第4回 双極性障害におけるうつ症状治療のポイントとラツーダへの期待

宮田 量治先生、三澤 史斉先生、鈴木 健文先生

出演・監修(写真左から)

鈴木 健文先生(山梨大学医学部 精神神経医学講座 教授)

宮田 量治先生(山梨県立北病院 院長)

三澤 史斉先生(山梨県立北病院 医療部長)

本シリーズでは、精神科医療で先進的な取り組みを行っている施設の先生に、施設の特徴や治療方針、ラツーダへの期待などをお伺いします。
今回は、宮田 量治先生(山梨県立北病院 院長)、三澤 史斉先生(山梨県立北病院 医療部長)、鈴木 健文先生(山梨大学医学部 精神神経医学講座 教授)の3名の先生に、双極性障害におけるうつ症状治療のポイントやラツーダへの期待をご解説いただきます。

山梨県立北病院の特徴と役割

宮田 量治先生

宮田先生:山梨県立北病院は、県内で唯一の公的病院として、山梨県の精神科医療の一端を支えています。
当院の特色のひとつは、精神科救急治療に対応できる2つの救急病棟があることです。山梨県では精神科救急の24時間体制が確立しましたが、そのなかで、当院は、通常の輪番制の業務に加えて、夜の12時を過ぎて来院する患者さんの対応を毎日行っており、山梨県の精神科救急事業が円滑に動くように尽力しています。
また、児童・思春期精神科医療を行っていることも特色のひとつです。思春期年齢を対象にした精神科入院施設は県内では当院のみですので、思春期病棟では、症状のために一時的に家庭生活が難しくなった方への入院治療を行っています。
さらに、クロザピン療法や修正型電気けいれん療法(m-ECT)などの専門的な治療も提供しています。m-ECTは、現在は週3回、麻酔科医師のご協力をいただきながら全身麻酔下で実施しています。
認知症については、認知症疾患医療センターを開設しており、認知症疾患に関する診断と処遇についての相談などを行っているほか、山梨県の北巨摩ブロックにおける入院の受け入れも行っています。

山梨大学医学部精神 神経医学講座の特徴と役割

鈴木先生:当科では、うつ病や躁うつ病などの気分障害、パニック障害などの不安障害、統合失調症などの精神病性障害、認知症などの老年期精神障害や脳器質性精神障害など、幅広い疾患を診療しています。特に、治療抵抗性の精神障害の方の最後の砦として、専門性が高い治療を提供しています。
また、週2回CLS(コンサルテーションリエゾンサービス)チームが各病棟を巡回し、他科の患者さんで問題となっている精神症状について、他科と協調しながら適切な治療を行うようにしています。
さらに、当院は、2020年9月に新病棟Ⅱ期棟が開院となりました。精神科病棟は、手すりやスタッフステーションなどを患者さん対応に特化した設備設計を行っています。精神科の個室も増設されたため、今まで以上に治療困難な患者さんを受け入れることが可能になり、他院からご紹介いただく機会が増えると想定されます。

鈴木 健文先生

各施設における 診療患者さんの特徴

三澤 史斉先生

三澤先生:山梨県立北病院は、児童思春期病棟を県内で唯一設置していること、また、認知症疾患医療センターを開設していることなどもあり、若い方からご高齢の方まで、幅広い患者さんを診療しています。また、スーパー救急病棟を有しているため、急性期の患者さんも多く対応しています。
重症度に関しては、m-ECT療法やクロザピン療法を行っている関係上、比較的重症な患者さんも受診されますし、他県や他院では治療が難しい、治療困難例も多数ご紹介いただいています。
また、公的病院という特性上、身寄りがない方や経済的に厳しい患者さんも受診されますので、そういった患者背景を踏まえた上で治療方針を検討することもあります。

鈴木先生:診断が難しい患者さんや、薬物療法などに治療抵抗性の患者さんを主に診療しています。例えば、うつ病と鑑別が難しい双極性障害を診断したり、双極性障害のうつ病相が再燃して症状のコントロールが思わしくない方の処方調整をしたりしています。

鈴木 健文先生

双極性障害における うつ症状治療のポイント

鈴木 健文先生

鈴木先生:双極性障害治療における課題のひとつは、患者さんとご家族で認識に相違があることです。(軽)躁状態のときは、患者さんは比較的調子がよく、苦痛自体も少ないので、本人は治療の必要はないと考えていることも少なくありません。一方、家族などの周囲は、「どんなトラブルを起こすかわからない」とヒヤヒヤしながら見守っています。これに対して、うつ状態のときは、患者さんは落ち込み、エネルギーがないので、治療の必要性を訴えがちです。一方、家族は「(つらそうでも)トラブルのリスクは少ない」と感じているかもしれません。まずは、このような双方のギャップを埋めるための説明をします。
薬物療法では、うつ症状に対する治療が非常に重要だと考えています。双極性障害は基本的にうつ病相が長いことが知られていますが、このうつ病相において、躁転をさせずに気分を長期に安定させるような治療が重要です。加えて、患者さんが継続して服薬できるか、ということも重要な点です。双極性障害におけるうつ症状治療では、患者さんのQOLに影響する体重増加などの副作用を来しにくい薬剤の登場が待ち望まれていると思います。

三澤先生:双極性障害治療では、躁転させないことが重要だと考えています。患者さんは、躁転してしまうと、今までの生活や人間関係が台無しになってしまうことがあります。患者さんの社会生活への影響を考慮すると、躁転させないような薬剤を長期に使用していくことが非常に重要だと思います。

三澤 史斉先生
宮田 量治先生

宮田先生:私もうつ症状に対する治療が重要だと考えています。うつ症状の患者さんは、外来で、「つらい、つらい」と訴えるのですが、双極性障害におけるうつ症状に抗うつ薬は使用していませんので、ラツーダ登場前は、双極性障害におけるうつ症状には、使える薬剤の選択肢が少ないというのが大きな課題でした。

ラツーダへの期待

鈴木先生:ラツーダは、これまで治療選択肢の少なかった双極性障害におけるうつ症状の改善に対し、新たな選択肢として登場しました。安全性を考慮した長期にわたる双極性障害治療において、ラツーダは格好の選択肢のひとつになると考えています。

鈴木 健文先生
三澤 史斉先生

三澤先生:新しい治療選択肢が増えるということは、患者さんにとってプラスとなります。特に、治療選択肢の少なかった双極性障害におけるうつ症状治療において、患者さんに新たな治療を提案できることは、我々医師にとっても喜ばしいことだと感じています。

宮田先生:このたび登場したラツーダが、今後実臨床でどのような有効性を示すのか、大変期待しているところです。私も適応となる患者さんにラツーダを使用してみて、手ごたえを実感したいと思います。

宮田 量治先生

ELEVATE試験

ここから、本邦において双極性障害うつ症状の改善の適応症を 取得する根拠となった第3相試験、ELEVATE試験をご紹介いたします。

本試験の対象は、双極Ⅰ型障害患者(大うつ病エピソード)525例です。対象をプラセボ群、ラツーダ20-60mg群、ラツーダ80-120mg群*に無作為に分け、治験薬を1日1回夕食後に6週間経口投与しました。
有効性の主たる解析はITT集団を対象として実施しました。有効性の主要評価項目は治療群、評価時期、実施医療機関、MADRS合計スコアのベースライン値、および治療群と評価時期の交互作用を含むMMRM法を用いて解析し、検定の多重性はHochberg法で調整しました。
安全性の解析は安全性解析対象集団を対象として実施しました。

*ラツーダ80-120mgは承認外用量です。


主要評価項目である6週時のMADRS合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−10.6、ラツーダ20-60mg群−13.6、投与群間の差−2.9と、ラツーダ20-60mgはプラセボに比べてMADRS合計スコアを有意に低下させ、プラセボに対する優越性が検証されました。
また、副次評価項目であるベースラインからの変化量は、ラツーダ20-60mg群では投与開始2週目よりプラセボと比べ有意な改善が認められました。


MADRS項目別スコアのベースラインからの変化量をお示しします。うつ症状の中核症状である「外見に表出される悲しみ」や「言葉で表現された悲しみ」など、各項目のスコア変化量はこちらに示すとおりです。


副作用発現率は、プラセボ群55例(32.0%)、ラツーダ20-60mg群71例(38.6%)、ラツーダ80-120mg群87例(51.5%)でした。
発現頻度5%以上の副作用は、プラセボ群ではアカシジア11例(6.4%)、悪心8例(4.7%)、ラツーダ20-60mg群ではそれぞれ24例(13.0%)、12例(6.5%)、ラツーダ80-120mg群ではそれぞれ38例(22.5%)、18例(10.7%)などでした。
重篤な副作用は、プラセボ群1例1件[躁病1件]、ラツーダ20-60mg群0例、ラツーダ80-120mg群2例2件[自殺企図、パニック発作各1件]に認められました。
投与中止に至った有害事象は、プラセボ群7例[好中球減少症、急性心筋梗塞、胃炎、悪心、嘔吐、疾患進行、アカシジア各1例]、ラツーダ20-60mg群6例[嘔吐、機能性胃腸障害、肝障害、アカシジア、躁病、自殺念慮各1例]、ラツーダ80-120mg群16例[悪心4例、疾患進行、アカシジア各3例、嘔吐、腱断裂、筋骨格硬直、ジストニア、不眠症、呼吸困難各1例]に認められました。
試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。


本試験では臨床検査値への影響も検討されています。6週時の体重のベースラインからの変化量は、プラセボ群−0.22kg、ラツーダ20-60mg群0.23kg、ラツーダ80-120mg群0.22kgでした。血糖に関しては、HbA1cが、プラセボ群−0.01%、ラツーダ20-60mg群0.02%、ラツーダ80-120mg群0.02%でした。

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

関連情報

統合失調症/ラツーダについてもっと知る