ファブリー病の鑑別を頭の片隅に

  • 診療科小児科
  • エリア大分県由布市

井原 健二(いはら けんじ)先生

大分大学医学部 小児科学講座 教授

井原 健二(いはら けんじ)先生

ファブリー病はヘテロ接合体女性も発症する場合があり、多様な症状を呈する

ファブリー病は、ライソゾームに存在する加水分解酵素の1つであるα-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の欠損あるいは活性低下によって生じる、先天性のスフィンゴ糖脂質代謝異常症です。

男性のファブリー病は、発症する時期と現れる症状により、古典型と遅発型(亜型)に大別されます。古典型ファブリー病は、心臓、腎臓、皮膚、眼、神経系など、全身の組織・臓器に糖脂質が蓄積することにより、幼少時には四肢末端疼痛や汗をかきにくい症状(低汗症・無汗症)、被角血管腫、渦状の角膜混濁などが出現します。また、加齢に伴い心臓、腎臓、脳血管への糖脂質の蓄積が進行し、成人以降に心障害(心肥大、不整脈など)、腎障害(腎機能低下、腎不全)、脳血管障害(一過性脳虚血発作、多発性脳梗塞など)が出現して致死的となることがあります。遅発型ファブリー病はα-Galの活性がある程度残存し、成人以降に心臓または腎臓に限局して症状が現れる病型です。

ファブリー病はα-Gal遺伝子(GLA)の変異を原因とする単一遺伝子疾患であり、X連鎖性の遺伝形式をとります。以前は、ヘテロ接合体女性は発症しない保因者であると考えられていましたが、現在ではヘテロ接合体女性も発症する場合があることが分かっています。その症状は、軽症のまま経過する場合もあれば男性と同様に重症化する場合もあるなど、実に多様です。

家族歴聴取は、ファブリー病を含む遺伝性疾患の顕在化に重要な役割を果たす

ファブリー病には酵素補充療法などの治療法があることから、早期に顕在化して適切な対処に結びつけることが望まれます。小児期の手足の痛みや汗のかきにくさはファブリー病を疑う契機となり得ますが、これらの症状が家庭内で「いつものこと」「当たり前のこと」と認識されている場合は患者さん本人やご家族からは発せられにくく、ファブリー病が潜在化する一因となっている可能性があります。

ファブリー病の顕在化に重要な役割を果たすのが、家族歴聴取です。「ご家族の中に、大きな病気を抱えている方はいませんか?」と聴き取りを進めた際に、心疾患を抱えている方や透析中の方、若くして脳梗塞を発症した方などがいらっしゃる場合は、ファブリー病が潜在している可能性を考慮します。家族歴を丁寧に聴取することは、ファブリー病に限らず多くの遺伝性疾患を早期に顕在化するためにも大切です。

当院ではファブリー病を見過ごすことのないよう、小児科のほか循環器内科や腎臓内科、内分泌・糖尿病内科などファブリー病の患者さんが受診する可能性がある診療科同士の密な連携に努めています。

ファブリー病の遺伝カウンセリングでは性別や社会的背景にも配慮

X連鎖性疾患であるファブリー病は、男性と女性で疾患との関わり方が異なることから、遺伝カウンセリングを行う際にも患者さんやご家族の性別や社会的背景に配慮することが求められます。一方で、親から子への遺伝で発症する場合だけでなく突然変異(de novo変異)で発症する場合もあることが知られており、その可能性を考慮に入れておく必要もあります。

また、ファブリー病は症状の現れ方に性差があるだけでなく個人差も大きいといった疾患自体の特徴や、遺伝学的検査(酵素活性測定、遺伝子解析)の意義、治療法の存在などを念頭に置き、これらについて十分な説明を尽くすことを意識しながら、遺伝カウンセリングを進めていきます。

未診断の患者さんが多く潜在している可能性も

ファブリー病は進行性の疾患です。糖脂質の蓄積により臓器障害が不可逆的な段階まで進行してしまう前にファブリー病を診断し、治療を開始することができるか否かが、患者さんの予後を左右すると考えられます。

大分県内には、まだ診断されていないファブリー病の患者さんが多く潜在している可能性があります。小児期では手足の痛みや低汗症、成人以降では心障害や腎障害、脳血管障害を呈し、その原因が不明である場合はファブリー病の鑑別を頭の片隅に置き、詳細な家族歴聴取やスクリーニング検査を進めていただきたいと思います。当院でも私たち小児科を含む複数の診療科でファブリー病の精査を行っていますので、疑わしい症例に出合った際は遠慮なくご紹介ください。

医療機関名称 大分大学医学部附属病院 小児科
住所 〒879-5593 大分県由布市挾間町医大ヶ丘1-1
電話番号 097-549-4411(代表)
医師名 教授 井原 健二(いはら けんじ)先生
ホームページ http://www.med.oita-u.ac.jp/hospital/外部サイトを開く