多職種連携による集学的アプローチで患者さんを支える

  • 診療科循環器内科
  • エリア山形県酒田市

近江 晃樹(おおみ こうき)先生

地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院
循環器内科副部長 兼 救命救急センター医長

近江 晃樹(おおみ こうき)

他施設との連携を推進し、治療の最適化を目指す

当院は山形県庄内地域で、保健、福祉、介護と連携を図り、地域の医療ネットワークの中核病院として、人口約30万人の二次医療圏をカバーしています。循環器内科ではカテーテル治療やデバイス治療が可能な体制を整えるとともに、近年では心臓リハビリテーションにも力を入れています。

様々な二次性心筋症を診療する機会も多く、その一つがファブリー病です。ファブリー病の診療に関しては、院内他科との連携はもとより、セカンドオピニオンを含めて他施設との連携も重視しています。紹介先は複数ありますが、中でも名古屋セントラル病院はライソゾーム病センターを中心にファブリー病の診療実績が国内有数の施設であり、同センターへの紹介例では年1回程度、1日ドック形式で全身の病態評価を依頼しています。作成していただいた診療情報提供書を当院の障害臓器に関連する診療科にフィードバックし、以降の診療計画に役立てています。

こうした体制を敷く最大の目的は治療の最適化にありますが、他施設との連携は私たちにとって新しい知識を取り入れるよい機会でもあると捉えています。1日ドックは多くのファブリー病患者さんを診療されているドクターからの声がけにより、安心感があたえられることから、心身のリフレッシュにもなるようで患者さんの満足度も高く、治療に対する意欲の向上にもつながっていると感じています。

二次性心筋症の鑑別スクリーニングフローチャートを作成

私が最初に出会ったファブリー病の患者さんは、職場検診で心電図異常と心雑音を繰り返し指摘されていたものの、10年以上、高血圧性心肥大としてフォローされていた40歳代女性の方です。当科でファブリー病と診断した後に全身を精査したところ、角膜混濁や被角血管腫、微量アルブミン尿といったファブリー病に特徴的な症状・所見が確認されました。また、母親は脳梗塞と腎不全を患い、70歳代で亡くなっておられました。日常臨床で、ヘテロ接合体の女性患者を見いだすことの難しさを感じた症例でありました。

ファブリー病を見逃すことのないよう、当科では二次性心筋症の鑑別スクリーニングフローチャートを作成しています(図)。二次性心筋症を意識した問診、全身の診察、家族歴聴取に加えて、内科一般検査と心エコー精査を行い、高血圧性心肥大と考えられる場合は、高血圧治療を厳格化しながら、心電図や心エコーによって半年ごとに慎重な経過観察を行います。しかし、改善が認められない場合は二次性心筋症を疑います。

二次性心筋症の鑑別スクリーニングフローチャート

図 当院における二次性心筋症の鑑別スクリーニングフローチャート

提供:近江晃樹先生

(図中の略語説明)
HHD:hypertensive heart disease、高血圧性心疾患
H-FABP:heart-type fatty acid-binding protein、心臓由来脂肪酸結合蛋白
Idiopathic HCM:idiopathic hypertrophic cardiomyopathy、特発性肥大型心筋症

微小心筋障害マーカー検査や眼科、皮膚科などでのスクリーニング検査で何らかの異常が認められる場合は心臓MRIやシンチグラフィ、PET-CT、心筋生検等を実施し、さらに遺伝学的検査によって確定診断を目指します。スクリーニング対象としては、まず健診二次精査や院内検査で心電図異常を認めた患者が挙げられます。また、房室ブロック患者、ペースメーカー植込み・電池交換患者、過去に特発性肥大型心筋症と診断されていた患者の再スクリーニングも考慮します。さらに若年性脳梗塞の塞栓源検索での紹介患者もスクリーニング対象とするなど、隠れた二次性心筋症の発見に努めています。

心臓リハビリテーションと組み合わせることで、診療の付加価値を高める

ファブリー病に対する酵素補充療法は臓器障害が顕在化するよりも前に開始すべきと考えられています。ファブリー病の心病変は、肥大型心筋症や拡張相への移行に伴う心不全、冠動脈病変・冠攣縮による虚血性心疾患、心室性期外収縮や房室ブロックなどの不整脈、大動脈弁閉鎖不全症や僧帽弁逸脱症など、様々です。心不全に対しては対症療法としてACE阻害薬やARB、β遮断薬など、心不全の進展抑制・心筋リモデリング予防にエビデンスのある治療を実施しますが、不整脈が生じると薬剤の選択が難しくなります。原因療法である酵素補充療法を実施・継続し、臓器障害の進展抑制を目指していくことが大切です。患者さんには2週間ごとに来院していただかなくてはなりませんが、心臓リハビリテーションや服薬・食事指導を組み合わせることで1回の診療の付加価値を高めるよう工夫しています。

遺伝カウンセラーが常駐し、協働での血縁者スクリーニングが可能に

これまでの経験から、ファブリー病患者さんのご家族に対するアプローチの難しさを感じています。医師の立場からは早期に血縁者スクリーニングを実施したいという思いに駆られてしまいがちですが、対応を誤ると患者さんやご家族を追い詰めてしまいかねません。

当院には2018年から遺伝カウンセラーが常駐し、医師と協働して遺伝教育や血縁者スクリーニングを行うことができるようになりました。遺伝カウンセラーとともに、より幅広いスクリーニングを実施し、患者さんやご家族のサポートに取り組んでいきたいと思っています。

原因療法が可能となった数少ない二次性心筋症の一つ

ファブリー病は、二次性心筋症の中で原因治療が可能となった数少ない疾患の一つです。患者さんを見過ごすことなく早期に診断し、多職種連携による集学的アプローチを開始することが求められます。長期の治療経過の中で心・腎の問題が生じる場合もありますが、そうした場合の患者さんに対する精神面のサポートも含めて、病院の総力をあげた診療を実践していきたいと考えています。なお、コロナ感染症の状況等で現在外来受診が制限されている場合がございます。患者さんをご紹介いただく際には最新の状況を確認いただけますと幸いです。

医療機関名称 地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院
住所 〒998-8501 山形県酒田市あきほ町30
電話番号 0234-26-2001(代表)
医師名 循環器内科副部長 兼 救命救急センター医長 
近江 晃樹(おおみ こうき)先生
ホームページ http://www.nihonkai-hos.jp/hospital/外部サイトを開く