ファブリー病に伴う心障害は生命予後を左右――見過ごすことなく早期発見を

  • 診療科循環器内科
  • エリア山梨県甲府市

中村 政彦(なかむら まさひこ)先生

山梨県立中央病院 院長補佐
循環器内科・臨床試験管理センター統括部長兼任

中村 政彦(なかむら まさひこ)先生

全身に多彩な症状を引き起こすライソゾーム病のひとつ

ファブリー病は、グロボトリアオシルセラミド(Gb3)等の糖脂質を分解するライソゾーム酵素であるα-ガラクトシダーゼ(α-Gal)が欠損、あるいはその活性が低下することによって発症する、ライソゾーム病のひとつです。分解されなかった糖脂質が血管内皮細胞や心筋細胞、神経節細胞など様々な細胞内に蓄積し、全身に多彩な症状を引き起こします。

α-Galをコードする遺伝子(GLA遺伝子)はX染色体上に存在し、X連鎖性の遺伝形式をとります。ヘミ接合体となる男性では小児期に四肢末端疼痛や低汗症、被角血管腫といった典型的な症状が現れることが多く、古典型ファブリー病と呼ばれます。これに対し、成人以降に心臓や腎臓等の重要臓器に障害が現れて発見される遅発型も存在します(心ファブリー病、腎ファブリー病と呼ばれることもあります)。ただし、遅発型と見られた症例でも丁寧に問診を行うと、小児期にファブリー病によるものと思われる症状を経験していたことが判明し、実際には古典型であったという場合もあります。

ヘテロ接合体となる女性では無症状のまま経過する方がいる一方、心臓を中心に症状が現れる方や男性同様に重症化する方もおり、症状の現れ方に幅があります。ヘテロ接合体女性のファブリー病の特徴は、X染色体のランダム不活性化仮説(Lyonの仮説)1)で説明されることが多いようです。

原因不明の左室肥大はファブリー病の存在を疑うべき重要な所見

ファブリー病の頻度は、以前は古典型ファブリー病で男性4万人に1人2)、あるいは出生約11万人に1人3)などと報告されていましたが、新生児スクリーニングの報告〔イタリア新生男児37,104人中12人(約3,100人に1人)4)、日本の新生児21,170人中3人(約7,000人に1人)5)〕を踏まえると、より高頻度に存在すると考えられています。ハイリスクスクリーニングでは左室肥大男性の3.0%6)、透析を受けている男性の0.16%および女性の0.5%7)、脳梗塞男性の4.9%および女性の2.4%8)にファブリー病が確認されたことが報告されています。

しかし、日常診療の中で心疾患や腎疾患の背後に潜むファブリー病の可能性を想起することは、ファブリー病を疑うべき症状・所見についてあらかじめ知っていなければ大変困難と思われます。心症状・所見を例にとると、高血圧等の明らかな原因がないにもかかわらず、心電図上、心肥大を示唆する異常所見が見られる場合や心エコーで左室肥大が確認された場合は、その原因がファブリー病である可能性があります。こうしたケースでは病歴や家族歴を丁寧に聴取し、小児期にファブリー病を示唆する症状を経験していないか、あるいは家族・親戚にファブリー病の方や若くして心不全や腎不全、脳卒中に罹患した方はいないかを確認します。これらが確認されると、ファブリー病の可能性がより高まります。

ライソゾーム病の中では比較的頻度の高い疾患——知識を備え、感度を高めて

ファブリー病の診断は、α-Galの酵素活性測定によって行います。男性であれば活性が正常対照の10分の1以下であればその時点でファブリー病と診断することが可能です。女性はファブリー病であっても活性が正常値をとることがあるため酵素活性測定のみでは診断できず、遺伝子検査の結果等も踏まえて判断します。検査の実施に同意が得られず確定診断できない場合もありますが、そうしたケースで、なお心電図異常や心肥大、拡張機能不全等の原因を特定できない場合は、ファブリー病の可能性を念頭に置きながらフォローするよう努めています。患者さんには、心臓の定期的な検査を継続していただくことをお勧めしています。

ファブリー病の治療としては、循環器関連の症状(不整脈、息切れ、拡張期心不全、高血圧など)が見られる場合は、症状に応じた対症療法を行います。その上で、酵素製剤を2週に1回点滴静注し、α-Galの働きを補うことによって病態の改善を図る酵素補充療法の開始について検討します。酵素補充療法は臓器障害が進行する前の早期から開始することが望ましいと言えますが、導入に際しては患者さん・ご家族への十分な説明が求められます。診療を進める際には、適切なタイミングで遺伝カウンセリングを実施することも必要です。

最後に、ファブリー病は希少疾患ですが、ライソゾーム病の中では比較的頻度の高い疾患であること、また、酵素補充療法という治療法があることを強調したいと思います。ファブリー病による心臓への影響は生命予後を左右する因子のひとつですので、日々の診療で見過ごすことなく早期発見できるよう、疾患を想起すべき症状・所見に関する知識を備え、感度を高めていただきたいと思います。

  1. Lyon MF.: Nature 190: 372-373, 1961
  2. Desnick RJ, et al.: α-Galactosidase A deficiency: Fabry disease. In: The Metabolic and Molecular Basis of Inherited Disease, 8th Edition. Scriver CR, et al. (eds), McGraw-Hill (New York), pp.3733-3774, 2001
  3. Meikle PJ, et al.: JAMA 281(3): 249-254, 1999
  4. Spada M, et al.: Am J Hum Genet 79(1): 31-40, 2006
  5. Inoue T, et al.: J Hum Genet 58(8): 548-552, 2013
  6. Nakao S, et al.: N Engl J Med ;333(5): 288-293, 1995
  7. Fujii H, et al.: Am J Nephrol 30(6): 527-535, 2009
  8. Rolfs A, et al.: Lancet 366(9499): 1794-1796, 2005
医療機関名称 地方独立行政法人山梨県立病院機構山梨県立中央病院
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医師名 院長補佐(循環器内科・臨床試験管理センター統括部長兼任)
中村 政彦(なかむら まさひこ)先生
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