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Consonance〜統合失調症治療を考える〜

Report

VOL.1 統合失調症薬物治療の新しい流れ
〜世界的動向と日本の課題〜 <前編>

日本における統合失調症の薬物治療は現在、どのような状況にあるのか。海外の例を紹介しつつ、さまざまな課題と今後の方向性を探る。 まずは薬物治療の歴史の簡単な概観から、新しい抗精神病薬の導入、登場の意義、現状と問題点を挙げながら、日本における今後の方向性を探った。

村崎光邦氏 村崎光邦
北里大学名誉教授 CNS薬理研究所 所長
最初の抗精神病薬―クロルプロマジン

近代的な統合失調症治療の幕開けは、1952年にクロルプロマジンが臨床の場に導入されてからと言えるでしょう。それまでは鎮静剤、睡眠薬で患者さんの興奮作用を治めていましたが、 いわゆる精神病症状を治療する薬物がなくて、インシュリンショック療法やカルディアゾール痙攣、電撃療法が主に用いられ、ときにはlobotomy、lobectomyといった精神外科も用いられていました。 それである程度(患者さんの状態が)落ち着いたところで、いろいろな作業療法的治療が行われましたが、根本的な治療法はなかったんですね。

そこへクロルプロマジンが導入され、続いてフェノチアジン誘導体の薬が次々と開発されました。その中でも例えばパーフェナジン、フルフェナジンには比較的賦活するような作用があり、 チオリダジン、レボメプロマジンは鎮静作用が強いといった特徴がそれぞれあったのですが、いずれにしても初めての抗精神病作用で、幻覚・妄想に効く非常に画期的な薬の登場だったのです。

代表的な定型抗精神病薬
図:代表的な定型抗精神病薬

ハロペリドールの登場

しかしいろいろな副作用が出てきたのです。過鎮静、眠気、錐体外路系のものや、プロラクチンが上昇して生理が止まったり、女性化乳房、乳汁分泌が起こったり、 自律神経系症状、抗コリン作用もあり、便秘、鼻づまり、口渇などが起こりました。

やがてもっと副作用の少なく力価の高い抗精神病薬をと、1958年に合成されたのがハロペリドールなんです。覚醒剤のアンフェタミン、 メタアンフェタミンで統合失調症様症状が出てくることがもうわかっていましたので、それをモデルに開発されました。

ハロペリドールはフェノチアジンと違ってブチロフェノン系の化学構造を持っており、やがてブロムペリドールやメチルペリドールなど、同系統の薬剤がたくさん開発され、 日本で合成されたチミペロンもさらに統合失調症治療を進展させました。それまで電撃療法などしかなかったわれわれ精神科医にとって、非常に大きな武器となったわけです。

ところが、これらの薬はやはり錐体外路症状を出す。さらに遅発性ジスキネジアという長く後遺症として残るような困った副作用の出てくることが、大きな問題でした。

ドーパミン仮説と定型抗精神薬

他方で、これらの薬の作用機序解明の研究もされるようになりました。化学構造の異なるフェノチアジン系、ブチロフェノン系の薬が、同様な効果と副作用があるのはなぜか、 脳内のどこに作用しているのか。恐らく同じところに作用しているはずだと考えられたわけです。1963年にカールソンとリンドクビストが「ドーパミン遮断作用がこうした薬の作用機序ではないか」 と発表しました。ドーパミンの働きを止める作用のあるものは統合失調症の治療に働き、ドーパミンの活性を亢進させるものは統合失調症の症状をつくり出すことから、統合失調症のドーパミン仮説が生まれたのです。

その後、脳内のドーパミン系には中脳から行く中脳辺縁系、中脳皮質系、黒質線条体系、視床下部下垂体系の4つがあって、抗精神病作用は中脳辺縁系に関わるドーパミンの過剰活動を抑えているらしいことがわかり、 黒質線条体系のドーパミン活性の抑制によって錐体外路症状やパーキンソン症候群が起こり、視床下部下垂体系のドーパミンの抑制によって、高プロラクチン血症の起こることがわかってきました。

当時の薬は皆、抗精神病作用と錐体外路系の副作用の両方を持っている。中脳辺縁系に作用する薬は、どうしても黒質線条体系にも作用する、それが定型的なパターンということで定型抗精神病薬と呼ばれていたわけです。

定型抗精神病薬は優れた抗精神病作用を持って、われわれの日常診療を非常に進展させましたが、やはり副作用の問題がなかなか解決できませんでした。また、陰性症状に対する効果が今ひとつ不十分で、 さらに認知機能障害などを悪化させる可能性もありました。ここまでの薬が定型抗精神病薬の第一世代だったわけです。

脳内ドーパミン系と臨床症状
図:脳内ドーパミン系と臨床症状

セロトニン受容体拮抗作用への注目

1962年に開発されたクロザピンは、臨床試験において高熱、流涎、ときに痙攣発作を起こす自律神経系の強烈な副作用を呈しながらも、陽性症状にも陰性症状にも効き、錐体外路症状を起こさず、 プロラクチンも上昇させなかったため大いに注目されました。それまでの定型抗精神病薬と違い、効果と副作用が分離できるために非定型抗精神病薬と呼ばれ、1972年にヨーロッパの国々で承認されました。

ところがこの薬には無顆粒球症という、もっと恐ろしい命に関わるような副作用のあることがわかり、わが国も臨床試験が終わった段階で申請を取り下げたのです。ヨーロッパの一部を除いて他の国々でも開発が頓挫してしまいました。

当時は神経生化学的な学問がまだ未発達で、クロザピンの細かいプロフィールがわかりませんでした。しかしやがて、まずD2、D1、D4遮断作用を持っていることがわかり、 セロトニン系ではセロトニン2受容体の拮抗作用があり、それが臨床的に何かよい意味で抗精神病作用の中に含まれているのではないかと一部で言われていたのです。 そこで治療抵抗性の難治例には、白血球数をモニターしながらであればクロザピンをうまく使えるのではないかという試みが始まりました。

アメリカではケインを中心に、治療抵抗性統合失調症を対象とした二重盲検比較試験が行われ、1988年にクロザピンはクロルプロマジンよりも明らかに有効であると証明され、 1990年にFDAの承認が得られました。それは統合失調症の薬物治療にとって、大きな出来事だったのです。

一方、ハロペリドールを1958年に合成したポール・ヤンセンは、ブチロフェノン系薬物の一つであるピパンペロン(プロピタン)が、睡眠をよくする、錐体外路症状を出さない、 陰性症状にも多少の効果を示すということに注目しました。化学的なプロフィールをよく調べてみると、やはり抗ドーパミン作用よりも強いセロトニン2受容体拮抗作用を持っていることがわかったのです。

ヤンセンはピパンペロンとクロザピンがセロトニン2受容体拮抗作用を持っていることに着目、同じくセロトニン2受容体拮抗薬であるリタンセリンをつくりました。 単剤では、さほどはかばかしい臨床効果は示さなかったのですが、従来のハロペリドールのような定型抗精神病薬に上乗せして併用すると、錐体外路症状を軽減しながら陰性症状を改善することがわかりました。 それでは抗ドーパミン作用(D2受容体遮断作用)とセロトニン2受容体拮抗作用を持った薬をつくってやれば単剤でよいのではないかと、2つの作用を持った薬剤としてリスペリドンができたわけです。

リスペリドンは1984年にはつくられていたのですが、抗セロトニン作用と抗ドーパミン作用を持った薬serotonin-dopamine antagonist(SDA)と呼ばれ、臨床試験で確かにそれが証明されました。

現在の抗精神病薬

フェノチアジン誘導体
  クロルプロマジン
  レオメプロマジン
  フルフェナジン など
チオキサンチン誘導体
  チオチキセン
チエピン誘導体
  ゾテピン
ブチロフェノン誘導体
  ハロペリドール
  チミペロン
  ブロムペリドール など
イミノジベンジール誘導体
  カルピプラミン
  クロカプラミン
  モサプラミン
ベンザマイド誘導体
  スルピリド
  スルトプリド
  ネモナプリド
新規抗精神病薬(非定型抗精神病薬)
  リスペリドン
  ペロスピロン
  クエチアピン
  オランザピン

 

非定型抗精神病薬の登場

これを機に、各社はセロトニンとドーパミンの両方に作用する薬の開発に入り、日本だけではなく世界的にSDA系の新しいタイプの非定型抗精神病薬開発の時代に入ったのです。 まずリスペリドンが開発され、ペロスピロンが続き、日本ではクエチアピンが続き、オランザピンが出てきたわけです。

SDAの中でリスペリドンはブチロフェノンからの流れなんですが、オランザピンとクエチアピンは三環構造を持った薬でクロザピンの流れを含み、クロザピンの臨床効果を期待しながら、 クロザピンの持っているような恐ろしい副作用がない薬をということから生まれたのです。

日本では2001年の2月にペロスピロンとクエチアピンが承認され、同じ頃にオランザピンが出てきました。リスペリドンは1996年に一番最初の非定型抗精神病薬として登場しました。

そういった薬はわれわれにとって念願だったのです。陽性症状にも陰性症状にも効き、認知機能障害を改善させながら錐体外路症状を軽減させ、プロラクチンなどの副作用、 高プロラクチン血症などを呈しにくい。さらに効果・安全性に優れた新しいタイプのものを、第二世代あるいは新世代型の抗精神病薬としています。さらに統合失調症の治療が今後発展していくことが期待されているんです。

ペロスピロンの作用機序
図:ペロスピロンの作用機序

薬物治療は今、ターニングポイント

薬物治療は今、大きく変わっていこうとしています。新しいタイプの非定型薬が、従来のハロペリドールなどとの二重盲検比較試験によって効果も安全性も高いとなれば、 当然ながら新しい薬で治療すべきだという方向になるはずです。それでもなお現在、日本で一番使われているのはハロペリドールです。アメリカではもう7割方は新世代型の抗精神病薬で治療されているのです。 ヨーロッパはまだまだ定型抗精神病薬が中心なのですが、日本はもっと遅れている。それをどうやって変えていったらよいか。

日本での導入が遅れた理由の一つに、新世代型の薬の臨床試験が「陰性症状を中心とした慢性期患者」を対象として行われてきたことがあります。 欧米は慢性期だけでなく急性増悪期の患者さんを対象にして行っていました。ですから初発・未治療例になかなか使われず、その効果がわかりにくかったのです。さらに鎮静作用があまりないので、 興奮状態を呈する統合失調症の患者さんに最初から非定型薬で治療するなど思いもよらないということになってしまいました。

現在、一番進んでいるのがアメリカ、カナダで、それからオーストラリア。ヨーロッパの国々も徐々に新しいタイプのものに切り替わりつつありますが、日本は一番最後になってしまいました。

日本で発売されている新しい非定型薬は現在4種ありますが、まだまだです。クロザピンもジプラシドンもまだ使えません。ところが他のアジアの国々では、日本よりも先に導入されています。

「新しいタイプの薬が使えないのは日本だけ」という時代が長々と続いて、日本は統合失調症の薬物療法に遅れをとってしまいました。それでも新しいタイプの薬の使い方にまだ躊躇があるようで、乗り切れていない。

もちろん新しい抗精神病薬だけで全部片がつくとは思っていません。アメリカでもまだ3割は古いタイプの定型抗精神病薬を使っていますから。もちろん全部が全部というわけにはいかないのですが、 選択の余地が広がってきたということです。

新世代抗精神病薬へのスイッチング

1996年、リスペリドンが導入されて3年が経過しても、日本で新世代の薬が初発例に使われる割合はわずか6%でした。初発例に対しては効果・安全性に優れている薬のほうが患者さんは飲みやすいですから、新しいタイプの薬から始めたほうが良い。もちろん今まで治療している中で薬をやめて悪化した人も、何も薬を飲んでいない段階でしたら新しいものから治療して問題ないわけです。

ところが、実際に現在の統合失調症の患者さんのほとんどは今までの第一世代の薬でずっと治療を受けている。当初、新しい薬に切り替えていくときに、ゆっくりと置き換えながらやらなければいけないところバサッと切り替えたために今までの薬の離脱症状が出てきたりして、かえって状態の悪化したケースがあったのです。日本はスイッチングがどうあるべきかをよく理解しないまま切り替えてしまったのですね。その使い方と導入の仕方に失敗してしまったのです。ですが一定のルールに従ってスイッチングしていけば新しいタイプの薬をメインに使うことができる。その後、リスペリドンやペロスピロンの特徴、それからオランザピンやクエチアピンの特徴も徐々に浸透し、使い方もひと工夫、ふた工夫されるようになってきつつあります。

薬物治療は今、新しい時代を迎えたと考えています。

新世代抗精神病薬

 SDA系抗精神病薬
  リスペリドン 販売中
  ペロスピロン 販売中
  クエチアピン 販売中
  オランザピン 販売中
  クロザピン  治験中
  ブロナンセリン(AD-5423)  治験中
  ジプラシドン 治験中
ドーパミン受容体部分作動薬系抗精神病薬
  アリピプラゾール  治験中

※vol.2では「後編;日本の薬物治療の課題、変わりゆく精神科〜生き残る病院 ほか」をお届けします。

『CONSONANCE〜精神科治療のトレンド〜』Vol.1(ライフサイエンス出版(株) 2002年3月29日発行)より