疾患の存在と、特徴的な症状を頭の片隅に

  • 診療科小児科
  • エリア大阪府和泉市

澤田 智(さわだ とも)先生

和泉市立総合医療センター 小児科 部長

澤田 智(さわだ とも)先生

ライソゾーム病との出会い

私が医師として歩み始めた2000年代初頭は、ファブリー病を含むライソゾーム病に対する複数の治療薬の開発が進められていた時期でした。大阪市立大学医学部附属病院の小児科に入局した私は、ライソゾーム病研究の第一人者の一人であった故・田中あけみ先生の導きの下、ポンペ病やムコ多糖症の治験に関わるようになりました。当時の私はライソゾーム病について限られた知識しか持ち合わせていませんでしたので、治験を円滑に進めるために、また、患者さんやご家族から寄せられる質問や相談に応じるために、懸命に勉強する日々を過ごしました。以来、私にとってライソゾーム病は、特に思い入れのある疾患群の一つであり続けています。

ファブリー病の患者さんとも、田中先生ほか医局の先輩医師が診ていた症例の検査、治療、説明の場面を通じて接する機会がありました。外来通院されている患者さんとお話しできる時間は長くはありませんでしたが、貴重な経験となりました。現在の赴任先である和泉市立総合医療センターでは主治医として、数例のファブリー病患者さんの治療及び経過観察を行っています。

既往歴・家族歴を簡便にチェックできる問診票を作成

ファブリー病は、ライソゾーム内に存在する加水分解酵素α-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の欠損、あるいは活性低下により、その基質である糖脂質グロボトリアオシルセラミド(Gb3)が組織・臓器に蓄積することで全身に様々な症状が現れる遺伝性疾患です。小児期に出現する代表的な症状としては、四肢末端疼痛、発汗低下、被角血管腫が挙げられます。そのほか、眼症状として角膜混濁、耳症状として難聴、消化器症状として下痢あるいは便秘、腹痛がみられることもあります。

腎臓の細胞へのGb3の蓄積に伴い腎機能障害が進行すると、蛋白尿を呈するようになります。ファブリー病と診断された患者さんでは、過去に学校健診で蛋白尿を指摘された経験を持つ場合が少なくありません。もちろん、蛋白尿の原因は数多く存在し、また、何らかの疾患でなくても蛋白尿を呈することがありますので、蛋白尿のみをファブリー病を疑う根拠とすることは現実的ではありません。しかし、蛋白尿に加えて四肢末端疼痛、発汗低下といった特徴的な症状を一つ以上認める場合は、積極的にファブリー病を疑うべきです。当院ではファブリー病を見逃さないために、これまでにファブリー病の存在を示唆する症状を経験していないか、家族や親戚に若年で心筋症や腎不全、脳梗塞を発症した方がいないかを簡便にチェックできる問診票を作成し、2019年度から学校健診で蛋白尿を指摘された方にこれを用いています。

治療選択肢のさらなる広がりに期待

ファブリー病の治療法としてα-Gal酵素製剤を2週間に1回点滴静注する酵素補充療法が開発され、既に10年以上が経過しています。酵素補充療法では、患者さんの転帰を、腎障害、心筋症、複合イベント、寿命の観点から既報の未治療例と比較検討した報告があります1)。ファブリー病の治療目標は、第一に重要臓器のイベント発現の予防あるいは発現までの期間の延長、そして生命予後の改善ですが、これらに加えて、四肢末端疼痛や難聴、消化器症状といったQOLに影響を及ぼす症状を適切に評価し、そのコントロールを目指していくことも重要です。

最近では、α-Galの立体構造を安定化することによって、本来の酵素の働きを促進するシャペロン療法という治療法も新たに登場しました(治療反応性のある遺伝子変異を伴う16歳以上の患者さんが対象)。各治療法のメリットとデメリットについて説明を受けた上で、患者さんとご家族が希望する治療法を選択できるようになったことは、好ましい状況です。今後も、治療選択肢がさらに増えていくことを期待しています。

小児だけでなく、成人の疑い例にも対応します

日々、多くの患者さんを診療する中で、ある特定の疾患だけをピックアップすることは難しいかもしれません。ですが、少なくともファブリー病という疾患があり、小児でも成人でも発症する可能性があること、また、疾患特異的な症状は乏しいものの、手足が痛い、汗をかきにくいといった症状が特徴であることを、頭の片隅に置いていただきたいと思います。

望ましい形は、一部の専門家だけでなく、循環器内科をはじめファブリー病の患者さんを診る可能性がある診療科の医師にもファブリー病について知ってもらい、患者さんがどの診療科を受診してもファブリー病を見逃さない体制を整えていくことだと思います。ファブリー病に限りませんが、ありふれた症状の背後にまれな疾患、重大な疾患が隠れていることがありますので、1例1例、丁寧に対応していくことが大切だと感じています。

ファブリー病との関連が疑われる症状が一つでもみられる際は、問診で既往歴、家族歴をご確認ください。疑いがさらに強まる場合や、判断に迷う場合は、いつでもご紹介ください。ファブリー病疑い例であれば、小児だけでなく成人にも対応いたします。

  1. Beck M, et al.: Mol Genet Metab Rep 3: 21-27, 2015
医療機関名称 和泉市立総合医療センター 小児科
住所 〒594-0073 大阪府和泉市和気町4-5-1
電話番号 0725-41-1331(代表)
医師名 部長 澤田 智(さわだ とも)先生
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