肥大型心筋症に潜在するファブリー病

  • 診療科循環器内科
  • エリア栃木県下都賀郡

豊田 茂(とよだ しげる)先生

獨協医科大学病院 心臓・血管内科 准教授

豊田 茂(とよだ しげる)先生

心血管疾患に対する専門性の高い医療を提供

獨協医科大学病院は、栃木県下および群馬県・茨城県の一部地域を含む医療圏の三次救急医療と、がん診療をはじめとする高度医療を担う特定機能病院です。心臓・血管内科では24時間体制を敷き、また、当院3診療科(心臓・血管内科、心臓・血管外科、循環器・腎臓内科)の医師がコメディカルスタッフとともに診療にあたるハートセンターでは、各診療科の枠組みを超え、一致協力して診療を行うことで、心血管疾患に対する専門性の高い医療を提供しています。さらに植込型補助人工心臓実施施設として、重症心不全を数多く診療しています。

その中で私は、循環器専門医として主に心不全を担当し、拡張型心筋症や肥大型心筋症、ファブリー病を含む二次性心筋症などを診療しています。また、超音波専門医として多くの超音波診断を担当しています。

検査所見、臨床症状に注目し、酵素活性測定、遺伝子解析によって診断

ファブリー病はまれな疾患と思われがちですが、国内で実施されたハイリスクスクリーニングでは、左室肥大を呈する男性の約3%(230例中7例)にファブリー病が確認されています1)。私もこれまでに、肥大型心筋症として加療されていた患者さんの中から、数例のファブリー病を見いだした経験があります。

私たちが報告した60歳代の女性症例2)は、心エコー検査で心室中隔の肥厚と、ファブリー病に特徴的な所見である左室後壁基部の菲薄化を認めたことがファブリー病を疑う契機となりました。また、尿蛋白陽性で、尿沈渣中にはファブリー病に特徴的なmulberry小体の存在を確認しましたが、古典的ファブリー病にみられる渦巻状の角膜混濁を伴っていませんでした。ファブリー病の症状・所見は多彩であり、個人差もあるため単一の症状・所見からこれを予測することは困難です。しかし、ファブリー病に特徴的な症状・所見が複数認められる場合は積極的に疑い、酵素活性測定の実施を検討していただきたいと思います。

ファブリー病の確定診断は、α-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の活性測定によって行います。ファブリー病はX連鎖性の遺伝形式をとるため、男性ではα-Gal活性の著明な低下によってほぼ診断することができます。一方、ヘテロ接合体の女性ではα-Gal活性が正常範囲の場合もあるため、遺伝子解析の結果や画像所見、バイオマーカーの値などに基づいて診断します。

前述した尿沈渣中mulberry小体の存在のほか、蓄積する糖脂質グロボトリアオシルセラミド(Gb3)の誘導体であるグロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso-Gb3)の血漿中濃度も有用なバイオマーカーとして注目されており、当科でも診断の参考にしています。Lyso-Gb3高値よりファブリー病を疑い、腎生検等の精査を実施したことで診断に結びついた症例も経験しています。

治療後の変化を提示し、患者さんのモチベーションの維持・向上を図る

心肥大や心不全を伴うファブリー病に対しては、対症療法として病態に応じた薬物治療を行うとともに、根本治療として酵素補充療法の施行が検討されます。

ファブリー病と診断されることは、患者さん、ご家族にとって大変重い出来事です。私は診断をお伝えする際、現在では酵素補充療法という治療法がある疾患であること、治療によって症状の改善、進行の抑制が期待できることを説明します。酵素補充療法は継続することが重要ですが、治療開始時には、長期にわたって治療を続けることに対して不安を覚える患者さんが大半です。当科ではLyso-Gb3の値をお示しするなど、治療後の変化を知っていただくことによって、患者さんのモチベーションの維持・向上を図っています。
また、薬剤に反応性のある一部の遺伝子変異を有する場合、最近登場したシャペロン療法も新たな治療選択肢となります。今後も新規治療法・治療薬の開発に期待が寄せられますが、治療選択肢が増えることは、現在治療中の患者さん、これから治療を開始する患者さんの気持ちを前向きにさせるためにも重要だと考えています。

肥大型心筋症の確定診断を要する場合はご相談ください

私が最初にファブリー病を診断できたのは、肥大型心筋症の女性例で、腎機能が低下し始めていることに気づいたことがきっかけでした。当時、学会などでファブリー病の話題を見聞きしていたため、疾患名が頭の片隅にあったのです。私の経験から、小児期の手足の疼痛、被角血管腫、難聴、角膜混濁などファブリー病の代表的な症状・所見を知っておくこと以外に、特徴的な心エコー画像を一度でも見ておくと、印象に残り、気づきやすいと思います。医師はもとより、心エコー検査を担当する検査技師の方々にもこの疾患について知っていただき、疑わしい画像を見た際は、鑑別すべき疾患の一つにファブリー病を挙げていただきたいと思います。

また、ファブリー病疑い例に限らず、心電図異常や左室肥大が認められる症例は、心筋生検を含めた肥大型心筋症の確定診断が必要となりますので、早期に専門医にご相談ください。たとえ1回の心エコー所見のみであっても、気になることがあればお尋ねください。特に肥大型心筋症の患者さんが新たに房室ブロックを呈するようになった場合は病期が進行している可能性がありますので、積極的にご紹介いただきたいと思います。

  1. Nakao S, et al.: N Engl J Med 333(5): 288-293, 1995
  2. 豊田茂, 他: 循環器専門医 25(1): 100-105, 2017
医療機関名称 獨協医科大学病院 心臓・血管内科
住所 〒321-0293 栃木県下都賀郡壬生町大字北小林880
電話番号 0282-86-1111(代表)
医師名 豊田 茂(とよだ しげる)先生
ホームページ http://www.dokkyomed.ac.jp/hosp-m.html外部サイトを開く