原因不明の心・腎・脳血管の症状や、その家族歴が確認された際は、ご相談ください

  • 診療科小児科
  • エリア沖縄県中頭郡

知念 安紹(ちねん やすつぐ)先生

琉球大学大学院 医学研究科育成医学(小児科)講座 診療教授

知念 安紹(ちねん やすつぐ)先生

ファブリー病の疾患啓発と早期顕在化が課題

琉球大学病院では、私が所属する小児科と、循環器、腎臓・高血圧、神経・脳卒中を診る第三内科とで、ファブリー病の患者さんを診療しています。現在は成人以降に診断された患者さんの診療が中心ですが、小児期に発症し、未診断のまま経過している小児・成人の患者さんが県内に潜在している可能性があり、ファブリー病の疾患啓発と早期顕在化が課題であると考えています。

発端者の家系検索を丁寧に行うことが重要

ファブリー病は、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)などの糖脂質を分解するライソゾーム酵素α-ガラクトシダーゼ(α-Gal)をコードする遺伝子の変異を原因とする、X連鎖性の遺伝性疾患です。血縁者間、地域間の結びつきが強い沖縄県ではこれまで、「遺伝」という単語に対する漠然とした不安から、遺伝性疾患の家系検索が思うように進められないこともありました。しかし、最近では若い世代を中心に「治療法があるのであれば早く知りたい」と、家系検索に前向きな方も増えてきたという印象を抱いています。

ファブリー病は突然変異(de novo変異)で発症する場合もありますが(日本人のファブリー病家系の調査において6.8%1))、その頻度を考慮すると、発端者の家系検索を丁寧に行うことが何より重要であると考えられます。

ファブリー病を疑うべき症状・所見

全身の組織・臓器に多様な症状が現れるファブリー病は、病態を一言で言い表すことが難しい疾患です。そのため、ファブリー病の可能性を考慮すべき症状・所見を知り、鑑別疾患の一つとして想起されない限り、日常診療の中で診断することは困難だと思われます。

ファブリー病を疑うべき症状・所見としては、小児期からみられる四肢末端疼痛や発汗障害(低汗症・無汗症)、被角血管腫のほか、原因不明の腎機能低下(蛋白尿)や心肥大・心筋症などが挙げられます。当院では、検尿で指摘された蛋白尿を契機としてファブリー病の診断に至ったケースを比較的多く経験しています。ファブリー病に特徴的な尿所見としては尿沈渣中のマルベリー小体も注目されており、当院の検査部門でこれが確認されたケースも経験しています。

ファブリー病の新生児スクリーニングに向けて

新生児スクリーニングは、発症前の段階でファブリー病を診断し得る有用な手法の一つです。日本国内の一部の地域では、公費負担で行われる新生児マススクリーニングの追加検査として、ファブリー病を含むライソゾーム病の新生児スクリーニングが実施されています。

沖縄県では新生児マススクリーニング連絡協議会を中心にスクリーニング体制の整備が進められ、2014年には公費負担の新生児マススクリーニングにおけるタンデムマス法の導入が果たされました。今後は、沖縄県医師会および産婦人科の先生方のご理解・ご支援をいただきながら、妊産婦の方々からの希望に応じてファブリー病を含むライソゾーム病の新生児スクリーニングを提供できる体制を整えていきたいと考えています。

診療経験と得られた知見・課題を次の世代に伝え、治療のさらなる進歩へ

ファブリー病は遺伝子疾患ですが、治療法があります。臓器症状が進行する前にファブリー病を診断し、治療を開始することが非常に重要です。そのためには、原因を説明できない心臓や腎臓、脳血管などの症状がみられる場合、あるいはこれらの家族歴が確認された場合には、ファブリー病の可能性を考慮し、私たち専門医にご相談いただきたいと思います。当院では、沖縄本島以外の島嶼を含む県内全域からのご紹介に対応しております。

ファブリー病の治療法として酵素補充療法が登場してから15年以上が経過し、近年もう一つの治療法として薬理学的シャペロン療法も登場しました。診療経験とこれまでに得られた知見・課題を次の世代に伝え、治療のさらなる進歩につなげていくことが、今、ファブリー病の診療に携わっている私たちの役割であると思っています。

  1. Kobayashi M, et al.: Mol Genet Metab Rep 1: 283-287, 2014
医療機関名称 琉球大学病院 小児科
住所 〒903-0215 沖縄県中頭郡西原町字上原207
電話番号 098-895-3331(代表)
医師名 診療教授 知念 安紹(ちねん やすつぐ)先生
ホームページ http://www.hosp.u-ryukyu.ac.jp/外部サイトを開く