心筋症の原因疾患を見極めることが、ファブリー病の診断につながります

  • 診療科循環器内科
  • エリア北海道札幌市

矢野 俊之(やの としゆき)先生

札幌医科大学附属病院 循環器・腎臓・代謝内分泌内科 講師

矢野 俊之(やの としゆき)先生

心症状に潜むファブリー病の早期診断に努める

私が初めてファブリー病の患者さんに出会ったのは、10年ほど前のことです。心筋症として当科に紹介された患者さんの診療を進める中で、その原因がファブリー病であることがわかりました。ファブリー病は多彩な臨床症状を呈する疾患ですが、心症状を主体とするサブタイプが存在することが知られており、心筋症や不整脈、心不全の原因疾患となっている場合があります。治療法として酵素補充療法が確立していることから、心症状を呈する症例ではファブリー病を念頭に置いて原因検索を行い、早期に顕在化できるよう努めています。

心症状主体のファブリー病に多く認められる肥大型心筋症

ファブリー病は、ライソゾーム中に存在する加水分解酵素であるα-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の欠損あるいは活性低下により引き起こされる遺伝性疾患です。本来α-Galによって分解されるべき糖脂質グロボトリアオシルセラミド(Gb3)が心筋や血管内皮、腎臓の細胞などに異常蓄積し、様々な障害をもたらします。

小児期に発症する古典型ファブリー病の代表的な症状は、四肢末端痛や無汗症・低汗症、被角血管腫などです。小児期以降に遅れて発症する遅発型ファブリー病には、心症状あるいは腎症状が主体の各サブタイプがあります。当科で治療しているのは、主に遅発型ファブリー病の患者さんです。私が診療する心症状主体の患者さんの多くは、肥大型心筋症を伴っています。肥大型心筋症から心不全や致死性不整脈に進展した後に初めてファブリー病の診断に至る患者さんが多いことから、より早期の診断が求められています。ファブリー病に特徴的な心エコーやMRIの画像所見はいくつか知られていますが、その見極めは必ずしも容易ではないため、原因不明の肥大型心筋症を診た際は、早期に専門医にご紹介頂けたらと思います。

酵素活性の明らかな低下が認められない場合は心筋生検も考慮

ファブリー病のスクリーニングは、α-Gal活性測定によって行います。ファブリー病はX連鎖性の遺伝性疾患であり、ヘミ接合体の男性患者はα-Gal活性が著明に低下するため、その活性測定によってほぼ確定診断が可能です。一方、ヘテロ接合体の女性患者はα-Gal活性のばらつきが大きく、活性低下が認められないこともあるため、α-Gal活性測定のみでは診断できない場合があります。その際は遺伝子検査や病理検査の結果等に基づき診断します。

当科では、α-Gal活性測定の結果、酵素活性の明らかな低下が認められない女性患者さんに対しては、できる限り心筋生検を実施するようにしています。心筋症診断における心筋生検の利点はファブリー病以外の疾患も含めて鑑別できる点にあります。不整脈の治療を目的にアミオダロンが長期投与されている症例などではファブリー病に似た電顕像を示すことがあり、偽陽性に注意が必要ですが、心筋生検は遺伝子解析と並んで有用な情報を提供してくれます。

そのほか、尿沈渣中のmulberry小体の存在や、Gb3の誘導体であるグロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso-Gb3)の血漿中濃度も、ファブリー病のスクリーニングに有用な検査です。

酵素補充療法は継続が何より重要

ファブリー病の治療法として、2週間に1回の点滴静注によりα-Galの活性を補う酵素補充療法が確立しています。既に10年以上の臨床実績がありますが、通院頻度の高さや、投与中・投与後にinfusion associated reaction(IAR)による悪寒や頭痛などが起こる場合があることから、アドヒアランスが低下しがちです。酵素補充療法は継続していただくことが何より重要であるため、患者さんには長期的な視点で治療に向き合っていただかなくてはなりません。そのため患者さんには、仮にファブリー病が放置されて腎障害を合併し、透析導入に至った場合は週3回の通院が必要となることをお伝えするなど、治療継続の重要性を意識頂けるように努めています。

最近、ファブリー病の新規治療法としてシャペロン療法が登場しました。今後も、遺伝子治療を含めて新たな治療法の開発に期待が寄せられています。その実現まで可能な限り良好な状態を維持するという意味でも、酵素補充療法の役割は大きいと考えています。

一人の患者さんの診断が、家系内の潜在患者の早期診断・早期治療につながる

ファブリー病の診療を通じて私が学んだことは、心筋症の患者さんに遭遇した際に、その原因疾患を見極める努力を怠ってはならないということです。特発性・遺伝性肥大型心筋症では原因治療はできませんが、ファブリー病であれば酵素補充療法によって原因治療が可能です。肥大型心筋症疑いの患者さんに遭遇した際に包括的な精査を行い、“ファブリー病ではないという確認印”を押しておくことが重要です。既往歴・現病歴を詳細に聴き取り、幼少期に四肢末端痛や無汗症・低汗症で苦しんだ経験があったり、腎障害を合併していたりする場合は積極的にファブリー病を疑い、早期にご紹介ください。

また、一人のファブリー病患者さんの診断は、家系内の潜在患者の早期診断・早期治療にもつながります。高齢者を中心に、検査を受けることに対して前向きでない方もいらっしゃいますが、そのような患者さんには、お子さんやお孫さんの早期診断・早期治療につなげるためにも専門医療機関の受診を促して頂けたらと思っております。

当科は、ファブリー病による心症状と腎症状の双方に対応できる診療体制を備えています。当院には臨床遺伝センターも設置されていますので、ファブリー病に関してご不明な点がありましたら、何でもご相談ください。

医療機関名称 札幌医科大学 循環器・腎臓・代謝内分泌内科
住所 〒060-8543 北海道札幌市中央区南1条西16-291
電話番号 011-611-2111(代表)
医師名 講師 矢野 俊之(やの としゆき)先生
ホームページ http://web.sapmed.ac.jp/hospital/外部サイトを開く