リカバリーを目指すうつ病治療と抗うつ薬の位置づけ

白川 治 先生

近畿大学医学部精神神経科学教室
白川 治 先生

本シンポジウムでは、「SNRIとSSRIの使い分けは可能か」、「リカバリーを目指すうつ病治療とは」という2つのテーマでお話しします。 抑うつ気分や、興味・喜びの喪失といったうつ病の中核症状にはセロトニンとノルアドレナリンの両方の減少が関わっていますが、集中力の低下や、制止、倦怠感を始めとする、社会機能に深く関わっているとされる幾つかの症状には、ノルアドレナリンの減少が関わっていると考えられています。
リカバリーを目指す治療とは、症候学的寛解 ・社会機能の評価 ・満足感、QOLの評価の3つの視点が重要となります。

SNRIとSSRIの使い分けは可能か?

うつ病の各症状に対するSSRIおよびSNRIの作用の違い

セロトニン神経伝達を強化するSSRIは、陰性情動を弱める効果、つまり罪責感、易刺激性、不安、恐怖といったように不安を伴う抑うつに効果的であると考えられます。
一方、ノルアドレナリンやドパミンといったカテコラミンの神経伝達を強化するアプローチは、失われた陽性情動を取り戻す、つまり、喜びや楽しみを感じることができる、モチベーションを持てる、興味を抱くといった方向に働くと考えられ、このような効果はSNRIに特徴的です。また、 SSRIによるうつ病治療によって、どのような症状が残りやすいかを検討した結果、倦怠感、興味の喪失、さらには集中力の低下などのノルアドレンの減少と関わる症状が、SSRIでの治療によって残りやすいことが示唆されています。

ノルアドレナリンが関与する症状の改善と社会機能回復の関係性

うつ病の症状改善と社会機能やQOLの改善は直線的な関係ではなく、社会機能やQOLの改善は、症状が寛解に近づくにつれて急速にもたらされます。
一般にうつ病の症状寛解はHAMDで7点以下とされてますが、この段階で社会機能やQOLの回復がもたらされないことは、日常臨床でよく経験します。従って、社会機能やQOLの回復のためには、さらに厳格な症状の改善が必要と思われます。一方で、社会機能の回復に関連している症状の多くが、赤字で記したようにノルアドレナリンの減少によると考えられています。

リカバリーを目指すうつ病治療とは?

リカバリーを目指すうつ病治療における3つの指標

リカバリーを目指す治療を考える上で達成すべき3つの指標のうち、症候学的寛解は医療の視点で評価できますが、社会機能や満足度、QOLに関しては、患者さんの置かれている状況を把握し、評価することが重要な指標と言えます。

症候学的寛解
社会機能の回復
満足感、良好なQOL

●症候学的寛解とモノアミンの関与

うつ病の症状の変遷とモノアミンの関与を想定した図です。うつ病の初期では、不安症状が主で、セロトニンの病理が主に関わっています。うつ病が進むにつれて、意欲を中心とする抑うつ症状が目立つようになり,ノルアドレナリンの病理が加わってきます。なかなか回復に至らない場合、物事を楽しめない、前向きに取り組めない、興味がわかないなどが問題となり、ドパミンの関与が想定されます。

●うつ病のサブタイプ、臨床症状と神経伝達物質の関係

うつ病を内因性と非内因性に分ける考えは、現在、古典的とされていますが、抗うつ薬の反応性を考える上で、今なお重要な視点だと考えています。内因性うつ病では、精神運動抑制ないしは焦燥がみられ、ノルアドレンリンの病理が加わるため、SNRIがより有効と考えられます。
さらに、妄想を伴う場合はドパミンの病理が加わり、抗精神病薬が必要となります。この図は、うつ病の病理を単純化しすぎているとも言えますが、うつ病の異種性と神経伝達物質との関係を考える上で、参考になるものです。

ベンラファキシン(SNRI)の薬理学的特徴

SNRIであるベンラファキシンは、セロトニンおよびノルアドレナリントランスポーターへ作用しますが、 低用量では主にセロトニン作用を示します。
増量にしたがってセロトニンとノルアドレナリンの両方に作用を示すようになります。そのため、ベンラファキシンは、低用量では、セロトニンの強化によるSSRI類似の抗不安作用を発揮し、高用量では、SNRIとして抗うつ効果を発揮すると考えられます。

ポイント

SNRIとSSRIの使い分けといった抗うつ薬を中心としたテーマでお話しさせていただきました。
しかし、その一方でうつ病治療で抗うつ薬が必要不可欠な役割を担うといっても、回復への道筋を加速させるための脇役的な存在であったほうが良いのかもしれません。
そして、患者さんが回復に至らない場合は、回復を阻害している要因として、例えば、アルコール問題、配偶者との関係、回復への意欲そのものが失われてはいないかなど、薬剤以外の患者さんを取り囲む環境や状況にも着目する必要があると思います。
つまり、社会機能の回復や満足感のためには、うつ病患者さんと「病者」ではなく、「生活者」として考え、患者さんが抱えている問題・課題をどう医師と患者さんで共有できるかがポイントになると思います。

関連情報

イフェクサーSRについてもっと知る