小児期の手足の痛みに潜む、重要な疾患を見逃さないために

  • 診療科小児科
  • エリア愛媛県東温市

中野 直子(なかの なおこ)先生

愛媛大学医学部附属病院 小児科 助教

中野 直子(なかの なおこ)先生

手足の疼痛の背後に、重要な疾患が隠れている可能性があります

愛媛大学医学部附属病院小児科は、周囲の基幹病院との連携の下、愛媛県内の小児医療で中心的役割を担っています。小児外科や心臓血管外科を擁していることもあり、心疾患を含む先天性疾患の患者さんが多数当院に来られています。

私自身は小児科の中で特にリウマチ・膠原病を専門としており、手足の疼痛を訴える患者さんを診療する機会が多くあります。小児期の手足の疼痛は、成長痛などと見なされ放置されてしまうことも少なくありません。しかし、痛みの背後には、重要な疾患が隠れている可能性があるため、痛みの部位や発現の仕方を詳しく診る必要があります。私が経験した1例目のファブリー病患者さんは、リウマチとは異なる疼痛を呈する方でした。

小児期のファブリー病の主な自覚症状は、手足の疼痛と腹痛

ファブリー病は、加水分解酵素α-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の欠損または活性低下により、その基質であるグロボトリアオシルセラミド(Gb3)が様々な組織・臓器に蓄積することにより、全身に多彩な障害を来す疾患です。X連鎖性の遺伝形式であるため男性では比較的明確に症状が発現しますが、女性では無症状のまま経過する場合から、軽症、重症まで様々です。

小児期に多くみられる手足の疼痛はGb3が神経に蓄積することで生じるものであり、抗炎症薬では奏効しません。痛みの発現部位は主に手掌と足底で、体温上昇時に特に痛みが生じやすくなります。女児では症状を自覚していないことがありますが、入浴時や運動時、緊張したときなどに痛みがないかと尋ねると、「ジンジンした感じがある」と訴えることがあります。男児は日常的に痛みがあるのが普通の状態と思い込み、痛みを周囲に伝えないことがあるため、同様に具体的な状況を例に挙げて問診することが重要です。

腹痛などの消化器症状も、小児期からよく認められる症状の一つです。しかし、一般的な腹痛に埋もれて見逃されている可能性があります。

近年はファブリー病の症例報告が増え、受診例の診断率は向上しつつあると思われます。その一方で、小児期から手足の疼痛や腹痛を抱えながらも受診しないまま経過してしまう例があることが問題です。

私が経験した2例目の患者さんは、就学時の健診で視力低下を指摘され、受診した眼科でファブリー病の症状の一つである角膜混濁が偶然見つかったことがファブリー病の診断につながりました。角膜混濁があっても通常は無症状なので、将来的には、ファブリー病のスクリーニングを小児健診に含めることも検討していくべきかもしれません。

遺伝子解析前の遺伝カウンセリングの重要性

ファブリー病の診断は、男性ではα-Gal活性測定によってほぼ診断することが可能ですが、女性ではファブリー病であってもα-Gal活性が正常範囲の値を示すことがあるため、遺伝子解析の実施が検討されます。

遺伝子解析を行う前には、適切かつ十分な遺伝カウンセリングを実施することが重要です。近年、他の疾患も含めて遺伝子解析が実施される機会が増えましたが、適切・十分なカウンセリングが行われていないために不安が増大したり、家庭内・家族間の問題に発展したりといった弊害が生じている場合があります。カウンセリングにより誤解・偏見を解き、ご家族も納得した上で遺伝子解析を受けていただく必要があります。

当院の臨床遺伝医療部では、遺伝性疾患そのものに関する教育を含めて時間をかけてカウンセリングを実施するとともに、検査結果をお伝えする際にもカウンセリングを行っています。将来、患者さんが結婚・出産を考える際にもあらためてカウンセリングが必要となりますので、その重要性をご理解いただけるよう努めています。

治療開始後、成長に応じて他科受診を促すことも小児科の役割

ファブリー病の治療法としては、酵素製剤を2週間に1回点滴静注する酵素補充療法があります。ファブリー病に伴う長期の疼痛は精神的にも負荷を与えるため、酵素補充療法によって可能な限りその軽減を図るべきです。また、脳、心臓、腎臓などの臓器障害の抑制を目指すことも、酵素補充療法の目的の一つです。自覚症状がない例でも、これらの臓器障害が不可逆的となる20歳ごろまでには酵素補充療法を開始すべきと考えます。継続することが重要な治療法ですので、ご家族の協力を仰ぎつつ、今後は県内のクリニック等との連携体制も構築・整備していきたいと考えています。最近では、一部の遺伝子変異を有する場合はシャペロン療法も選択肢として考慮できるようになりました。治療法の選択・切り替えについては検討すべき課題もありますが、今後の知見の集積に期待したいと思います。

小児科で治療中のファブリー病患者さんは、やがて成人の内科系診療科への移行を検討すべき時期が訪れます。ファブリー病のような全身疾患の診療では、小児科医も継続的に患者さんの成長過程を見守り、適切な時期に他科受診を促すなどの助言を行うことも大切だと考えています。

ファブリー病を見逃さぬよう、原因不明の疼痛などはご相談ください

疼痛を主訴として小児科を受診する患者さんの中に、ファブリー病の方がおられる可能性があります。まれではありますが、ファブリー病という疾患があることを頭の片隅に留めておいていただき、原因不明の手足の痛みなどに遭遇された際は、一度ご相談いただきたいと思います。

医療機関名称 愛媛大学医学部附属病院 小児科
住所 〒791-0295 愛媛県東温市志津川454
電話番号 089-964-5111(代表)
医師名 助教 中野 直子(なかの なおこ)先生
ホームページ https://www.hsp.ehime-u.ac.jp/外部サイトを開く