

 本シリーズでは、精神科医療で先進的な取り組みを行っている施設の先生に、施設の特徴や治療方針、ラツーダへの期待などをお伺いします。
 今回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の院内感染対策を徹底しながら通常の精神科診療を維持している久喜すずのき病院の
島﨑 正次先生、島田 秀穗先生、鈴木 枝里子先生に、実際の感染対策や統合失調症の治療方針などをご解説いただきます。

久喜すずのき病院の特徴と地域における役割

 島﨑先生:当院は、埼玉県久喜市に位置する精神科病院です。初診患者年間2,900件超、外来患者のべ72,000件超(デイケアを含まない)、入院患者のべ1,800件超を受け入れており、地域の精神科診療の中核を担っています。また、精神科救急病棟(スーパー救急)があり、年間を通して常時診療を行う体制を整えており、急性期の患者さんを積極的に受け入れています。
 また、併設している認知症疾患医療センターでは、地域の保健医療・介護機関と連携を図りながら認知症に関する専門医療相談や鑑別診断などを行っており、地域の認知症疾患対策の拠点となっています。
 さらに、最近は、新たに修正型電気けいれん療法(m-ECT)およびクロザピン導入目的の他医療機関からの入院の受け入れを開始し、より専門的な治療を必要とする患者さんから慢性期の患者さんまで、幅広い患者さんがシームレスな治療を受けられるような体制を構築しています。

島﨑 正次先生

全国でもトップクラスの早期治療・早期退院を実現させた背景

島﨑 正次先生

 島﨑先生:当院は1988(昭和63)年の設立当初から、当時は珍しかった“長期入院をできるだけさせない方針”で運営してきました。そのため、長期入院の弊害が指摘される精神科医療において、全国でもトップクラスの早期治療・早期退院を実現しています。この早期治療・早期退院を実現するにあたり、スーパー救急のクリニカルパス運用を見直したことがあります。実は、スーパー救急を立ち上げた当初、早期退院をさらに進めようとした結果、その後の短期再入院率が高くなり、さらにデイケアの稼働率が下がってしまうということがありました。早期退院を意識し過ぎたばかりに、準備が不十分のまま退院させてしまっているケースがあったのではないでしょうか。こうしたケースを洗い出し、スタッフとディスカッションしたところ、退院準備のなかでも、訪問看護の導入などが十分に検討されていなかったこと、デイケアへの導入準備が十分でなかったことなどが問題として挙がってきました。そういった問題を解決できるようにパスを見直ました。新しいパスを作成、実践したところ、早期退院は維持したまま、短期再入院率は低下し、デイケアの稼働率も上がりました。
 また、早期退院を実現させるためには、薬物療法の工夫も必要です。退院後の外来通院でも患者さんのアドヒアランスを維持できるように、副作用、なかでも過鎮静を来しにくい薬剤を選択することが重要だと考えています。

COVID-19が精神科医療に及ぼした影響

 鈴木先生:コロナ禍前(2019〈平成31〉年3月から2020〈令和2〉年2月)とコロナ禍後(2020〈令和2〉年3月から2021〈令和3〉年2月)の1年間を比較しました。その結果、入院患者に関しては、コロナ禍前が1,813名、コロナ禍後で1,803名と、前年の99.4%となりました。同様に、スーパー救急病床は前年の99.1%でした。入院患者さんは、みなさん「早く帰りたい」と思われるようで、平均在院日数は約2日短くなり、病床利用率が98.1%から94.8%へ低下しました。
 外来患者に関しては、コロナ禍の外来患者数と初診患者数は前年の95%程度でした。
 最も変化があったのは、デイケアです。コロナ禍後のデイケア利用者数は、前年の86%程度、重度認知症デイケアは前年の88%、精神科デイケアは87.1%と、どちらも同程度減少していました。やはり、人が集まるところで1日を過ごすことを不安に思い、利用を控えた方が多かったのではないかと推察しています。

鈴木 枝里子先生

院内で講じた感染防止策

鈴木 枝里子先生

 鈴木先生:当院は、地域の精神科医療の中核的役割を担っています。したがって、コロナ禍であっても通常医療を維持することを一番の目標と設定しました。そのためにまず行った対策は、熱があっても入院ができる体制づくりです。幸いなことに、当院は精神科救急病床を多く持つため個室率が高く、熱があってもなくても、入院患者さんは全例、最初の2週間は個室に入室してもらうルールとしました。この個室対応という対策がとれたところが、感染拡大防止に大きく貢献していると考えています。また、当院が指定した患者さんへのPCR検査が迅速に実施できるように、保健所の検査ではなく、外部の検査会社とPCR検査の契約を結んだり、迅速PCR検査機器の導入を早期に行いました。さらに、早い段階から地域の中核的な総合病院と密に連携し、実際にCOVID病棟に見学に行ったり、感染管理認定看護師に当院へ来ていただき、外来の動線や、病棟のイエローゾーンやレッドゾーンの区分けなどについて指導してもらいました。また、それらを反映し、マニュアルを作成しました。

 院内感染を予防するためには、職員へのスタンダードプリコーションの教育も非常に重要です。研修会などの開催に加えて、活用したのがサイボウズ Office(グループウェア)です。サイボウズのトップページに、感染対策マニュアルや、個人用防護具(PPE)の着脱方法などの動画を常にアップするようにしました。また、これらのPPEの取り扱い方法について、ポスターにして院内の職員の目につく場所に掲示もしました。
 これらの感染対策を講じたことで、院内感染を拡大させることなく、通常医療を維持できているのだと考えています。

統合失調症の薬剤選択で重視していること

 島田先生:患者さんが治療を継続しやすいように、基本的には単剤で治療すること、また、副作用が少ない薬剤を選択することを重視しています。副作用のなかでも特に避けたいのは、体重増加です。体重増加を来す薬剤は、患者さんから「この薬をやめたい」と言われることが多い印象です。また、当然ながら、良好な有効性を示す薬剤を選択することも重要です。統合失調症は、2回、3回と再発を繰り返してしまうと、予後が悪くなり、難治性となってしまいます。したがって、長期の予後を考慮し、初回から有効性の高い薬剤を選択するようにしています。また、患者さんが管理しやすいように、1日1回の服薬ですむ薬剤が望ましいとも思います。
 これらの観点から、私自身は、統合失調症の薬物療法では、ドパミンパーシャルアゴニストを第一選択とすることが多いです。もしパーシャルアゴニストで効果が不十分だった場合は、SDAへの切り替えを検討します。パーシャルアゴニストからSDAへの切り替えは比較的スムーズにいくことも、最初にパーシャルアゴニストを選択する理由のひとつです。

島田 秀穗先生

ラツーダが選択肢となる患者像

島田 秀穗先生

 島田先生:基本的には、ラツーダはすべての統合失調症患者さんが対象になると考えています。私自身は、現在は他の薬剤では効果が得られなかった患者さんや、忍容性に欠ける薬剤からの切り替えの選択肢として使用することが多いですが、初発の患者さんにも有用性が期待できると考えています。
 また、JEWEL試験の結果、PANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、ラツーダ40mg群で投与2週目よりプラセボ群と有意差が認められましたが、実臨床でも同様の印象です。私は、40mg/日で開始し、1週間かそれよりも早い段階で80mg/日まで増量します。忍容性が確認され、効果不十分な場合にのみ増量を検討しますが、数日単位での増量も可能なところは、スーパー救急に適した薬剤なのではないかと考えています。
 また、ラツーダは、ドパミンD2遮断作用を保ったまま、セロトニン5-HT2A受容体拮抗作用およびセロトニン5-HT7受容体拮抗作用と、5-HT1Aパーシャルアゴニスト作用を併せ持つユニークな薬剤です。セロトニン5-HT7受容体拮抗作用は認知機能への作用も報告されており、そういった観点からの有用性も期待しています。

JEWEL試験

ここから、本邦において統合失調症の適応症を取得する根拠となった第3相試験、JEWEL試験をご紹介いたします。

試験概要

 本試験の対象は、急性増悪期の統合失調症患者483例です。対象をプラセボ群またはラツーダ40mg群に無作為に分け、治験薬を1日1回、夕食時*または夕食後に6週間経口投与しました。
 有効性の主たる解析は、ITT集団を対象として実施しました。有効性の主要評価項目である6週時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、併合した実施医療機関、評価時期、治療群、治療群と評価時期の交互作用および、ベースラインのPANSS合計スコアを共変量とする反復測定のための混合モデル(MMRM)法を用いて解析し、最終評価時(LOCF)に治療効果(反応)が認められた患者の割合をLogistic regressionで評価しました。
 安全性解析対象集団は、無作為化され二重盲検治療期に少なくとも1回治験薬を投与された患者として実施しました。

*本邦での承認用法は食後経口投与

有効性

 主要評価項目である6週時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−12.7、ラツーダ40mg群−19.3、投与群間の差−6.6と、統計学的に有意であり、ラツーダ40mgのプラセボに対する優越性が検証されました。また、effect sizeは0.410でした。
 副次評価項目である各来院時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量は、ラツーダ40mg群で投与2週目よりプラセボ群と有意差が認められ、その効果は6週時点まで継続しました。


 6週時のPANSS 5因子モデル別スコアのベースラインからの変化量については、急性期で特に問題となる陽性症状をはじめ、興奮、陰性症状、不安/抑うつ、認知障害のいずれの項目においても、ラツーダはプラセボに比べてスコアを有意に低下させることが示されました。

安全性

 副作用発現頻度は、プラセボ群57例(24.3%)、ラツーダ40mg群69例(27.9%)でした。発現頻度が2%以上の副作用は、プラセボ群では不眠症12例(5.1%)、統合失調症11例(4.7%)、不安9例(3.8%)などで、ラツーダ40mg群では頭痛、アカシジア、統合失調症が各10例(4.0%)などでした。
 重篤な副作用は、プラセボ群2例2件[統合失調症、自殺企図各1件]、ラツーダ40mg群1例1件[統合失調症1件]に認められました。
 投与中止に至った有害事象は、プラセボ群15例[統合失調症11例、手骨折、精神病性障害、敵意、自殺企図各1例]、ラツーダ40mg群14例[統合失調症7例、房室ブロック、肺結核、体重増加、不安、カタトニー、妄想、精神病性障害各1例]に認められました。
 試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。


 本試験では、臨床検査値への影響も検討されています。6週時点での体重、BMIの変化量や、HbA1c、コレステロールなど糖脂質代謝への影響、プロラクチンへの影響はこちらに示すとおりです。

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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