肝細胞癌の病態と治療

【監修】
慶應義塾大学医学部 病理学教室 教授 坂元亨宇 先生
福岡大学医学部 放射線医学教室 主任教授 吉満研吾 先生
がん研有明病院 画像診断部 肝胆膵領域 担当部長 上田和彦 先生

ウイルス性肝炎の進展による肝臓の変化

ALT値の上昇を伴う活動性の慢性肝炎では、長期にわたって徐々に肝細胞壊死、肝細胞再生が繰り返され、その多くが肝硬変や肝細胞癌へと進行していきます。まず、慢性肝炎による持続的な炎症反応は肝細胞に傷害を与え、肝臓全体に線維化と結節形成をもたらし、肝硬変を発症させます。
肝硬変は形態学的に小結節型、大結節型および大小結節混合型の3つに分類されます。小結節型はC型肝炎ウイルスあるいはアルコール性の肝硬変に多く、大きさがほぼ一定の小さな結節によって構成されます。
大結節型の多くはB型肝炎ウイルス性の肝硬変で、さまざまなサイズの結節が不規則にあらわれます。
肝組織における線維化と肝細胞の再生が同時に行われる中で遺伝子損傷が生じて肝細胞癌が発生します。肝細胞癌と肝硬変は合併している場合が多く、肝硬変が最も重要な肝細胞癌の前癌状態と考えられています。肝細胞癌は、肉眼的に結節型を呈する事が多く膨張性に発育するのが特徴です。

肝炎ウイルス感染から慢性肝炎、肝硬変にいたる肝小葉の変化

慢性肝炎:
初期では細胞障害性T細胞(CTL)などの炎症性細胞が浸潤し、肝細胞壊死が起こり、肝再生のための細胞分裂が繰り返されます。次の段階では門脈域を中心とした線維化が進み、門脈域の拡大が起こります。門脈域周囲、小葉内での巣状壊死による肝細胞の脱落、そして肝細胞の不完全な再生、線維化がさらに進行すると、肝小葉は大きく構造を変化させていきます。

肝硬変:
線維化の拡大や結節の増加などにより、肝小葉の虚脱とびまん的な線維性隔壁形成が起こります。慢性肝炎では肝小葉構築が保たれていますが、肝硬変になると基本的な肝小葉の構造は失われます。さらに線維化が進むと結節再生という構造を形成します。結節再生は不可逆性で、肝小葉が消失した部分に置き換わっていきます。

肝細胞癌:
肝硬変になるとかなりの確率で肝細胞癌を発症します。肝細胞癌発生のメカニズムは十分には解明されていませんが、肝細胞内のがん抑制遺伝子、がん遺伝子がウイルスによって損傷を受けて突然変異を起こすと考えられています。

肝動脈化学塞栓療法のしくみ

抗癌剤と油性ヨード造影剤、塞栓物質による肝動脈化学塞栓療法(TACE)は、腫瘍の栄養血管となる肝動脈を塞栓し、腫瘍壊死へと導く治療法です。塞栓物質のみの塞栓療法と大きく異なるのは、液体である油性ヨード造影剤を使用するために腫瘍周囲の門脈細枝や胆管周囲血管叢など微細血管の阻血が可能である点です。さらに、腫瘍局所に長期間にわたって滞留するため、高い腫瘍壊死効果を示します。

塞栓物質のみによる塞栓療法では、門脈細枝や胆管周囲血管叢などに血液の逆流がおこることがあり、流出血管周囲において局所再発の可能性がありました。肝動脈化学塞栓療法は高い腫瘍壊死効果と安全性が実証され、日本においては標準治療のひとつとなっています。

肝細胞癌の供血と排血、油性造影剤の動態

肝細胞癌に流入した血液は、被膜内の細血管を介して背景肝の類洞へ流出します。癌から流出する血液が灌流する領域は種々の画像でコロナ濃染を呈します。 滞留しやすい性質を持つリンパ管造影用の油性造影剤を肝癌の供血動脈に注入すると、肝細胞癌の血洞から排血路へ通ってコロナ濃染域に達したのち、留まることが知られています。血液が癌を通過した直後に分布するため、肝転移が生じやすいこのコロナ濃染域を塞栓することにより、再発を抑える効果が期待できます。

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