腎症状・心症状の背後にあるファブリー病を見逃さないために

  • 診療科腎臓内科
  • エリア福岡県北九州市

金井 英俊(かない ひでとし)先生

小倉記念病院 副院長/腎臓内科 部長

金井 英俊(かない ひでとし)先生

CKDの予防と早期発見、寛解、進展阻止に取り組む

小倉記念病院は、北九州市とその周辺地域の急性期・高度医療の中核として、特に全身の血管治療で先進的役割を果たしてきた病院です。圏内の医療機関がそれぞれの専門分野の救急医療を担当する「機能別救急医療体制」のもとで、循環器内科、心臓血管外科、脳神経外科が主体となり、狭心症や心筋梗塞、脳卒中の救急患者に対応しています。

慢性腎臓病(CKD)は虚血性心疾患や脳卒中、閉塞性動脈硬化症などの危険因子の1つであり、その予防と適切な治療が課題となっています。私たち腎臓内科は、CKDの急性期治療や腎機能に応じた腎代替療法(腹膜透析、血液透析、腎移植)を行うとともに、その予防と早期発見、寛解、進展抑制に取り組んでいます。

北九州市は全国に先駆けて「CKD予防連携システム」を立ち上げ、2011年に運用を開始しています。私はCKD検討委員会の一員として、システムの策定に携わりました。システムの導入から10年近くが経過し、早期からの紹介例の増加や透析導入時期の遅延など、一定の成果が得られてきています。

原因不明の腎症状・心症状に遭遇した際はファブリー病の可能性を考慮し、1度は精査を

腎機能が低下した患者さんや透析患者さんに潜んでいる可能性のある疾患の1つが、ファブリー病です。ファブリー病は、ライソゾーム酵素α-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の欠損あるいは活性低下を原因とする、X連鎖性の遺伝性疾患です。α-Galの基質であるグロボトリアオシルセラミド(Gb3)などの糖脂質が腎臓、心臓、脳血管の細胞などに異常蓄積し、全身の組織・臓器に様々な症状が引き起こされます。幼少期から生じる代表的な初期症状としては、四肢末端疼痛、発汗障害(低汗症・無汗症)、被角血管腫などがあります。

腎臓では、主に糸球体内皮細胞や上皮細胞(ポドサイト)、近位尿細管細胞にGb3が蓄積し、腎機能の低下がもたらされます。初期には蛋白尿を呈し、進行すると腎不全に至って腎代替療法が必要となる場合もあります。また、心臓では心筋細胞へのGb3の蓄積により心肥大や不整脈、心不全が生じます。

腎症状や心症状の背後にあるファブリー病を見逃さないためには、その病名を頭の片隅に置き、日常診療の中で原因不明の腎症状・心症状に遭遇した際、あるいは「通常の腎症状・心症状とは何かが違う」と感じた際にファブリー病の可能性を考慮し、1度は精査を行うことが大切です。

ファブリー病を考慮に入れた病歴・家族歴聴取と、疾患啓発が重要

私が出会った現在40歳代の男性患者さんは、30歳代のときに職場の健診で蛋白尿を指摘され、当科で実施した腎生検でも異常所見が認められました。ファブリー病を疑う決め手になったのは、母親に脳梗塞の既往があり、かつ母方のいとこが透析中であるという家族歴でした。

この患者さんの病歴を詳細に確認したところ、幼少期から手足の痛みや汗のかきにくさを自覚していたものの、母親に相談したところ「私も一緒だよ」といわれ、これらの症状の精査を目的とする受診には至らなかったとのことでした。ファブリー病のヘテロ接合体である母親も同じ症状を経験していたことから、家族の中では、四肢末端疼痛や低汗症が何らかの病気の症状であるとは認識されていなかったのです。

こうした経験を通じて、ファブリー病を早期に顕在化するためには、医療従事者がファブリー病を考慮に入れた病歴・家族歴聴取を行うことに加えて、一般の方々に向けての疾患啓発を今まで以上に幅広く行っていくことが重要であると感じています。

全人的医療の実践に貢献する診療科の1つとして

腎臓は体液の量や組成の恒常性を維持する重要な臓器であり、腎機能は全身の組織・臓器の状態とも密接に関連しています。腎臓を通じて全身を診る腎臓内科は、全人的医療の実践に貢献する診療科の1つといえます。そのため腎臓内科は、腎症状のほか全身に様々な症状が現れるファブリー病の早期診断にも役割を果たし得る診療科であると思います。

ファブリー病は希少疾患とされますが、その症状について知り、日常診療の中で「何かがおかしい」と感じた際には蛋白尿など腎臓関連の検査所見にも注目していただくこと、異常が認められた際は腎臓内科に紹介していただくことが、早期診断につながる可能性があります。1例でも多くのファブリー病患者を顕在化するために、私たち腎臓内科も他科、他施設との連携を密にしていきたいと思っています。ファブリー病が疑われる症状・所見、病歴・家族歴をもつ患者さんに出会われた際は、ぜひご相談ください。

医療機関名称 小倉記念病院 腎臓内科
住所 〒802-8555 福岡県北九州市小倉北区浅野3-2-1
電話番号 093-511-2000(代表)
医師名 副院長 腎臓内科 部長 金井 英俊(かない ひでとし)先生
ホームページ http://www.kokurakinen.or.jp/byoin/外部サイトを開く