第1回 双極性障害の診断ポイントとELEVATE試験を踏まえたラツーダへの期待

井上 猛先生

出演・監修:井上 猛先生
(東京医科大学 精神医学分野 主任教授)

2020年3月、本邦でラツーダが「統合失調症」および「双極性障害におけるうつ症状の改善」を効能・効果として製造販売承認を取得しました。
今回は、井上 猛先生(東京医科大学 精神医学分野 主任教授)に、双極性障害診断のポイントと、双極Ⅰ型障害の大うつ病エピソードの患者を対象とした
臨床試験「ELEVATE試験」を踏まえたラツーダへの期待をご解説いただきます。

生物学的精神医学の 観点から見た双極性障害

 生物学的精神医学領域で、私が最近注目している双極性障害に関するトピックスは、ゲノムワイド関連解析(genome wide association study;GWAS)です。2000年以降GWASを用いた研究が進歩しており、双極性障害を含む精神疾患の疾患感受性遺伝子の同定がなされてきています。また、近赤外光スペクトロスコピー(near-infrared spectroscopy;NIRS)を用いた研究も発展しており、うつ病、双極性障害、および統合失調症の前頭葉機能の特徴が明確化しつつあります。
 一方、双極性障害のうつ病相の治療法、双極スペクトラムの臨床的意義などは、いまだ課題として残っていると考えています。

井上 猛先生

双極性障害診断のポイント

 双極性うつ病は、大うつ病性障害として誤診されることが多く、自然経過から避けられない誤診があるものの、それ以上に過去の躁病・軽躁病エピソードの見逃しによる誤診も少なくありません。このような背景から、双極性障害を診断するためのポイントのひとつは、過去の軽躁病エピソードをいかに把握するかだと考えています。そのために重要となるのが、心理教育です。患者さんとご家族に、「軽躁病とはどういう疾患で、どういう症状が出るのか」ということをまずお伝えして、それから過去のエピソードを把握するようにすると、問診がスムーズになります。
 また、双極性障害の約2/3の初発病相は、うつ病相であるという報告があります1)。ということは、うつ病で発症して、軽躁病あるいは躁病が出るまでには数年から十数年もかかる可能性があるということです。もし、うつ病相の時点で正確な診断がなされなかったら、患者さんは数年から十数年の間、適切な治療が受けられないということになります。これを回避するためには、躁病相が現れてない状態で、双極性障害を診断する必要があります。これがもうひとつのポイントです。うつ病の状態では、大うつ病性障害と双極性障害は類似している病態ではあるものの、臨床的な特徴は異なるところがあります。その違いを見つけ、疑い、的確に診断することが重要です。
 では、どのような臨床的特徴で大うつ病性障害と双極性障害を区別すればよいのでしょうか。たとえば、国内の多施設共同研究「JET-LMBP研究」2)では、多重ロジスティック回帰分析の結果、Ⅰ型およびⅡ型双極性障害と大うつ病性障害を区別する5因子は、「抗うつ薬による躁転」、「混合性の特徴」、「過去1年間のエピソード回数(2回以上)」、「大うつ病エピソードの初発年齢(25歳未満)」、「自殺企図歴」と特定されています。また、Takeshimaらの報告3)では、Ⅱ型および特定不能の双極性障害と大うつ病性障害を区別する5因子を多重ロジスティック回帰分析により特定した結果、「4回以上の大うつ病エピソード(MDE)」、「第一度親族双極性障害家族歴」、「循環気質」、「初回MDEが若年発症(25歳未満)」、「抑うつ混合状態(混合性うつ病)」の5因子のうち2因子以上該当すると、高い特異度で双極性障害と診断可能であることが明らかとなっています。
 患者さんを丁寧に問診しながら、このような5因子を用いることで、うつ状態で躁病相がはっきりと現れていない患者さんであっても、双極性障害を早期に疑うことは可能だと考えます。

双極性障害のうつ病 エピソードに対する薬剤選択で重視すること

 私が最も重視しているのは、薬剤のエビデンスです。大規模な偽薬との二重盲検比較試験を実施し、有効性が確立された薬剤を使用するべきだと考えています。
 このたび発売されたラツーダは、ELEVATE試験という無作為化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験において有効性と安全性が検証された薬剤です。
 主要評価項目である6週時のMADRS合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−10.6、ラツーダ20-60mg群−13.6、投与群間の差−2.9と、ラツーダ20-60mgはプラセボに比べてMADRS合計スコアを有意に低下させ、プラセボに対する優越性が検証されました。
 私は、ラツーダには、ELEVATE試験を含む質の高い臨床試験の結果がいくつかあることを評価しています。双極性障害におけるうつ症状に対して、患者さんも、医師も待ち望んでいた薬剤が、ようやく登場したなという思いでいます。

井上 猛先生

ELEVATE試験

 本試験の対象は、双極Ⅰ型障害患者(大うつ病エピソード)525例です。対象をプラセボ群、ラツーダ20-60mg群、ラツーダ80-120mg群に無作為に分け、治験薬を1日1回夕食後に6週間経口投与しました。
 有効性の主たる解析はITT集団を対象として実施しました。有効性の主要評価項目は治療群、評価時期、実施医療機関、MADRS合計スコアのベースライン値、および治療群と評価時期の交互作用を含むMMRM法を用いて解析し、検定の多重性はHochberg法で調整しました。
 安全性の解析は安全性解析対象集団を対象として実施しました。

 主要評価項目である6週時のMADRS合計スコアのベースラインからの変化量は、プラセボ群−10.6、ラツーダ20-60mg群−13.6、投与群間の差−2.9と、ラツーダ20-60mgはプラセボに比べてMADRS合計スコアを有意に低下させ、プラセボに対する優越性が検証されました。
 また、副次評価項目であるベースラインからの変化量は、ラツーダ20-60mg群では投与開始2週目よりプラセボと比べ有意な改善が認められました。

 副作用発現率は、プラセボ群55例(32.0%)、ラツーダ20-60mg群71例(38.6%)、ラツーダ80-120mg群87例(51.5%)でした。
 発現頻度5%以上の副作用は、プラセボ群ではアカシジア11例(6.4%)、悪心8例(4.7%)、ラツーダ20-60mg群ではそれぞれ24例(13.0%)、12例(6.5%)、ラツーダ80-120mg群ではそれぞれ38例(22.5%)、18例(10.7%)などでした。
 重篤な副作用は、プラセボ群1例1件[躁病1件]、ラツーダ20-60mg群0例、ラツーダ80-120mg群2例2件[自殺企図、パニック発作各1件]に認められました。
 投与中止に至った有害事象は、プラセボ群7例[好中球減少症、急性心筋梗塞、胃炎、悪心、嘔吐、疾患進行、アカシジア各1例]、ラツーダ20-60mg群6例[嘔吐、機能性胃腸障害、肝障害、アカシジア、躁病、自殺念慮各1例]、ラツーダ80-120mg群16例[悪心4例、疾患進行、アカシジア各3例、嘔吐、腱断裂、筋骨格硬直、ジストニア、不眠症、呼吸困難各1例]に認められました。
 試験期間中、いずれの群においても死亡は報告されませんでした。

 

参考文献:
1)Daban C, et al. Compr Psychiatry. 2006;47(6):433-7.
2)Inoue T, et al. J Affect Disord. 2015;174:535-41.
3)Takeshima M, et al. J Affect Disord. 2013;147(1-3):150-5.


ラツーダ錠20mg/錠40mg/錠60mg/錠80mgの製品基本情報(適正使用情報など)

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