第2回 ELEVATE試験を踏まえたラツーダの位置付けと実臨床における使い方

井上 猛先生

出演・監修:井上 猛先生
(東京医科大学 精神医学分野 主任教授)

2020年3月、本邦でラツーダが「統合失調症」および「双極性障害におけるうつ症状の改善」を効能・効果として製造販売承認を取得しました。
今回は、井上 猛先生(東京医科大学 精神医学分野 主任教授)に、ELEVATE試験を踏まえたラツーダの位置付けと実臨床における使い方をご解説いただきます。

双極性障害治療のゴール

井上 猛先生

 双極性障害治療のゴールは、患者さんが躁状態やうつ状態から回復し、社会生活を営めるようになることだと考えています。私たち医師は、患者さんの気分の波を改善させ、就労や学業などの日常生活に支障がない状態にまでもっていくような治療を目指していかなければならないと思います。

双極性障害うつ病エピソード 治療の現状と課題

 日本うつ病学会の『日本うつ病学会治療ガイドライン2020年版』1)が発行されるまでは、抑うつエピソードの治療として推奨された薬剤のうち本邦で適応を有しているのは2剤のみでした。
実臨床では、これらの薬剤を有効性や安全性を鑑みながら選択します。しかし、選択肢が少ないため、特に忍容性の面で手詰まりになってしまうことがあります。そのため、日本では、抗うつ薬を使用することがあるのが現状です。しかし、現時点では、抗うつ薬の単剤治療が双極性うつ病に有効であるという根拠はなく、むしろ躁転や病状不安定などの危険因子となるため、抗うつ薬の単剤治療は推奨すべき治療とはいえません。
 また、現在臨床で使用されている非定型抗精神病薬あるいは定型抗精神病薬には、錐体外路症状、傾眠、体重増加などの、患者さんが不快になる副作用が出現することがあります。このような副作用は、患者さんのアドヒアランスが低下する要因となります。精神科疾患の治療では、特に忍容性が高い薬剤が求められると考えています。
 このように、双極性障害のうつ病エピソードに対する薬物療法では、いくつかの課題があり、有効性の面でも安全性の面でも、十分なエビデンスが確立した薬剤の登場が待ち望まれていました。

井上 猛先生

参考文献:
1)日本うつ病学会治療ガイドラインⅠ. 双極性障害2020 治療ガイドラインサマリー(6ページ)

ラツーダの位置付け

 このようなアンメットメディカルニーズが存在する状況のなかで登場したのが、ラツーダです。ラツーダは、ELEVATE試験という無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験において有効性と安全性が検証された薬剤です。
 主要評価項目である6週時のMADRS合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−10.6、ラツーダ20-60mg群−13.6、投与群間の差−2.9と、ラツーダ20-60mgはプラセボに比べてMADRS合計スコアを有意に低下させ、プラセボに対する優越性が検証されました。
 なお、本試験の対象は、双極Ⅰ型障害患者(大うつ病エピソード)です。したがって、ラツーダは、双極Ⅰ型障害のうつ病エピソードの患者さんに対しては、第一選択薬のひとつに位置付けられると考えています。
 また、双極Ⅱ型障害のうつ病エピソードに対しては、今後、実臨床で有効性を確認していく必要があるものの、選択することも可能だと考えています。それは、双極性障害は、年単位の経過のなかでⅡ型がⅠ型へ診断が変更となることが少なくないからです。実は、Ⅰ型とⅡ型は、明確に区別することが難しく、軽躁病と躁病は医師によって診断が分かれることもあります。ラツーダは、双極Ⅱ型障害のうつ病エピソードに対しては、ほかの治療薬で忍容性が低かった場合の切り替えとして使用してみるのもひとつの方法だと思います。

井上 猛先生

臨床におけるラツーダの使い方

井上 猛先生

 私自身は、基本的にリチウムなどの気分安定薬に加えてラツーダを追加します。双極性障害は、一生の間に病相を繰り返す疾患ですので、急性期の症状に対して、すでにリチウムが処方されている場合が多いと思います。それを中断してしまうと、不安定になる可能性があります。したがって、リチウムを継続しながら、ラツーダを併用するという使い方が適しているのではないかと考えています。

ラツーダへの期待と展望

 双極性障害は、生きづらい疾患で、自殺リスクも高いです。自殺企図は、患者さんや家族だけでなく、私たち医師にとっても非常につらいものです。患者さんには、「この病気は治ってくるよ」と根気よく伝え続け、希望を持って治療を受けていただくことが非常に重要です。
 このたび、ELEVATE試験で有効性と安全性が検証されたラツーダは、双極性障害に苦しむ患者さんに希望を与える薬になりうるのではないかと期待しています。

井上 猛先生

ELEVATE試験

 本試験の対象は、双極Ⅰ型障害患者(大うつ病エピソード)525例です。対象をプラセボ群、ラツーダ20-60mg群、ラツーダ80-120mg群に無作為に分け、治験薬を1日1回夕食後に6週間経口投与しました。
 有効性の主たる解析はITT集団を対象として実施しました。有効性の主要評価項目は治療群、評価時期、実施医療機関、MADRS合計スコアのベースライン値、及び治療群と評価時期の交互作用を含むMMRM法を用いて解析し、検定の多重性はHochberg法で調整しました。
 安全性の解析は安全性解析対象集団を対象として実施しました。

 主要評価項目である6週時のMADRS合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−10.6、ラツーダ20-60mg群−13.6、投与群間の差−2.9と、ラツーダ20-60mgはプラセボに比べてMADRS合計スコアを有意に低下させ、プラセボに対する優越性が検証されました。
 また、副次評価項目であるベースラインからの変化量は、ラツーダ20-60mg群では投与開始2週目よりプラセボと比べ有意な改善が認められました。

ラツーダ20-60mgは、プラセボに比べて、MADRS合計スコアを有意に低下させ、プラセボに対する優越性が検証されました。
拡大

※有効性については、ラツーダが「双極性障害におけるうつ症状の改善」に承認された20mgから60mgの用量群の結果のみ提示

 MADRS項目別スコアのベースラインからの変化量をお示しします。
 うつ症状の中核症状である「外見に表出される悲しみ」や「言葉で表現された悲しみ」など、各項目のスコア変化量はこちらに示すとおりです。

 副作用発現率は、プラセボ群55例(32.0%)、ラツーダ20-60mg群71例(38.6%)、ラツーダ80-120mg群87例(51.5%)でした。
 発現頻度5%以上の副作用は、プラセボ群ではアカシジア11例(6.4%)、悪心8例(4.7%)、ラツーダ20-60mg群ではそれぞれ24例(13.0%)、12例(6.5%)、ラツーダ80-120mg群ではそれぞれ38例(22.5%)、18例(10.7%)などでした。
 重篤な副作用は、プラセボ群1例1件[躁病1件]、ラツーダ20-60mg群0例、ラツーダ80-120mg群2例2件[自殺企図、パニック発作各1件]に認められました。
 投与中止に至った有害事象は、プラセボ群7例[好中球減少症、急性心筋梗塞、胃炎、悪心、嘔吐、疾患進行、アカシジア各1例]、ラツーダ20-60mg群6例[嘔吐、機能性胃腸障害、肝障害、アカシジア、躁病、自殺念慮各1例]、ラツーダ80-120mg群16例[悪心4例、疾患進行、アカシジア各3例、嘔吐、腱断裂、筋骨格硬直、ジストニア、不眠症、呼吸困難各1例]に認められました。
 試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。

 本試験では、臨床検査値への影響も検討されています。
 6週時点での体重、BMI、HbA1cなどのベースラインからの変化量は、ご覧のとおりです。

 

参考文献:
1)日本うつ病学会 気分障害の治療ガイドライン作成委員会
  制作:日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅰ.双極性障害 2017, 11-13.


第1回 双極性障害の診断ポイントとELEVATE試験を踏まえたラツーダへの期待

井上 猛先生(東京医科大学 精神医学分野 主任教授)に、双極性障害診断のポイントと、双極Ⅰ型障害の大うつ病エピソードの患者を対象とした臨床試験「ELEVATE試験」を踏まえたラツーダへの期待をご解説いただきます。

ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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