潜在している患者さんを治療につなげるためには、ファブリー病を強く疑う姿勢が大切

  • 診療科内科
  • エリア岩手県盛岡市

米澤 久司(よねざわ ひさし)先生

盛岡赤十字病院 脳神経内科 部長

米澤 久司(よねざわ ひさし)先生

糖脂質グロボトリアオシルセラミドの蓄積により様々な症状が現れる

2019年に盛岡赤十字病院に移動し外来・入院で神経疾患の診察をしています。
認知症疾患や急性期脳卒中の診断と加療が中心ですが、数例のファブリー病の患者さんに酵素補充療法を継続して行っています。
また若年性脳梗塞の方については男性であればろ紙法を用いてグロボトリアオシルセラミド(GL-3)の酵素活性を測定しスクリーニングをしています。尿中のマルベリー小体も検査室で確認することが可能となり診断の一助となりそうです。

ファブリー病はライソゾーム酵素α-ガラクトシダーゼ(α-Gal)の遺伝的欠損または活性低下により糖脂質の代謝が阻害され、GL-3がライソゾーム内に大量に蓄積することによって引き起こされる疾患です。GL-3の蓄積により細胞の膨化が生じ、細胞の機能障害が起こります。また、小細血管の血管内皮に蓄積すると内腔に狭窄が生じ虚血を引き起こしやすくなります。これにより全身の様々な臓器が障害されます。さらにグロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso-Gb3)などを含め、本来体内には存在しない物質が出現しこれがさらに組織に障害を与えていることも分かってきました。
症状は多岐にわたり、小児期では四肢の痛みやしびれ、低汗症、被角血管腫などが主体となり、その後、起立性低血圧などの自律神経症状、尿蛋白、角膜混濁や聴覚障害などが現れることがあります。未治療ではGL-3の蓄積が高度になる30歳代以降で、心肥大や腎不全、脳血管障害のリスクが高くなります。

末梢神経症状は神経内科領域で特に留意したい症状のひとつ

ファブリー病はX連鎖性の遺伝形式をとります。ヘミ接合体の男性はα-Gal活性が大きく低下し、小児期に発症して経年的に全身症状を呈するのが一般的です。これに対し、ヘテロ接合体の女性はα-Galの酵素活性にばらつきが見られ、残存酵素活性などにより発症時期や重症度、障害される臓器は様々です。男性の診断には濾紙法でのα-Galの酵素活性測定で顕著な低下を確認すること、女性では活性値が正常範囲である場合もあり遺伝子検査の結果を参考にします。最近ではGL-3の誘導体であるグロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso-Gb3)がバイオマーカーとして注目されており、女性の診断精度向上に期待が寄せられています。

神経内科領域で特に留意したい症状のひとつが末梢神経症状です。四肢の痛みやしびれ、灼熱痛などが、発熱時や運動で体温が上昇した時に現れやすくなります。末梢神経症状はファブリー病患者の約8割に認められると言われており1)、年齢を重ねるとともに軽減する傾向にありますが、原因不明の若年性脳梗塞患者では、この既往を確認することが診断の手掛かりになります。一般的な末梢神経障害と異なり、ファブリー病の初期には腱反射は正常に出現し、神経伝導速度も正常域である場合もあり注意する必要があります。また、ファブリー病に特徴的な脳梗塞所見として、多発性の細動脈病変が挙げられます。またMRI画像ではこの梗塞病変の他に、椎骨動脈の拡張、大脳白質病変、微小出血、視床枕病変などが挙げられ診断の一助になることもあります。

ファブリー病を強く疑う姿勢が、早期発見につながる

ファブリー病の治療としては、酵素製剤を2週間に1回点滴静注する酵素補充療法が行われます。『脳卒中治療ガイドライン2021』では、ファブリー病による脳梗塞の予防に酵素補充療法が推奨度A エビデンスレベル高とされています。脳血管障害などの重大イベントでは、症状が固定してしまうと治療効果を得られにくくなるため、できる限り早期に治療を開始することが大切です。病勢が一様ではない女性の場合は、患者さんと相談しながら治療開始時期を決めていきます。

酵素補充療法は2週間に1回という投与法や、治療効果をすぐには実感しにくいという特性から、治療アドヒアランスが低下しがちです。患者さんには治療の重要性をできるだけ細かく、かつ不安をあおることなく時間をかけて説明する必要があります。診断から治療導入においては岩手医科大学、遺伝子科と連携して遺伝カウンセリングを実施することもあります。また患者さんの都合と併せて点滴日の調節をすることもあります。

ファブリー病を早期に発見するためには、この疾患を強く疑う姿勢が求められます。健診で認められた尿蛋白を軽視してはなりませんし、発熱時の四肢の痛みやしびれの訴え、また、これらの症状で運動を嫌がる子供に遭遇したら、早期発見の契機かもしれません。コンタクトレンズの作成のために眼科でファブリー病に特徴的な角膜のらせん状混濁で見つかった症例もあります。家族歴にも注意を払い、潜在している患者さんを治療につなげていただきたいと思います。

  1. Bersano A, et al.: Acta Neurol Scand 126(2): 77-97, 2012
医療機関名称 盛岡赤十字病院 脳神経内科
住所 〒020-8560 岩手県盛岡市三本柳6地割1番地1
電話番号 019-637-3111(代表)
医師名 部長 米澤 久司(よねざわ ひさし)先生
ホームページ http://www.morioka.jrc.or.jp/外部サイトを開く