人にやさしいScientific Medicine(科学的な診療)

  • 診療科血液内科
  • エリア栃木県下野市薬師寺

神田 善伸(かんだ よしのぶ)先生

自治医科大学/内科学講座血液学部門・血液内科 教授

神田 善伸(かんだ よしのぶ)先生

栃木・埼玉の2施設が国内最大級の血液診療グループを形成

私は2014年9月から自治医科大学附属さいたま医療センター血液内科に加えて自治医科大学内科学講座血液部門教授を兼任するようになりました。自治医科大学附属病院は栃木県南部から茨城県西部を、さいたま医療センターは埼玉県東部から北部をそれぞれ診療圏としいます。これら診療圏内の人口は合わせて約500万人です。造血幹細胞移植は両施設でそれぞれ年間70~90件ずつ行っており、圏内で実施される移植の大部分をカバーしています。

従来、自治医科大学の血液学部門は臨床と研究の両面で実績を積み重ねてきましたが、附属病院とさいたま医療センターの連携が強化されたことで国内最大級の血液診療グループが形成され、さらなる発展のための土台ができました。今後は、海外の大規模施設に比肩しうる成果を上げていきたいと考えています。

臨床研究では、両施設とも後期研修医の段階から、各自がテーマを持って研究に取り組んでいます。その取り組みとして、まず後方視的にデータを収集し統計解析を行うコホート研究を通じて、臨床研究の基本を学びます。次に、その成果から仮説が生まれた場合は、前方視的研究で検証します。さらにその過程で新たなテーマが見つかれば、次の研究でこれを掘り下げるといったアプローチを、後期研修医を含む医局員全員が実践しています。卒後3~5年の後期研修医が国際的な専門誌に次々と論文を発表するなど、様々な形で結実しています。

一方、私たちが行っている基礎研究の中心テーマは、移植免疫および腫瘍免疫です。自治医科大学では移植片対宿主病(graft versus host disease;GVHD)のモデルマウスを作製し、種々のGVHDの治療薬の有効性を検証しています。この研究はヒトの細胞を用いてGVHDを誘発しているため、実際にヒトに用いられる治療薬の効果の予測が可能であることが特長です。また、さいたま医療センターでは抗原特異的免疫応答の研究を行っており、現時点で臨床応用に最も近いテーマとして、成人T細胞白血病(ATL)に対する特異的な細胞傷害性T細胞を用いた免疫療法が挙げられます。

臨床・研究のさらなる向上のための取り組み

私たちが日常診療で重視しているコンセプトの1つが「臨床決断分析」です。決断分析は経営や経済の分野等で以前から広く用いられている手法ですが、臨床決断分析はこれを診療現場に応用したものです(図1)。優れた無作為化臨床試験による結果など高度なエビデンスに基づき確立された治療法であっても、それが全ての患者さんにとって最適な治療法であるとは限りません。臨床決断分析は、長期的なQOLだけでなく、患者さん・ご家族の人生観をも考慮した治療方針の検討のために参考になる考え方です。経験や技術の蓄積が少ない若い医師が臨床的な意思決定を行ったり、患者さんの決断を助けたりする際にも役立ちます。

感染症領域の研究では、好中球減少の期間と重症度の双方を同時に定量的に評価し、侵襲性真菌症の発症を予測するツールであるD-indexを、個々の患者さんに応じた適切な感染管理に役立てようとしています。私たちは、血液腫瘍患者で累積D-index(c-D-index)が5,500を超えると侵襲性アスペルギルス症をはじめとする侵襲性真菌症や細菌感染症のリスクが高くなることを報告しています1)。そして、持続する発熱性好中球減少症に対して、D-indexに基づく早期抗真菌治療(D-index guided early therapy; DET)と従来型の経験的抗真菌治療を比較する多施設共同無作為化試験を行い、DETによって真菌症の発症を増加させることなく、抗真菌薬の使用を有意に減少させられることを示しました。2)

一方、統計解析においては優れた統計ソフトがいくつか市販されていますが、いずれも個人で購入するには高価です。そこで、無料の統計ソフトである「R」に医学統計に役立つ多彩な統計解析機能を組み込んだ、「EZR(Easy R)」を開発しました。EZRはマウス操作だけで解析が可能である点でも優れ(図2)、さいたま医療センターのホームページ外部サイトを開くで公開しています。2013年にBone Marrow Transplantation誌で紹介3)して以来、EZRは2020年8月時点で約4,000編の英文論文に引用されています。

図1 臨床決断分析における決断樹(例)

提供:神田善伸先生

図2 EZRでの生存解析。マウス操作だけで生存曲線の描画や統計解析が実施できる

「適度なスピード感」が血液内科の魅力

血液内科の診療には「適度なスピード感」があります。血液腫瘍患者さんの病態は、時に治療に反応してダイナミックに変動します。しかし、救急医療のように、極めて迅速な判断を求められる場面は多くはなく、1人ひとりの患者さんの治療戦略をしっかりと検討する時間はあります。こうして選択した治療が患者さんの病態の変化に速やかに反映されていくスピード感の魅力を感じてもらいたいと思います。

また、私たちは「Scientific Medicine~科学的な診療~」を理念に掲げています。“Scientific Medicine”はEBMの本来の概念です。私たちはこの概念に基づき、エビデンスを個々の患者さんの個性にあわせて活用していく過程を重視した研修プログラムを作成しています。 “Scientific”という言葉は冷たい印象を与えがちですが、“Scientific Medicine”はむしろ客観化が難しい人間的な要素を可能な限り医療に組み込み、ひとりひとりの患者さんの希望を実現していくための診療手段です。「人にやさしい医療の実践」にこそ、scienceが不可欠なのです。

  1. Kimura S, et al.: Biol Blood Marrow Transplant 16(10): 1355-1361, 2010
  2. kanda Y:J Clin Oncol. 2020 Mar 10;38(8):815-822
  3. Kanda Y.: Bone Marrow Transplant 48(3): 452-458, 2013
医療機関名称 自治医科大学附属病院
住所 〒329-0498 栃木県下野市薬師寺3311-1
電話番号 0285-44-2111(代表)
ホームページ http://www.jichi.ac.jp/usr/hema/外部サイトを開く(血液学部門)

医療機関名称 自治医科大学附属さいたま医療センター
住所 〒330-8503 埼玉県さいたま市大宮区天沼町1-847
電話番号 048-647-2111(代表)
医師名 神田 善伸(かんだ よしのぶ)先生
経歴
1991年
東京大学医学部卒
2007年より
自治医科大学附属さいたま医療センター血液科教授
2014年より
自治医科大学内科学講座血液学部門教授兼任
ホームページ http://www.jichi.ac.jp/saitama-sct/外部サイトを開く(血液科)