ファブリー病の新生児スクリーニングを推進

  • 診療科小児科
  • エリア福岡県福岡市

廣瀬 伸一(ひろせ しんいち)先生

福岡大学医学部 小児科 主任教授

廣瀬 伸一(ひろせ しんいち)先生

全身に多彩な症状が現れる、ライソゾーム病の一種

ファブリー病は、加水分解酵素α-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の欠損または活性低下を原因とする、ライソゾーム病の一種です。グロボトリアオシルセラミド(Gb3)などの糖脂質が様々な細胞に蓄積することにより、全身に多彩な症状が現れます。ファブリー病の分類は症状などにより「男性古典型」、「男性遅発型」、「ヘテロ女性型」の3つの型に分類されています。

通常、小児期から思春期に発症する男性古典型ファブリー病の代表的な症状・所見として、四肢末端疼痛、低汗症、被角血管腫、角膜混濁、蛋白尿などが挙げられます。未治療のまま放置すると次第に腎機能が低下し、やがて腎不全に至ります。また、心・脳血管病変の進行に伴い、心肥大や不整脈などの心症状や、脳梗塞などの脳血管障害を合併する場合があります。

一方、成人以降に発症する男性遅発型ファブリー病は、心臓または腎臓を中心に比較的臓器特異的な症状を呈します。心型(cardiac variant)あるいは腎型(renal variant)と呼ばれることもあります。残存するα-Gal活性の違いによって、病型の違いがもたらされると考えられています。

ヘテロ女性型ファブリー病は男性と同様に重篤な症状を示す人から、ほとんど症状を示さない人まで様々です。しかし、年齢が進むと多くの人に何らかの臓器障害が出現すると言われています。

ファブリー病の疑いが少しでもある場合は、ためらうことなく酵素活性測定を

男性古典型ファブリー病の症状の一つである四肢末端疼痛は、「針で刺されるような」「焼け付くような」痛みと表現されます。夏場や運動時、入浴時など、体温が上昇したときに痛みが増すのが特徴です。QOLを著しく低下させる症状ですが、痛みを訴えても「気のせい」とされたり、複数の診療科を受診しても原因がわからず、診断に至るまでに長い年月を要してしまうことがあります。子どもが母親に痛みを訴えても、母親も同じ痛みを経験してきたため、「誰もが痛いものだから、がまんしなさい」と言われ、問題が家庭内に潜在してしまっていたケースもあります。

低汗症も、見過ごされやすい症状です。熱がこもって高体温になりやすいため、「夏は苦手なんです」「熱いお風呂には入りたくない」などと表現されることがあります。こうした訴えがあった場合は「汗をかきにくいですか?」と訊き、低汗症の有無を確認します。

被角血管腫の好発部位としては腰臀部や大腿上部、外陰部がよく知られていますが、手掌部にも認められることがあることを知っておくと、診断の参考になります。

このような臨床症状や身体所見からファブリー病が疑われる場合は家族歴を聴取し、家系内にファブリー病の方がいないか、心症状や脳血管障害で若くして亡くなった方がいないかなどを詳細に聴き取ります。ただし、ファブリー病は突然変異(de novo変異)として発症する場合もあるため、家族歴がないことでファブリー病を否定することはできない点に留意する必要があります。

現病歴・既往歴および家族歴を丁寧に聴き取り、ファブリー病の疑いが少しでもある場合は、ためらうことなくα-Galの酵素活性測定を実施していただきたいと思います。また、ファブリー病の検査・診断から治療導入に至る過程においては適切なタイミングで遺伝カウンセリングを提供することが望ましく、当施設でも遺伝医療室を中心に、その体制を整えています。

ファブリー病の新生児スクリーニングを開始し、福岡県全域に拡大

ファブリー病の頻度に関しては様々な報告があり、従来は男性古典型ファブリー病で男性4万人に1人1)と考えられていました。しかし、近年の疫学研究の結果から、現在ではそれよりも高頻度に存在すると考えられています。私たち福岡大学ならびに熊本大学の小児科が2007~2010年の期間に実施した新生児スクリーニングでは、新生児21,170人中3人がファブリー病と診断され、7,057人中1人(男児に限ると3,609人中1人)という頻度であることが示されました2)

この結果を踏まえて、私たちは福岡県産婦人科医会の支援の下、ライソゾーム病(ファブリー病とポンペ病が対象)の新生児スクリーニングを、2014年7月に開始しました。開始当初は福岡地区の分娩取扱い施設のみで実施されていましたが、2015年以降、筑豊地区、北九州地区、筑後地区の施設にも順次参加していただき、2018年8月末現在、131施設(福岡県内の97%)が参加するまでに拡大しています。開始以来の検査数は10万人を超えました。診断に至った患者さん、また、経過観察中の子どもたちは、専門施設で適切にフォローされています。

早期発見・早期治療、QOLの改善を願って

ファブリー病の治療法としては酵素補充療法が確立しており、既に10年以上の経験の蓄積があります。しかし、臓器障害が進行してしまった後で治療を開始しても、その効果は限定的であることがわかってきました。ファブリー病を発症前に発見し、適切な時期に治療を開始することができれば、期待される効果や、患者さんが享受できるメリットはより大きくなると考えられます。

日常診療でファブリー病を見過ごさないためには、ファブリー病を“疑う目”を持つことが大切です。私自身、以前は「一生遭遇することのない疾患」と思っていましたが、ファブリー病患者さんに出会い、意識して診療に臨むようになって初めて、「日常診療に潜んでいる可能性がある」ということに気づかされました。

“疑う”には、少なくとも疾患の存在を知っていなければなりませんが、ファブリー病の認知度・理解度は、まだ十分とは言えません。私たち福岡大学医学部小児科はNPO法人IBUKI(https://www.npoibuki.jp/外部サイトを開く)として、難病の新生児スクリーニングの普及・啓発を推進する活動を展開しており、ファブリー病を含むライソゾーム病についても積極的に情報を発信しています。新生児スクリーニングがファブリー病の早期発見・早期治療を可能にし、患者さんのQOLの改善につながることを願っています。

  1. Desnick RJ, et al.: α-Galactosidase A deficiency: Fabry disease. In: The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th Edition. Scriver CR, et al.: (eds), McGraw-Hill (New York), pp.3733-3774, 2001
  2. Inoue T, et al.: J Hum Genet 58(8): 548-552, 2013
医療機関名称 福岡大学医学部 小児科
福岡大学病院 小児科
住所 〒814-0180 福岡県福岡市城南区七隈7-45-1
電話番号 092-801-1011(代表)
医師名 主任教授 廣瀬 伸一(ひろせ しんいち)先生
ホームページ http://www.hop.fukuoka-u.ac.jp/外部サイトを開く