早期発見・早期診断のために、小児科医が果たしうる役割が大きい疾患

  • 診療科小児科 / 腎臓内科
  • エリア愛知県大府市

田中 一樹(たなか かずき)先生

あいち小児保健医療総合センター 腎臓科 医長

田中 一樹(たなか かずき)先生

愛知県唯一の小児医療専門施設として

当センターは愛知県唯一の小児医療専門施設として、高度、先進的な医療を受けもち、愛知県のみならず岐阜県、三重県を含む東海3県の小児医療の一翼を担っています。近年は小児三次救急医療にも対応すべく、2016年に小児ER(救命救急室)、手術室7室およびPICU(小児集中治療室)16床を備える救急棟を開設、同年に小児救命救急センターの指定を受けました。

こうした小児救急医療体制の整備・強化とともに、慢性疾患をもつ患児やそのご家族に寄り添い、長期的な視点に立った医療・ケアを提供することも、当センターの重要な役割です。その中で私たち腎臓科は、「腎臓の病気に取り組むすべてのお子さんとご家族に笑顔を届けたい」を診療理念に掲げ、学校検尿で発見される軽微な尿異常から末期腎不全に対する腎移植後の管理まで、小児のあらゆる腎疾患に対応しています。初期には蛋白尿を呈し、進行すると腎不全に至るリスクがあるファブリー病も、その一つです。

丁寧な病歴聴取が早期発見・早期診断につながる

ファブリー病は、ライソゾーム内に存在する加水分解酵素α-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の欠損あるいは活性低下を原因とする遺伝性疾患です。α-Galによって分解されるべき糖脂質グロボトリアオシルセラミド(Gb3)が分解されることなく細胞内に異常蓄積し、全身の様々な組織・臓器に障害をもたらします。

小児期に現れる主な症状の一つは、体温上昇時などに生じる四肢末端疼痛です。「お風呂に入った後に、手足がジンジンする」という訴えがよく聞かれます。発汗障害(低汗症・無汗症)がみられることも多く、体温調節ができないためにうつ熱を繰り返していた症例を経験しています。そのほか、渦状の角膜混濁や被角血管腫も代表的な症状です。臓器へのGb3の蓄積が進行する思春期・青年期以降になると腎障害や心障害が目立ち始め、重篤化して腎不全や心不全に至ることもあります。このようにファブリー病の症状は多様であり、その病態や出現時期も症例ごとに様々です。

留意したいのは、小児期の代表的な症状が家庭内では「当たり前」のことと認識され、異常に気付かれていないケースがあることです。例えば入浴後に手足がジンジンすることや汗をかきにくいことが日常的な出来事である場合、患児本人も家族もこれを異常と思わず、問診の場で訴えとして挙がりにくいことがあります。臨床所見や検査所見から少しでもファブリー病が疑われる場合は、病歴聴取を丁寧に行うことによりこれらの症状の有無を確認し、早期発見・早期診断につなげていただきたいと思います。

診断の基本は酵素活性測定、女性では遺伝子解析も

診断の基本は、血液中のα-Gal活性測定です。ファブリー病はX連鎖性の遺伝形式をとることから、男性であれば酵素活性の低下が証明されれば診断をほぼ確定できます。一方、患者であっても酵素活性が正常範囲内を示すことがある女性の場合は、酵素活性測定だけでなく、遺伝子解析の結果などに基づいて診断する必要があります。

蛋白尿は、ファブリー病に伴う腎障害の徴候を示唆する重要な所見です。当科では、学校検尿などで蛋白尿が指摘され、その原因が不明である場合、腎生検の実施を考慮しています。また、ファブリー病に特異性の高い尿所見として、尿沈渣中のmulberry小体が知られています。

患児に向けて、疾患や治療法について時間をかけて説明することが重要

ファブリー病は希少疾患ですが治療法が開発されています。その一つとして、α-Galの活性を補う酵素製剤を隔週で点滴静注投与する、酵素補充療法が広く行われています。臓器障害が不可逆的な段階まで進行する以前の、できるだけ早期に治療を開始することが望まれます。

酵素補充療法の課題は、治療アドヒアランスの維持です。2週間に1回の通院が必要であることから、治療中断を防止するためのアプローチが求められます。当科では、患児と親御さんに向けて時間をかけて丁寧に疾患や治療法について説明するよう努めています。患児が治療の必要性をその年齢なりに理解し、自ら進んで穿刺のために腕を差し出してくれるようになることを目指しています。親や医療関係者が治療を強制していては、本質的な問題解決にはなりません。治療に向き合う意識を養い、何らかの成功体験を得てもらうことが、アドヒアランスの維持・向上はもとより、病気と付き合いながら生活する上での、困難に立ち向かう勇気を与えることにもつながると考えています。

疑わしい症例に出会った際は、ためらうことなくご相談ください

遺伝性疾患は一般的に成人が家系内発端者になることが多いですが、ファブリー病では小児患者を発端者として家系内の患者の診断につながる場合があり、私も経験しています。ファブリー病の早期発見・早期診断のために、小児科医の果たしうる役割は大きいと言えます。非特異的な症状からでもファブリー病を疑う意識をもって診療に臨み、病歴・家族歴をしっかりと聴取する姿勢が重要だと思われます。治療法が確立している現在、ファブリー病を早期に発見・診断できるか否かは、患児の一生を左右する可能性があります。疑わしい症例に出会った際は、ためらうことなく当センターにご相談ください。

医療機関名称 あいち小児保健医療総合センター 腎臓科
住所 〒474-8710 愛知県大府市森岡町7-426
電話番号 0562-43-0500(代表)
医師名 医長 田中 一樹(たなか かずき)先生
ホームページ https://www.achmc.pref.aichi.jp/外部サイトを開く