地域小児がん診療を牽引するとともに、先端医療の開発に取り組む

  • 診療科小児科学
  • エリア愛知県名古屋市昭和区

高橋 義行(たかはし よしゆき)先生

名古屋大学大学院医学系研究科 健康社会医学専攻 発育・加齢医学講座/小児科学 教授

高橋 義行(たかはし よしゆき)先生

小児がん拠点病院として、地域全体の小児がん診療の質の向上に尽力

難治性の小児がん患児の予後の改善は、国を挙げて取り組むべき重要な課題となっています。2006年に「がん対策基本法」が成立し、2012年には「第2期がん対策推進基本計画」の重点課題に「小児がん対策の充実」が加えられました。これを受けて、2013年に全国15施設が「小児がん拠点病院」に選定されました。小児がん患者とその家族が安心して適切な医療や支援を受けられる環境を整備することが、その目標とされます。各施設には、自院が小児がん医療において優れた診療機能を有するのみならず、小児がん診療を行う地域(ブロック単位)の医療機関とネットワークを形成し、牽引役として地域全体の小児がん診療の質の向上に貢献することが期待されています。

全国7ブロックのうち東海・北陸ブロックでは当院ならびに三重大学医学部附属病院の2施設が小児がん拠点病院に指定されました。ともに地域における再発・難治小児がんの診療に当たるとともに、役割分担として当院は先端医療の開発に、三重大学医学部附属病院は在宅医療や緩和ケアの推進に、それぞれ特に力を入れて取り組んでいます。指定を受けて以降、造血器腫瘍と固形がんのいずれも紹介患者が増加しましたが、多くの専門医(外科医、放射線治療医、小児血液腫瘍医、移植医)を必要とする固形がんの方がより顕著な増加を示しています。

多彩な分野の専門家が患者さんとご家族を支援するチーム医療を実践

名古屋市は、伝統的に造血幹細胞移植への取り組みが盛んです。当院小児科も積極的に実施しており、当科の自家および同種造血幹細胞移植件数は年間30例以上で推移しています。2015年の造血幹細胞移植件数は43例〔造血器腫瘍14例(骨髄移植10例、臍帯血移植1例、ハプロ移植3例)、非悪性造血器腫瘍11例、固形がん18例〕でした。最近、無菌室を2床から5床に増床したため、移植の患者さんをお待たせすることなく対応することが可能になっています。

小児がんの治療は長期に及ぶため、身体的苦痛および精神的・社会的苦痛の緩和や発達課題への取り組み、家族支援等の様々な問題に対応しうる総合的な医療(total care)の提供が求められます。当科では、医師、看護師、CLS(チャイルド・ライフ・スペシャリスト)、薬剤師、保育士、栄養士、教員、理学療法士、作業療法士、臨床心理士、MSW(医療ソーシャル・ワーカー)など、多彩な分野の専門家が患者さんとご家族を支援するチーム医療を実践しています。

支持療法による治療関連合併症の抑制の意義は極めて大きいが、化学療法の強化には限界も

小児がんの予後の改善において、支持療法による治療関連合併症の抑制の意義は極めて大きいと考えられます。当科では、発熱性好中球減少症に対しては早期に抗真菌薬を導入し、また、抗ウイルス薬抵抗性のサイトメガロウイルスやEBウイルス感染症に対しては特異的T細胞療法を行い、成果を上げています。その一方、治療強度を高めるための大量化学療法はほぼ限界に達しており、これ以上強度を高めても化学療法に起因する合併症が増加するだけで、さらなる予後の改善には結びつかないと推察されます。

最近では、これまでの手術、放射線治療、化学療法に続く第4の治療選択肢として免疫療法の臨床導入が進められ、予後の改善への寄与が期待されています。当科では、次世代シークエンサー(NGS)を用いた網羅的遺伝子解析に基づく治療方針の決定とともに、免疫療法の研究に力を注いでいます。

NGSを用いたMRD測定と、PiggyBacトランスポゾン法によるCAR-T細胞療法の実用化に向けて

再発・難治小児急性リンパ性白血病(ALL)は、小児における死亡数が最も高い小児がんです。われわれは、NGSを用いた小児ALLの微小残存病変(MRD)測定の有用性の評価を行いました。その結果、NGSによるMRD測定は従来法と良好な相関性を示し、より高い感度での測定が可能であることが分かりました1)。これにより、精度の高い予後予測が可能となり、移植前に転帰を予測したり、事前に治療抵抗性の患者を同定したりすることができるため、個々の患者に適した個別化治療の実践に寄与するものと期待されます。

また、近年、化学療法抵抗性ALL患者の治療として、細胞表面に発現するCD19抗原に対するキメラ抗原受容体(CAR)を、患者から採取した末梢血T細胞に遺伝子導入し、培養して輸注するCD19.CAR-T細胞療法()の有効性が報告されています2-4)。この治療アプローチは、米国では難治がんに対する最も有望な治療法の1つと位置付けられていますが、「最大の障害はその費用(The Wall Street Journal、2014年10月7日)」とも言われるほど高価な治療法です。そこで、米国Baylor大学に在籍していた中沢洋三先生(現・信州大学医学部 小児医学教室 教授)らは、非ウイルス遺伝子導入技術であるPiggyBacトランスポゾン法を用いたCAR-T細胞療法を開発しました5)。この方法は迅速かつ安価なT細胞の遺伝子改変技術として評価されており、われわれは現在、実用化に向けた検討を進めています。

NGS-MRD測定による予後予測とPiggyBacトランスポゾン法によるCAR-T細胞療法が確立されれば、化学療法抵抗性小児ALL患者の治療だけでなく、移植を必要とせずに治療できるなど、小児ALLの治療に大きな前進をもたらすと考えられます。また、開発途上国と連携してこれらの方法を導入することで、世界中の多くのALLの子どもたちの生命予後の改善に資するものと期待されます。

図 CAR-T細胞の樹立とその投与

提供:高橋義行先生

  1. Sekiya Y, et al.: Br J Haematol 176(2): 248-257, 2017
  2. Grupp SA, et al.: N Engl J Med 368(16): 1509-1518, 2013
  3. Maude SL, et al.: N Engl J Med 371(16): 1507-1517, 2014
  4. Lee DW, et al.: Lancet 385(9967): 517-528, 2015
  5. Nakazawa Y, et al.: Mol Ther 19(12): 2133-2143, 2011
医療機関名称 名古屋大学医学部附属病院
住所 〒466-8560 愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65
電話番号 052-741-2111(代表)
医師名 高橋 義行(たかはし よしゆき)先生
経歴
1992年
名古屋大学医学部卒
2016年より
名古屋大学大学院医学系研究科 小児科学 教授
ホームページ https://www.med.nagoya-u.ac.jp/ped/外部サイトを開く(小児科)