臨床症状や家族歴を丁寧に聴き取る姿勢が大切

  • 診療科腎臓内科
  • エリア秋田県秋田市

小松田 敦(こまつだ あつし)先生

秋田大学大学院医学系研究科 血液・腎臓・膠原病内科学講座 准教授

小松田 敦(こまつだ あつし)先生

県内唯一の特定機能病院として、広範な診療圏をカバー

秋田大学医学部附属病院は、県内唯一の特定機能病院です。診療圏としては秋田県全域(人口約98万人)だけでなく、山形県鶴岡市(同約12.5万人)、酒田市(同約10万人)を含む庄内地方までをカバーし、常勤の専門医がいない施設に対しては当科から腎臓外来、膠原病外来などへの外来応援も行っています。

当科には、腎臓の精査のために年間約100例の患者さんが他院・他科から紹介されてきます。これまでに顕在化し得たファブリー病の患者さんは数例ですが、見過ごすことのないよう、十分に留意して診療に臨んでいます。また、県内では以前から、維持透析患者を対象としたファブリー病スクリーニングを実施しています。

ファブリー病は多彩な症状・所見を呈する

ファブリー病はX連鎖性の遺伝形式をとる遺伝性疾患であり、ライソゾーム内に存在する加水分解酵素α-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の欠損、またはその活性低下により糖脂質グロボトリアオシルセラミド(Gb3)が血管内皮細胞、心筋細胞、神経節細胞など様々な細胞に蓄積することによって発症します。

古典型ファブリー病では幼少期より四肢末端疼痛や発汗障害がみられ、これらの症状が成人以降も持続する場合があります。その他の特徴的な所見として、皮膚科領域では被角血管腫、眼科領域では渦状の角膜混濁が知られています。耳鼻科領域の症状として、聴力障害やめまいを伴う場合もあります。また、成人期には長期的なGb3の蓄積によって、腎臓、心臓、脳といった重要臓器に生命予後を左右する障害がもたらされる可能性があります。

こうした症状・所見や家族歴からファブリー病が疑われる症例に対しては、血液中のα-Gal活性を測定することによって診断を行います。男性であれば活性低下が示されればほぼ確定的ですが、女性では患者であってもα-Gal活性が正常範囲である場合があるため、遺伝子解析等の結果も踏まえて診断します。

腎障害を伴う場合、特徴的な腎生検所見として糸球体上皮細胞の腫大やzebra bodyと呼ばれる層板状構造物などが認められます。当科では、組織採取から光学顕微鏡・電子顕微鏡検査までを医師自身が担当しています。

臓器障害が進行する前に治療を開始することが望ましい

ファブリー病に伴う腎障害に対しては、降圧療法などの対症療法を行います。腎不全例に対して尿毒症症状の改善のために経口吸着薬を用いたり、血管・血流障害例に対して抗血小板薬を用いたりする場合もあります。治療選択肢が対症療法のみであった時代、男性ファブリー病患者の推定生存年齢(中央値)は60歳でした1)

現在では、α-Gal酵素製剤を用いた酵素補充療法(ERT)などの治療法が開発されています。ERTにより腎臓、心臓、脳血管の将来のイベントリスクの低減が期待できます2)が、臓器障害が進行してしまった後ではERTも奏効しがたくなります。そのため、早期にファブリー病が顕在化し、臓器障害も進行する前に治療を開始することが望まれます。

ERTの開始時期に関しては様々な見解がありますが、男性では確定診断後、速やかに治療を開始すべきです。女性も臓器障害を伴っている場合は診断後早期に治療を開始すべきですが、まだ臓器障害が生じていない場合は、定期的な経過観察を行います。その上で、蛋白尿や心電図異常が生じた時点で迅速に治療を開始できるよう、事前に難病医療費助成制度の申請手続きなどを進めておきます。また、患者さんが治療を中断してしまうことのないよう、治療の目的や将来の見通しについてあらかじめ十分に説明しておくことも大切です。

軽度の尿蛋白であっても、背後に重大な疾患が隠れている可能性がある

日常臨床で腎機能低下や心肥大に遭遇し、高血圧や糖尿病を合併している場合、こうした基礎疾患にばかり意識が向けられがちですが、まれにファブリー病のような疾患が隠れていることがあります。生活習慣病と決めつけず、臨床症状や家族歴を丁寧に聴き取る姿勢が大切です。ファブリー病に関しては、手足の痛み、汗をかきにくい、被角血管腫、聴力低下、めまいなどの症状に注目します。しかし、女性では目立った症状がない非典型的な例もあるため、注意を要します。

ファブリー病の症状・所見に遭遇する可能性がある診療科は、多岐にわたります。私は、内科、循環器科、腎臓内科、神経内科、眼科、耳鼻科など多くの診療科の医師にファブリー病について知っていただくため、研究会などの場で積極的に情報を発信するよう努めています。専門の腎臓内科医の立場からは、たとえ尿蛋白が(1+)のレベルであっても、背後に重大な疾患が隠れている可能性があることを強調しておきたいと思います。蛋白尿が長期に持続しているような症例については、ぜひ精査・紹介をご検討ください。

  1. Schiffmann R, et al.: Nephrol Dial Transplant 24(7): 2102-2111, 2009
  2. Beck M, et al.: Mol Genet Metab Rep 3: 21-27, 2015
医療機関名称 秋田大学医学部附属病院 腎臓内科
住所 〒010-8543 秋田県秋田市広面字蓮沼44-2
電話番号 018-834-1111(代表)
医師名 准教授 小松田 敦(こまつだ あつし)先生
ホームページ http://www.hos.akita-u.ac.jp/外部サイトを開く