生命予後改善と晩期合併症克服の双方を両立させることが目標

  • 診療科小児科学講座
  • エリア大分県由布市挾間町

末延 聡一(すえのぶ そういち)先生

大分大学医学部 小児科学講座/大分こども急性救急疾患学部門医療・研究事業 教授

末延 聡一(すえのぶ そういち)先生

各科との連携の下、小児血液・腫瘍性疾患の治療を担う

大分大学医学部附属病院小児科では、腫瘍・血液内科や脳神経外科、消化器外科、小児外科等との連携の下、小児の血液腫瘍ならびに固形がんの治療を行っています。院内学級の利用が必要な小・中学生、また思春期の患者さんも診療しています。

火・木および金曜日に小児血液・腫瘍性疾患の専門外来を行なっています。また、長期フォローアップ外来を設けており、心血管系・中枢神経系・内分泌系の合併症がある方をはじめ、治療終了後も定期的なフォローが必要な患者さんを診療しています。現在、当院では病院再整備事業が進行中で、2015年11月に改修された東病棟にNICUを除く小児科の機能が移転しました。無菌室が1室から2室に増え、他にも無菌対応可能なユニットが利用できるようにもなりました。

小児を対象とした同種造血幹細胞移植を実施している施設は、県内では当院のみです。当科では1994年以降2019年までの間に計68件の移植を施行しています()。近年は少子化で同胞が少ない、もしくは同胞がいない場合が多いこと、迅速性などから、臍帯血移植が選択される機会が増えてきています。

大分大学医学部附属病院小児科における造血幹細胞移植件数の年次推移

提供:末延聡一先生

治療成績向上の背景に支持療法の進歩

小児において頻度が高い急性リンパ性白血病(ALL)の治療成績はこの50年で目覚ましく向上し、近年のB前駆性ALLでの報告では85%の無再発生存率、90%程度の全生存率が期待されます(Hasegawa, D., et al. (2020). "Risk-adjusted therapy for pediatric non-T cell ALL improves outcomes for standard risk patients: results of JACLS ALL-02." Blood Cancer J 10(2): 23.)。その背景には、治療法の改善のみならず、抗微生物薬による感染症対策や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)によるサイトカイン療法等、支持療法の進歩があります。

特に好中球減少期にひとたび感染症を発症すると、治療を一時中断せざるをえなくなり、また、感染症によって生命が危機にさらされることもありますので、抗菌薬や抗真菌薬による感染症予防と早期治療が極めて重要です。当科では、移植時の予防投与ではフルコナゾール(FLCZ)の経口投与または静注を行うことが多く、抗菌薬不応の発熱が見られる真菌感染症疑い例では、早期にキャンディン系薬剤またはアムホテリシンBリポソーム製剤(L-AMB)を使用することが多いです。肺や気道の病変からアスペルギルス症が強く疑われる場合は、ボリコナゾール(VRCZ)もしくはL-AMBの使用を考慮します。

成人では気管支肺胞洗浄液(BALF)の培養検査や鏡検が菌種の同定に有用ですが、小児ではBALFの採取が体格的にも手技的にも困難な場合が多いです。そのため、画像診断や血清診断等を組み合わせることによって早期に疑い例を発見し、適切な対応に結びつけることが重要です。

生存率を担保しつつ、長期的なQOLの維持・向上を果たすために

小児の血液・腫瘍性疾患の治療における課題の1つは、生存率を担保しつつ、長期的なQOLの維持・向上を果たすことです。そのためには、放射線療法や大量抗がん剤投与によって起こりうる晩期合併症を克服する必要があります。

放射線療法は治療成績の向上に大きく寄与した治療法ですが、様々な晩期合併症のリスク因子でもあることが明らかになってきました。ALLの治療においては、中枢神経浸潤予防のために頭蓋放射線照射が広く行われてきましたが、内分泌障害に伴う認知機能の低下や成長不全、二次がんとしての脳腫瘍等が問題視されるようになり、最近では線量を減量、あるいは頭蓋照射を全廃するプロトコールが主流になっています。代わりに、中枢神経への十分な薬剤移行を得るための抗がん剤の髄腔内投与や、メトトレキサート療法が行われています。私たちも、自施設で頭蓋照射を行わないプロトコールにて治療を行った思春期前発症のALL患児では身長の伸び率が早期に回復する結果を示しています(Suenobu, S., et al. (2020). "Early Recovery of Height Velocity in Prepubertal Children With Acute Lymphoblastic Leukemia Treated by a Short Intensive Phase Without Cranial Radiation Therapy." J Pediatr Hematol Oncol 42(4): 271-274.)。

また、放射線療法や抗がん剤による性腺機能障害に伴う不妊も重要な問題です。特に思春期に治療を受けた場合、女性では卵巣機能不全、男性では無精子症のリスクが高いことから、治療前に妊孕性を担保する方法についての検討も必要です。妊孕性に影響しうる薬剤を用いない治療法の選択も考慮できますが、より優先されるべきは患者さん自身の生存です。このように、生命と晩期合併症の双方を考慮する必要があるのが、小児がん治療が困難である理由の1つと言えるかもしれません。日本小児がん研究グループ(JCCG)内に設けられた長期フォローアップ委員会においても、晩期合併症の問題が議論されています。

治療は1人ではできない――多くのスタッフに支えられて

現在、当科と産婦人科との間でも、妊孕性を担保するための検討を始めました。また、生検を依頼する耳鼻咽喉科や形成外科、手術を執刀する小児外科、脳神経外科、整形外科、術後のICU管理に携わる麻酔科といった各科のスタッフとも緊密に連携しています。

治療の終了、あるいは外来維持療法への移行などによって退院されるお子さんと親御さんの姿を見送るときに浮かぶのは、ともに最適な治療を追求してきた小児科メンバーや他科スタッフの姿です。小児がんの治療は、決して1人で完結できるものではありません。多くの頼もしいスタッフに支えられて、この日を迎えることができたのだと実感するひと時でもあります。

医療機関名称 大分大学医学部附属病院
住所 〒879-5593 大分県由布市挾間町医大ヶ丘1-1
電話番号 097-549-4411(代表)
医師名 末延 聡一(すえのぶ そういち)先生
経歴
1990年
大分医科大学医学部卒
2001年より
大分医科大学(現・大分大学)医学部小児科勤務
ホームページ https://www.oita-ped.jp/index.html外部サイトを開く(小児科)