適切な感染症予防と治療に繋げるため、原発性免疫不全症(PID)への理解を広げたい

  • 診療科小児地域成育医療学講座
  • エリア東京都文京区湯島

金兼 弘和(かねがね ひろかず)先生

東京医科歯科大学大学院/小児地域成育医療学講座 寄附講座教授

金兼 弘和(かねがね ひろかず)先生

原発性免疫不全症を疑うべき徴候を知り、鑑別することが重要

免疫不全症には、免疫細胞の分化・成熟に必須な遺伝子の機能異常により生じる原発性免疫不全症(PID)と、他の要因によって免疫系の機能が二次的に障害される続発性免疫不全症があります。PIDの多くは小児期に発症しますが、小児期以降に発症し、成人の診療科で発見されることもあります。また、感染管理や治療の進歩に伴い予後が改善する一方で、移行期・成人期の患者が増加傾向にあります。成人のPID患者をどのようにフォローするかということが、日本のみならず世界的な問題となっています。

現在までに400種類以上のPIDが報告されていますが、遺伝子解析技術の進歩により新規の原因遺伝子が次々と同定されており、今後も増加すると考えられます。また、遺伝子変異を有していても免疫不全が前面に現れるとは限らないため、未だPIDと診断されていない患者が多く潜在していると考えられます。血液内科医が遭遇する可能性がある、血球の異常を伴うPIDをに示します。

血球の異常を伴うPID

監修:金兼弘和先生

PIDを疑うきっかけとして最も多いのは「易感染性」です。易感染性には、反復感染、重症感染、持続感染、日和見感染といったさまざまな感染様式がありますが、特に持続感染や日和見感染がみられた場合には免疫不全症を積極的に疑います。PIDに関するさまざまな活動を行う国際団体であるJeffrey Modell Foundation(JMF)は“10 Warning Signs of Primary Immunodeficiency外部サイトを開く”というパンフレットを作成し、PIDの診断の重要性を啓発しています。わが国の厚生労働省「原発性免疫不全症候群に関する調査研究」班では、その改訂日本版「原発性免疫不全症を疑う10の徴候外部サイトを開く」を作成していますので、参考にしていただきたいと思います。

疾患の種類に応じた感染対策が必要

PIDにおける一般的な感染対策としては、健常人での対策と同様の手洗い、うがい、歯磨き、マスク着用の励行が挙げられます。また、環境整備が重要であり、部屋をこまめに掃除すること、人混みやほこりが多い場所をなるべく避けること等を患者・家族に指導しています。

PIDは、感染症が重篤化するリスクの高い疾患群です。疾患の種類によってはある特定の病原体に易感染性を示すことがありますので、該当する病原体には特に注意が必要です。具体的には、EBウイルス(EBV)やサイトメガロウイルス(CMV)などのヘルペスウイルス、カンジダやアルペルギルスなどの真菌、結核菌やサルモネラ菌などの細胞内寄生細菌などです。

感染症の予防策も疾患の種類によって異なり、たとえば複合免疫不全症に分類される疾患群に対してはニューモシスチス肺炎予防のためにST合剤内服が必須です。また、抗体産生不全症に分類される疾患群に対しては免疫グロブリン定期補充療法の有効性が報告されており1)、最近わが国でも皮下注用免疫グロブリン製剤が保険適用になったことから、広がりをみせています。薬物療法によるコントロールを行ってもなお症状・合併症が重篤であり、将来的なリスクが高い患者では造血幹細胞移植も考慮されます。特に1歳未満で発症することの多い重症複合免疫不全症(SCID)は、1年以内に移植を実施しないと予後が不良な疾患です。

新規PIDの同定および病態解析を目指して

PIDの多くは単一遺伝子病であり、遺伝子検査によって原因遺伝子が特定されると、どのような免疫異常をもつのかが分かり、注意すべき病原体や罹患しやすい感染症をある程度想定した上で予防と治療にあたることが可能になります。したがって、まず原因遺伝子を特定することが重要です。2018年にPIDの遺伝子解析が保険適用となり、遺伝専門医がいる施設で検査可能となりました。PIDの診断後は適切な抗微生物薬を予防的に投与すること、感染症発症時には感染症を正確に診断し、十分量の治療薬投与することに尽きます。2017年に発足した日本免疫不全・自己炎症学会(本学会URLは当科ホームページ外部サイトを開くからアクセス可能です)における活動を通じて、PIDへの理解を広げていきたいと思います。

当科は、PIDの診療・研究におけるわが国でも有数の施設であり、特にPIDに対する造血幹細胞移植を積極的に行っています。PID患者の移植に際しては、血液悪性腫瘍患者における移植時以上に感染症管理に工夫が必要となります。当科ではこれまでの経験を生かして良好な成績を収めており、今後もPIDの造血幹細胞移植を推し進めていきたいと思います。また、研究面では、全エキソーム解析等の最新の遺伝子解析技術を用いて、新規のPIDの同定および病態解析を進めるとともに、将来的には国立成育医療研究センターと協力して遺伝子治療にも取り組んでいきたいと考えています。

  1. Orange JS, et al.: Clin Immunol 137(1): 21-30, 2010
医療機関名称 東京医科歯科大学医学部附属病院
住所 〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45
電話番号 03-3813-6111(代表)
医師名 金兼 弘和(かねがね ひろかず)先生
経歴
1986年
金沢大学医学部卒
2014年より
東京医科歯科大学勤務
ホームページ http://www.tmd.ac.jp/med/ped/外部サイトを開く(小児科)