疾患について知り、非特異的な症状から積極的に疑うことが必要

  • 診療科循環器内科
  • エリア福岡県福岡市

肥後 太基(ひご たいき)先生

九州大学大学院医学研究院 /循環器内科学 診療講師

肥後 太基(ひご たいき)先生

病歴・家族歴聴取は具体例を挙げながら詳細に

ファブリー病は、全身の臓器に多彩な臨床症状が現れる疾患です。男性の古典型ファブリー病の場合、四肢疼痛や低汗症・無汗症といった症状が幼少期から現れ始めますが、患者さん自身が「当たり前のこと」と思って過ごしているため、顕在化しないまま長期間経過してしまうことがあります。

ファブリー病の四肢疼痛は運動や入浴による体温上昇時に生じやすく、「焼けるような痛み」と表現されます。また、汗をかきにくく熱が体内にこもるため、気温が上昇する夏場を苦手とします。ファブリー病を見過ごさないためには、運動や入浴をいやがるそぶりがないか、また、過去にそうした時期がなかったかどうかを本人や家族に確認することが大切です。患者さんの記憶を呼び起こすためには、「小さいころ、運動が苦手ではなかったですか?」「走ったあとやお風呂上がりに、手足に痛みを感じたことはありませんか?」などと、具体的に例を挙げながら問いかけることが有効だと思います。

ファブリー病はX連鎖性の遺伝形式をとります。家系内の未診断患者を顕在化するためには、家族歴聴取も欠かせません。発端者と同様に手足の痛みや汗のかきにくさを訴えている同胞はいないか、家族・親戚の中に心疾患、腎不全、若年性脳卒中の方がいないか、また、これらによって亡くなった方がいないかを確認します。家族歴聴取の際にも、単に病名を挙げるだけでなく「ペースメーカーを使用されている方はいませんか?」「透析を受けている方はいませんか?」と、具体例を示しながらお聴きするようにしています。

心エコー図、心電図、MRI検査所見に基づき鑑別

ファブリー病の心症状も多彩であり、患者さんからの訴えは胸痛や立ちくらみ(起立性低血圧)、息切れなどの形で聴かれることがあります。ファブリー病を示唆する心臓検査所見としては左室肥大がよく知られていますが、左室肥大のみを呈するとは限らないことに注意を要します。拡張型心筋症のように壁運動が著明に低下している方や、形態学的にはほとんど異常が認められない方の中にもファブリー病が潜在している可能性がありますので、心筋症、あるいは心不全の症状を訴える患者さんを診療する際には、ファブリー病の可能性を頭の片隅に置いておく必要があると思います。

心エコー図検査で左室肥大が認められた際は、その肥大が左室の局所にとどまるのか、左室全体に及ぶびまん性なのか、あるいは右室にも壁の肥厚、肥大があるのかどうかが、鑑別のポイントとなります。鑑別すべき疾患としては肥大型心筋症や心アミロイドーシスなどが挙げられますが、右室も含めて両心室の肥大が著明である場合は、ファブリー病と心アミロイドーシスを念頭に置いて精査を進めていきます。例えば心電図検査で前胸部誘導の低電位が認められる場合は、心アミロイドーシスの可能性をより強く疑います。ファブリー病に特徴的な心電図所見はいくつか報告されていますが、その一つとしてPQ時間の短縮がみられるとする報告があり1)、参考になります。

また、最近では心筋症の鑑別診断で心臓MRI検査の重要性が高まっています。ファブリー病では左室後側壁基部にガドリニウム遅延造影像がみられることが報告されており1)、肥大型心筋症や心アミロイドーシスとの鑑別に有用です。

検査結果だけを見るのではなく、患者さんとの対話を重視

ファブリー病診断のための精査を進める際に大切なことは、検査結果だけを見るのではなく、患者さんと面と向かって対話すること、患者さんの現症や病歴、家族歴を丁寧に聴き取ることだと思います。長い間、手足の痛みに悩まされながらも原因が分からず、心の病が疑われたこともあったという患者さんがおられました。そうした患者さんにとっては、結果的に診断がつくことももちろん重要ですが、自分の症状を親身になって聴いてくれる医療者の存在そのものが救いになることがあります。ファブリー病では腹痛、下痢などの消化器症状、難聴や耳鳴、めまいといった耳症状が現れることがありますが、これらもまた、医療者側から問わない限り表出されにくい症状です。診断に至る過程で患者-医療者間の信頼関係を築くことができれば、患者さんに検査・治療の重要性をより深く理解していただくことができますし、治療開始後に良好なアドヒアランスを維持できる可能性も高まると思います。

ファブリー病は、日常臨床や健康診断で指摘された心肥大や蛋白尿をきっかけとして診断できる可能性がある疾患です。治療法が開発されている疾患でもあることから、一人でも多くの潜在患者を顕在化することが求められます。そのためには、循環器内科に限らず多くの診療科の医師にファブリー病という疾患の存在を知っていただき、非特異的な症状からファブリー病を疑う機会を増やしていくことが必要だと思っています。循環器内科の立場からは、左室肥大、特に両心室の肥大が認められる場合はファブリー病の可能性を考慮し、酵素活性測定やその他の精査の実施を積極的に検討していただきたいと思います。

  1. 衞藤義勝, ファブリー病update, 診断と治療社, p79-83, 2013年
医療機関名称 九州大学病院 循環器内科
住所 〒812-8582 福岡県福岡市東区馬出3-1-1
電話番号 092-641-1151(代表)
医師名 診療講師 肥後 太基(ひご たいき)先生
ホームページ https://www.hosp.kyushu-u.ac.jp/外部サイトを開く